江口のりこ主演の『愛に乱暴』が8月30日に公開される。原作はこれまでに数多のベストセラー作品が映画化されてきた吉田修一の同名小説。「この原作を読んだ時に『今』映画化する意味があると強く感じた」と森ガキ侑大監督は語る。フィルムを使い、カメラが主人公を追いかけるドキュメンタリータッチの撮り方と卓抜した演出手腕で愛が孕むいびつな衝動と暴走をまとめあげた。公開を前に森ガキ監督に取材を敢行。脚本開発での苦労や演出のポイントについて話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

真守と小泉孝太郎のギャップに面白さが生まれた


──妻に不実な夫・真守を小泉孝太郎さんが演じています。爽やかなイメージのある方なので、このキャスティングにも驚きました。

プロデューサーの横山さんと「真守はちょっとサイコパスに見えるようにしたい。しかも、そういうイメージのない方が演じるとギャップが生じて面白いはず。そんな風に観客を裏切りたい」と話をしたのです。

それで「普段からニコニコしていて、イメージからいちばん遠いのは誰だろうか」と考えたときに小泉孝太郎さんのことが頭に浮かびました。受けてもらえるだろうかと心配したのですが、小泉さんはこういう役を待っていたようです。イメージを変えたかったのかもしれませんね。小泉さんに「とんでもなく嫌な男を演じてください」と伝えたら、「がんばります!」と言っていただきました。

役については真守の話し方や髪型など、2人で細かく話をしました。
それがよかったようです。試写をご覧になったみなさんが小泉さんに反応するんですよ、「あの役、小泉さんだったとは気が付かなかった」と。うまくいってよかったと思っています。

画像1: 真守と小泉孝太郎のギャップに面白さが生まれた


──先程、江口さんはご自身からいろいろアイデアを出してくださったとのことでしたが、小泉さんからも何かありましたか。

提案というよりも、僕が「こうしてほしい」「ああしてほしい」と言ったことを小泉さんがご自身の中で昇華していくという感じで、そこに集中されていました。


──真守は最低な男ですが、理解できる部分もありました。小泉さんが演じたからでしょうか。

それもありますが、その点については脚本の段階からも考えていました。原作を読んで、表があるから裏があるということに気付かされ、フェミニズムだけの作品にはしたくなかったのです。もちろん不倫をした点は真守が悪く、桃子に共感してほしいのですが、真守も桃子によって居場所をなくしていて、家に帰りたくないと思うようになってしまったことも描きました。そういうところから誤解やすれ違いが生じていくのではないでしょうか。

行き過ぎたものは全て、乱暴さと表裏一体だと思います。愛するが故に乱暴が生まれ、愛の裏に乱暴さがある。タイトルは「愛に乱暴」ですが、“愛”と“乱暴”は密接な関係があると思ったのです。


──今のお話をうかがい、居場所は探すものではなく、本来、作るもので、この夫婦はどちらも自分だけの心地良さを求め、「一緒に居場所を作ろう」という意識を持っていなかった結果、すれ違ってしまったのではないかという気がしました。

それはありますね。もしかしたら、子どもがいたら、お互いの価値観が変わって上手くいっていたのかもしれませんが、人の居場所って難しいと思います。表現する上でもそれを感じています。


──その点では、桃子と照子は居場所を作ろうとお互いに歩み寄る努力していた気がします。その辺りは描く上で何か意識されたのでしょうか。

おっしゃる通り、桃子と照子は居場所を作ろうとしています。多分、照子も若い頃に離れに住んでいて、姑が亡くなって母屋に住むようになり、そこに桃子という存在が現れて、離れに住むようになった。2人は同じ境遇なのです。

ただ、お互いに居場所を作ろうともがいていたけれど、うまくできなかった。だからこそ、最後に照子は桃子に共感し、申し訳なさから、あの提案をしたのだと思います。すると桃子が思いの外、図太かったんですけれどね(笑)。

画像2: 真守と小泉孝太郎のギャップに面白さが生まれた


──桃子は一筋縄ではいかない女性だったのですね。

江口さんから「監督は女性をいいようにとらえすぎやで。女性ってもっと図太いし、強いよ」といわれて、「そうなんですか!」といろいろ話をしました。生きていく上での女性の図太さみたいなものを江口さんから教えてもらった気がします。


──この作品を撮ったことで監督の中で女性観に変化があったわけですね。

ありましたねえ。やっぱり女性もしたたかですね。でも、女性だから、男性だからというのではなく、それは人間だから。生きていくためには、男女関係なく、動物として本能的にしたたかです。そうでないと生きていけませんからね。


──最後にこれからご覧になる方にひとことお願いします。

すごく挑戦的な作品になりました。余白のある作品でもあり、答えは1つではありません。いろんなことを読み取っていただき、そこを楽しんでいただければと思います。

<PROFILE>
監督・脚本 森ガキ侑大
1983年6月30日生まれ、広島県出身。
大学在学中にドキュメンタリー映像制作を始める。卒業後、CMプロダクションに入社し、CMディレクターとして活動。17年に独立してクリエイター集団「クジラ」を創設し、以来、Softbank、JRA、資生堂など多数のCMの演出を手掛ける。17年、長編映画デビュー作『おじいちゃん、死んじゃったって。』がヨコハマ映画祭・森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞。その後、TVドラマ、ドキュメンタリーなど映像作品を演出し、「江戸川乱歩×満島ひかり 算盤が恋を語る話」(18/NHK)で第56回ギャラクシー賞テレビ部門奨励賞、「坂の途中の家」(19/WOWOW)で日本民間放送連盟賞テレビドラマ優秀賞を受賞する。
その他の代表作に、TVドラマ「時効警察はじめました」(19/テレビ朝日)、初のマンガ実写化に挑戦した『さんかく窓の外側は夜』(21)、コロナ禍の日本における人と仕事を追ったドキュメンタリー『人と仕事』(21)などがある。

『愛に乱暴』2024年8月30日[金]全国ロードショー

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<STORY>
夫の実家の敷地内に建つ“はなれ”で暮らす桃子は、結婚して8年になる。義母から受ける微量のストレスや夫の無関心を振り払うように、センスのある装い、手の込んだ献立などいわゆる「丁寧な暮らし」に勤しみ毎日を充実させていた。
そんな桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始める。近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、愛猫の失踪、不気味な不倫アカウント…。平穏だったはずの日常は少しずつ乱れ始め、やがて追い詰められた桃子は、いつしか床下への異常な執着を募らせていく・・・。

<STAFF&CAST>
原作:吉田修一『愛に乱暴』(新潮文庫刊)
監督・脚本:森ガキ侑大
脚本:山﨑佐保子/鈴木史子
音楽:岩代太郎
出演: 江口のりこ、小泉孝太郎、馬場ふみか、水間ロン、青木柚、斉藤陽一郎、梅沢昌代、西本竜樹、堀井新太、岩瀬亮 / 風吹ジュン 
配給・制作:東京テアトル 
©2013 吉田修一/新潮社  ©2024 「愛に乱暴」製作委員会

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