ひとりの女性が抱える「自らの性に対する矛盾した感情」や、男女間に存在する「性の格差」に向き合う姿を描くことで、人の根底にある醜さと美しさを映し出すヒューマンドラマ『先生の白い嘘』。原作は、漫画の連載が開始されるや否や、その衝撃的な内容が口コミで広がり、累計部数 100 万部を突破した鳥飼茜の同名漫画。誰もが目を背けたくなるような歪んだ感情を、痛々しくもリアルに描き切った渾身の一作を禁断の実写映画化。主人公と深く関わる重要なキャラクターを演じた猪狩蒼弥にインタビューし、演じた役柄や撮影について詳しく聞いた。(取材・本文:清水久美子/編集:SCREEN編集部)

――『先生の白い嘘』で、新妻祐希役を演じることに決まった時の率直な気持ちを教えてください。

「複雑な気持ちでした。もちろん嬉しいはずなんですけど、単純に『仕事がもらえたぞ! やった!』という感情よりかは、この役をしっかりと演じて、届けるべき人に届けなければいけないという責任を感じました」

画像: 猪狩蒼弥(新妻祐希役)

猪狩蒼弥(新妻祐希役)

――どのような準備をして撮影に臨みましたか?

「まずは、原作と台本の両方をしっかり読み込んで、心の準備をしました。原作は、全8巻の大作ですが、それを約2時間にまとめるということは、その分、濃度が高くなっています。その中で、きちんとメッセージを伝えていかなければいけないという意味で、原作からも台本からも、しっかりと意図を汲み取る必要があると思いました。

ビジュアル的には、髪を伸ばしつつ、整えたりすいたりせず、ツーブロックにもできなかったので、少しうっとうしかったですね(笑)」

――新妻は、本作の中でとても重要な役なので、この映画を見た観客の心に“俳優・猪狩蒼弥”の存在が強く刻まれると思います。公開を前に、どのような気持ちが湧き上がってきますか?

「やっぱり不安ですね。撮影前の不安であれば、時間をかけて不安要素を解消していけると思うんですけど、今となっては、見てくださった方がどう評価してくれるか次第なので。不安と言うか、緊張の方が近いかな」

――新妻という人物をどんな風に捉えて演じましたか?

「新妻は反抗期なんだけど、反抗したいのに、する気力がないみたいな感じだと思いました。だから、もう黙るしかないみたいな無気力さが悪循環となっている。そんな時に、バイト先で嫌なことがあったり、学校で悪口を言われたりして、悩んでいる彼の前に、同じような境遇の先生が現れて、すごく輝かしく見えたんでしょうね。

 新妻のそういう感情を俯瞰で描いている、原作の鳥飼(茜)先生も、脚本の安達(奈緒子)さんも本当にすごいと思いました。台本に書いてあることが、よく理解できました」

――先生=原美鈴を演じた主演の奈緒さんの演技を間近で見て、いかがでしたか?

「いや、もう光ですよ! この作品で唯一、自分=新妻の味方をしてくれたのは先生ですし、そういう意味でも、心の拠り所みたいな感じのポジションを演じた奈緒さんは、俺にとって光でした。

画像: 奈緒(原美鈴役)と猪狩蒼弥

奈緒(原美鈴役)と猪狩蒼弥

台本を読んでいるから、この後どうなるのかという流れは分かってはいるけれど、新妻のその時その時の感情で考えたら、先生に対する見方は1分1秒で変わっていくわけじゃないですか。そんな先生を、奈緒さんは完璧に演じていらっしゃって、眩しかったです」

――奈緒さんは、どんな方でしたか?

「とても優しかったです。本当に先生みたいな感じで。役者の先輩として、未熟な後輩を優しく包み込んでくれましたし、とても温かい方でした。好きなように演じてほしいと言ってくださったのが印象的でした。

画像: 『先生の白い嘘』で物語の鍵を握る重要な役を演じる、猪狩蒼弥インタビュー

『私も猪狩くんを心の頼りにしているよ』と言ってくれたりして。本当に光でしたね。実は、めっちゃ孤独だったんですよ。1カ月くらい富山で撮影していたんですが、(HiHi Jetsの)メンバーもいないし、話せるのは三木(康一郎)監督とプロデューサーさんぐらいだったから。監督やプロデューサーと、ずっとお喋りするわけにもいかない中で、奈緒さんには精神的にめちゃくちゃ救われました」

――撮影期間中、思い出に残っていることは?

「撮影の終盤頃に、奈緒さんと一緒にアイスを食べたことかな。控室が古民家みたいなところだったんですが、そこでアイスを食べながら、『もうすぐ終わっちゃうね……』といったお話をしたのは、思い出深いですね」

――この映画に出演して、新妻を演じたことで、猪狩さんにとって、何か変化はありましたか?

