〜今月の3人〜
稲田隆紀
映画評論家。年齢を重ねるにつれて、肉体の衰えを痛感させられる。気持ちだけは若い頃のままなので、余計始末が悪い。
金子裕子
映画ライター。多肉植物とミニ蘇鉄の寄植えで作ったトロピカルコーナーが超元気で、日本の亜熱帯化を痛感。
北島明弘
映画評論家。角田喜久雄原作の「髑髏銭」と「風雲将棋谷」の映画版が、TV放映されるという。今から楽しみ。
稲田隆紀 オススメ作品
『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』
ドキュメンタリー映画の巨匠が三ツ星レストランの細部まで切り取っていく
評価点:演出5/演技3/脚本5/映像5/サウンド5
あらすじ・概要
三代目オーナーシェフのミッシェル・トロワグロ、四代目のセザールがウーシュにある河畔に初の田舎のレストランで料理の精髄を披露する。供される料理の数々の素晴らしさを堪能できる、おいしい仕上がりの作品。
アメリカ映画界でクリント・イーストウッドと並び、1930年生まれでコンスタントに作品を発表する存在としてフレデリック・ワイズマンの名が挙げたくなる。ドキュメンタリー映画の巨匠として、1967年の『チチカット・フォーリーズ』を第一作に『ボストン市庁舎』をはじめ数々の傑作を世に送り出してきた、ナレーションや字幕を使わず、映像だけを観客の前に差し出すのが彼の手法。観客は、映像に対して、物語を読み込むことを求められる。
本作で挑んだのは食の世界。日本でも知られるフレンチレストランの老舗「トロワグロ」を題材に選び、素材、調理、サーヴィスからシェフ、スタッフの思いまでを映像に焼きつける。匠にとって食の世界に挑むのは初めてだが、流れるようにレストランの細部に至るまで切り取っていく。
メニューが創造される瞬間や、厨房での緊迫感に満ちた調理。そして接客に関してはソムリエからホールスタッフまで徹底したサーヴィスをみせる。まさに料理で客をもてなすことの矜持が画面から溢れている。
公開中、セテラ・インターナショナル配給
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金子裕子 オススメ作品
『本日公休』
ひたむきに人生を歩む人々への敬意とエールに溢れた慈雨のような台湾映画
評価点:演出5/演技5/脚本5/映像4/音楽5
あらすじ・概要
下町にある昔ながらの理容室。アールイは40年にわたり客の髪を切り、3人の子供を育ててきた。ある日、遠い街に住む常連客が病床に伏していることを知ったことから、「本日公休」の札を掲げて彼の元へと向かうが。
台湾の俊英フー・ティエンユー監督の長編3作目。自らの母親をモデルにした脚本は、ひたむきに人生を歩む人々への敬意とエールにあふれた慈雨のような物語。アン・ホイ監督の名作『客途秋恨』(90年)で一世を風靡したルー・シャオフェンが、「こういう脚本を待っていた」と、24年ぶりに主人公役でスクリーン復活したのもうなずける。
台中の下町で40年も理髪店を営んでいるアールイの店には、昔からの常連客が通ってくる。誠実・丁寧を心がける仕事ぶりは、いつしか人生のモットーになっていた。だからこそ遠くに住む常連客が病床にあることを知れば、「本日公休」の札を掲げて出張理髪に出かけるのだった。
人生の機微をたっぷり味わった懐の広い母を演じるシャオフェンは、いまだ女性の可愛らしさを失わない。モテモテ美容師役にリン・ボーホンなど脇も要注意で、緑豊かな稲田から登場するチェン・ボーリンなど、眼福!でしかない。今と昔をバランスよく映し出す映像はせつなく美しく、郷愁をそそる主題歌「同款」に涙するばかり。
公開中、ザジフィルムズ、オリオフィルムズ配給
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北島明弘 オススメ作品
『ポライト・ソサエティ』
スタント・ウーマン志望の女子高生が姉の結婚を阻止するために大奮戦を展開する痛快作
評価点:演出5/演技5/映像5/撮影4/音楽5
あらすじ・概要
スタント・ウーマン志望の高校生が、姉の婚約者の素顔を暴こうと奮闘するも、すべて失敗。結婚式の日、スパイ映画顔負けの花嫁奪取作戦を敢行。姉妹の夢を賭けて、ラスボスである花婿の母と対決する。
題名からイギリス上流階級を描くメロドラマと思っていたら、正反対のアクション・コメディが展開され、ヒロインの活躍に心躍る痛快な作品だった。
ロンドン在住のパキスタン人一家の女子高生リアはスタント・ウーマンを目指し道場に通い、空手技の習得に邁進しているが、旧来の価値観にとらわれている教師も両親も「無理、あきらめろ」と冷たい。唯一の理解者だった姉リーナが、ハンサムな科学者サリムと結婚することになった。サリムとその母ラヒーラに不信感を抱いたリアは、結婚阻止作戦を敢行するもすべて失敗してしまう。
姉妹ならではの絆とライバル心、同級生との友情といったシスターフッド・テーマに加えて、サスペンス、功夫、SF、夢実現を目指す若者の向上心……といった要素がてんこ盛りされ、極彩色の華麗な衣装での死闘シーンが目を奪う。母の娘自慢の次に姉妹が格闘している場面をつなげるといったニダ・マンズール監督の巧みな演出も特筆もの。浅川マキの曲「ちっちゃな時から」が効果的に使われているのも良し。
公開中、トランスフォーマー配給
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