『ニューノーマル』は韓国・ソウルを舞台にした体験型オムニバススリラー。Kホラーの巨匠と呼ばれるチョン・ボムシク監督が、身近な出会いの裏に潜む恐怖と絶望を描いた。多彩な顔ぶれのキャストも話題を呼んでいる。7年ぶりにスクリーン復帰を果たしたチェ・ジウ、「イカゲーム」で人気を博したイ・ユミ、K-POPグループ「SHINee」のチェ・ミンホら6人のキャストを主演に迎えた。私たちの日常そのものがホラーになってしまった社会を見事に表現したとされる本作について、チョン・ボムシク監督に語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

スタッフのミスをさり気なくカバーするチェ・ミンホ


──チェ・ジウさんは7年ぶりのスクリーン復帰です。現場での様子で印象に残っていることがあったら教えてください。

普段のチェさんは明るく前向きで、気さくな性格ですが、現場では自分の撮影がないときは何も言わずにじっと椅子に座っていました。

それでもチェさんが撮影現場にいるだけで、スタッフが張り切り、現場は一丸となってうまくいくのです。その理由はまだ分かりませんが、とにかく不思議な経験でした。

画像1: スタッフのミスをさり気なくカバーするチェ・ミンホ


──フンを演じたチェ・ミンホさんの爽やかな魅力がスクリーンからあふれていました。現場でのチェ・ミンホさんのエピソードがあったら教えてください。

ある時、撮影中にチェさんがスタッフに近づき、「先程、これから撮るシーンの次のシーンを先に撮ったのですが、そのときは飲み物の缶が用意されていなかったので、持たずに撮りました。でも、本来なら飲み物の缶を持っているはずなので、今回のカットで歩きながら飲み物の缶をゴミ箱に捨てるようにします。そのためのゴミ箱を一つだけ用意してもらえますか」と優しく話しているのが、たまたまマイクがオンになっていたので聞こえてきました。スタッフのミスを自分がカバーしながら、映画的な繋がりまで気を配る彼の言葉を聞いた瞬間、私はチェ・ミンホという役者はとてもスマートで繊細な役者だと思いました。

画像2: スタッフのミスをさり気なくカバーするチェ・ミンホ


──イ・ユミさんが演じたヒョンスはずっと友人と携帯で話しているので、基本的に1人芝居でした。そういった芝居は意外に難しいのではないかと思います。イ・ユミさんにはどのように演出をされましたか。

カメラが回っていないとき、イさんはスタッフやマネージャーと子どものように戯れていましたが、いざカメラの前に立つとすっと切り替え、まさにそのシーンが求めるそのキャラクターになり切っていました。

しかも、状況に応じた笑顔を見せたと思えば、私が期待していたタイミングで苦しむ顔になり、事前に話していないのに正確なタイミングで涙を流す。こちらの演出以上のことをしてくれるのです。「ここはどうすればいいですか」と質問していたのに、突然「監督、やってみます」と見事にやってのけてくれたこともありました。本当に不思議な役者だと思います。

画像3: スタッフのミスをさり気なくカバーするチェ・ミンホ


──ヒョンスが襲われたシーンの最後、画面が犯人のときは赤く、ヒョンスのときは青く色付けされたのには何か意図があるのでしょうか。

色が変化するのは、色補正の作業をしていたら、思わず70年代のイタリアのスリラー映画に出てきそうな、アナログ的でよく見かけないシーンを作りたくなってやってみたのです。2人の名演技をより際立たせるための仕掛けとしても使いました。


──ピョ・ジフンさんが演じたギジンのチャプターは他のチャプターと違い、随所でコミカルさが感じられました。演出を変えた意図を教えてください。

実際に韓国で起こった事件をモチーフにして作ったチャプターです。一人暮らしの女性の家に侵入した男性のストーリーですが、よくあるような、侵入された女性が危機に陥るスリラーではなく、男性の歪んだファンタジーとして描写し、最後に鉄槌でぶん殴って、そのファンタジーを打ち砕くコメディにしたかったのです。

画像4: スタッフのミスをさり気なくカバーするチェ・ミンホ


──ハ・ダインさんが演じたヨンジンはがんばって働いているのに貧困から抜け出せず、社会の不条理が浮かび上がってきて、他のチャプター以上にやり切れなさを感じました。

元々明るい性格のハさんは、自分が「ヨンジン」役を演じられるかどうか心配していました。しかも当時、ハさんのお母さんががんと診断され、治療を始めたばかりの頃でした。 一人娘のハさんはお母さんを介護しながら現場に来ていたので、現場では心配から気持ちが沈んでいたようでした。しかし、そういう部分を「ヨンジン」のキャラクターにそのまま投影されたのでしょう。「ヨンジン」にすっかりなり切っていました。そして、ハさんの献身的な看病の甲斐があり、お母さんは完治されました。

画像5: スタッフのミスをさり気なくカバーするチェ・ミンホ


──チョン・ドンウォンさんは本作で映画デビューとのことでしたが、どのように演出をされましたか。またチョン・ドンウォンさんはそれに対してどのように応えてくれましたか。

ドンウォンくんは撮影初日、現場に来ると「緊張しています」と言い、表情も強張ったまま。最初のカットは「スンジン」がバス停のベンチに座り、スマートフォンでYouTubeを見ながら笑うシーンでしたが、私に近づいてきて「監督、この時、私はどのように笑うんですか? 大きく笑うんですか? それとも小さく笑うんですか?」と質問しました。

それで私が「面白い動画を用意しておいたから、ドンウォンくんが笑いたいだけ笑えばいいよ。」と伝えると、「でも、もし私が間違えてうまく笑えなかったらどうしましょう?」と心配していました。

それで私は「映画は失敗してもいいんだ。すぐ撮り直せる。」と言ったところ“そうか。映画はそれでいいんだ。”と悟りが開いたようにドンウォンくんの目つきが変わりました。私はそのとき、「やっぱり『スンジン』役をやれるのはドンウォンくんしかいないな」と思いました。

そうして撮影が進んでいくうちに、ドンウォンくんはどんどん現場に適応し、最初に見せていた緊張感や不安はどこへやら。現場を楽しみながら撮影に取り組み、少年のような天真爛漫さと切なさが感じられる「スンジン」役の俳優のチョン・ドンウォンになっていました。

画像6: スタッフのミスをさり気なくカバーするチェ・ミンホ

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