「そうですね、一つ自信はついたような気がします。新妻を演じ切れたのは、自分としての初めの一歩だったので。そこを踏み出せたのは大きかったです。これまで、お芝居をわざと遠ざけていたわけじゃないけれど、『自分はそっちじゃない』みたいな感じで、勝手に思っているところがあって。でも、今回この映画に出演して、お芝居を楽しいと思えました。

 これから、役者として求めていただけるようになりたいなと思います。何か自分にはまる役があって、自分が作品の役に立てるような、そんな作品と出会えたら、すごく光栄なことだと思っています」

――先ほど、撮影期間中にメンバーがいなくて孤独だったとお話ししていましたが、この映画への出演をメンバーは何て言っていますか?

「基本、無反応です。割といつもそうなんですよ(笑)。俺も、ほかのメンバーがドラマをやることとか知らなかったりするし。グループのスケジュールが変わったことで、『あ、ドラマやるんだ』みたいな感じで知ることが多くて」

――ぜひ、この映画の猪狩さんの演技を観て、メンバーの反応を知りたいです! HiHi Jets5人全員で出演したドラマ「全力!クリーナーズ」の監督も、『先生の白い噓』の三木監督でしたよね。

「そうです。なので、今回の撮影前に、一緒にご飯を食べに行かせてもらったんですが、いい意味で大雑把な方で(笑)。シリアスな作品に出演するのは初めてで不安だったし、監督にいろいろ教えていただきたかったんですけど、具体的なことは特に話してもらえず、演技のいろはの“い”くらいの話だけでした。でも、『全力!クリーナーズ』でご一緒したおかげで、気軽にコミュニケーションがとれて、ありがたかったです」

――この映画には、早藤雅巳役で風間俊介さんも出演されていますが、共演していかがでしたか?

「めちゃくちゃ怖かったです……。先輩という時点でまず怖いし、早藤という役が物凄く怖いし。俺が知っている風間先輩とは思えなかったですね。“風間さんに顔が似ている人”と共演したという気持ちでした。完全に役になり切っていらっしゃったんでしょうね」

画像: 風間俊介(早藤雅巳役)

風間俊介(早藤雅巳役)

――撮影現場で、風間さんと何かお話ししましたか?

「読み合わせの時に、プレッシャーや期待の意味も込めての、『大事な役だから頼むぜ』というようなことを言われました(笑)」

――まさに早藤そのものの感じですね! 猪狩さんが風間さんからの期待や、作品への不安を克服して演じた『先生の白い噓』を、ぜひ大勢の方に観てほしいですね。私は三木監督の最高傑作だと思いますし、すでに2度拝見しましたが、2度目の方がより新妻や美鈴、そして三吉彩花さんが演じる美奈子の気持ちに寄り添うことができました。

「ありがとうございます。俺も、もう1回観ます!」

――今日は素敵なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。では最後に、この作品を通して読者に伝えたいことを教えてください。

「『先生の白い噓』を観に行こうという気持ちになってくださったなら、この映画に対して感情を動かしていただいているということだから、その時点である種、この作品の意義は、僕としてはあると思います。一つお伝えしたいのは、社会的意義のある作品ではありますが、人間のあまり綺麗じゃない部分を描くことの美しさもある作品だということです。深いメッセージを持った映画ですが、それを強調するのではなく、あくまでも芸術作品の一つとして、フラットに楽しんでいただけたら嬉しいです」

PROFILE
猪狩蒼弥 Soya Igari

2002年9月20日生まれ。東京都出身。「HiHi Jets」のメンバー。数多くのバラエティ番組や、TVドラマ「恋の病と野郎組」(19)、「全力!クリーナーズ」(22)、「トモダチゲームR4」(22)、映画『オレたち応援屋!! We are Oh&Yeah!!』(20)などに出演。『恋を知らない僕たちは』が2024年8月23日に公開予定。

『先生の白い嘘』
7月5日(金)全国劇場&3面ライブスクリーンにてロードショー

画像: 映画『先生の白い嘘』60秒予告 | 7月5日 (金) 公開 www.youtube.com

映画『先生の白い嘘』60秒予告 | 7月5日 (金) 公開

www.youtube.com

<STORY>
高校教師の原美鈴(奈緒)は、親友・美奈子(三吉彩花)の婚約者である早藤(風間俊介)との関係を隠しながら、教卓の高みから生徒達を見下ろし観察することで、密かに自尊心を満たしていた。しかし、平穏を装った彼女の日常は、自分が担任する男子生徒・新妻(猪狩蒼弥)の事件をきっかけに崩れ始める……。

<STAFF>
監督:三木康一郎
脚本:安達奈緒子
原作:鳥飼茜

<CAST>
奈緒
猪狩蒼弥 三吉彩花
田辺桃子 井上想良 小林涼子 森レイ子 吉田宗洋 板谷由夏 ベンガル
風間俊介

配給:松竹ODS事業室/イノベーション推進部
映倫区分:R15
©2024「先生の白い嘘」製作委員会 ©鳥飼茜/講談社
公式HP:https://senseino-shiroiuso.jp

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