街の書店は年々減少し、経済産業省が公表しているデーター(2022年)では20年前に比べて約6割減っているという。厳しい状況をどう乗り越えていくのか。『本を綴る』は篠原哲雄監督や脚本家の千勝一凜氏が全国の面白い書店や図書館を訪れ、店主や地域の方々と交流していく中で生まれた物語である。公開を前に篠原監督にインタビューを敢行。作品に対する思いや新しく立ち上げた自主レーベルについて、話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

自分でどんどん立ち上げていかないといつまでもこの仕事はできないという危機感


──全国各地のとても魅力的な本屋さんがいくつも登場します。どの本屋さんも実在する本屋さんのようですね。

那須の森の中の本屋さんは千勝さんがネットで調べて見つけました。行ってみると、本屋さんに勤めていた方が自分のお店をやりたくなり、実家の敷地の一角に店舗になるものを建てて、自分が好きな本をいろいろ持ってきたそうです。その設定は映画でも活かしています。映画で店主を演じているのが千勝さんです。

子どもたちの溜まり場になっている京都の開風社は恵文社一乗寺店に勤めていた方が独立して自分のお店を持ったものです。実際に本好きな子どもたちが放課後にくるらしいです。いいことですよね。

那須と京都は地続きでやっていた感じですが、香川はインターネットで調べてシナハンをしながら、脚本にプラスαをしていきました。


──作品で取り上げられたお店のようなオリジナリティはどの店でも出せるものでもありません。本屋さんがお店を続けていくことの難しさも感じました。

作品を通じていろいろな本屋を取材してきましたが、どうやって生き残るかは重要です。例えば、本屋ルヌガンガと恵文社一乗寺店は独自の経営方針があり、置いている本はベストセラーではなく、自分たちがセレクトした本です。しかも本屋ルヌガンガはカフェを併設したり、クラウドファンディングで集まったお金で本棚を作ったりしています。香川の町中にポツンとある居心地のいい陽だまりのようなところを作りたかったのかもしれません。そんな感覚が映画にも見えてくればと思っていました。

画像5: 【インタビュー】既成の枠組みの中ではできないことをする!『本を綴る』篠原哲雄監督
画像6: 【インタビュー】既成の枠組みの中ではできないことをする!『本を綴る』篠原哲雄監督


──本作は監督の自主レーベル、ストラーユの第一弾です。監督も映画を作る上で独自の道を模索されているのでしょうか。

プロデューサーからいただいた企画をちゃんと撮って、世の中に出していくということはこれからも続けていきますが、還暦を超え、仕事が減ってきました。自分でどんどん立ち上げていかないといつまでもこの仕事はできないという危機感があります。

そんなとき、このシリーズを通じて親しくなった那須の方々から「那須で映画が撮れないだろうか」という話がありました。そこで、無料のワークショップを開催し、そこから選ばれた人に参加費として10万円負担していただいて、映画を作る企画を立ち上げました。10万円は1週間の撮影の滞在宿泊費も含みます。そうしたところ80名くらいの応募があり、最終的に16〜17人選んで、那須の町中で1時間くらいの映画を撮りました。後は音楽を入れるだけで、ほぼでき上っています。

これがもう1本できればセットにして劇場公開もできます。そういう仕組みは既成の枠組みの中ではできません。いまのところお金にはならないのですが、かえって面白いのではないかと思っています。

<PROFILE>  
監督・総合プロデュース  篠原哲雄
 
1962 年 2 月生まれ、東京都出身。明治大学法学部卒業後、フリー助監督として森田芳光、根岸吉太郎、金子修介監督らに師事。一方、自主映画を撮り始め、8ミリ『Running High 』がPFF’89で特別賞を受賞。93 年、16ミリの中編『草の上の仕事』でデビュー。初の長編『月とキャベツ』(96)は独特なファンタジーを提供。次作の『洗濯機は俺にまかせろ』(99)は自身好きな作品のひとつ。   
その後、多くの商業作品を監督するが、本作を制作するに当たり自身の自主制作レーベル、ストラーユを設立。その語源は『洗濯機〜』の劇中会話「餃子は酢とラー油」に由来している。近年の代表作に『起終点駅 ターミナル』(15)、『花戦さ』(17/第 41 回日本アカデミー賞優秀監督賞)、『犬部!』(21)などがある。本年 5 月には『ハピネス』が公開。

画像7: 【インタビュー】既成の枠組みの中ではできないことをする!『本を綴る』篠原哲雄監督

『本を綴る』10月5日(土)K's cinema・京成ローザ⑩より全国順次ロードショー

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<STORY>  
小説が書けなくなった作家・一ノ関哲弘(矢柴俊博)は、全国の本屋を巡りながら本の書評や本屋のコラムを書くことを生業にしている。旅に出て一期一会 の出会いや友人との再会で刺激と温かさ、厳しさを痛感しながら書けなくなった原因と向き合う。哲弘には「悲哀の廃村」というベストセラーがあるがその本が書けなくなった根源でもあった。    
那須の図書館司書・沙夜(宮本真希)と森の中の本屋を訪れ、古書に挟まれていた恋文を発見する! 届かなかった宛て先人に届けるべく京都へ向かう。    
同級生の・功ニ(長谷川朝晴)は、京都で有名な書店の店長で学生時代のライバル。 恋文に書かれた住所は今は無く、本人は亡くなっていたが孫の花(遠藤久美子)が後を継ぎおばんざい屋を営んでいた。花は、婚約者を事故で亡くし何処か一歩踏み出せないでいた。    
香川で再会した哲弘と花。 花は、婚約者のお墓に行き婚約者が助けた女の子と母親に出会い、自分の中の後悔から解き放される。哲弘は、まだ立ち向かうべきものがあると旅を続け、港で移動図書館のお手伝いをする結城と出会い、彼が店長のBARに行き「悲哀の廃村」が置かれているのを見つける。その本を持ってきた漁師の源次(加藤久雅)は哲弘が書いた本の舞台となった永谷集落の出身、源次を探し歩き会いに行く。 哲弘の書きたくて書けなかった思いは? 哲弘は、行き場の無くなった本を引き取り、新しく誰かの手に届ける! 哲弘なりの本屋を作りたいと那須・京都・香川…と旅をしながら考えていた。

<STAFF&CAST>  
監督・総合プロデュース:篠原哲雄
脚本・キャスティング・プロデューサー:千勝一凜   
プロデューサー:櫻庭賢輝    
音楽:GEN    
主題歌:ASKA 「I feel so good」  
出演: 矢柴俊博、宮本真希、長谷川朝晴、加藤久雅、遠藤久美子   
2023年|カラー|日本|DCP|ビスタ|107分|5.1ch   
配給:アークエンタテインメント  © ストラーユ

※前作「本を贈る」は、2021年に東京の本屋さんを応援するため開設されたYouTubeチャンネル「東京の本屋さん街に本屋があるということ〜」内で配信されたYouTubeドラマ。

<お知らせ>  
新宿 K's cinema 劇場公開記念 篠原哲雄監督作品上映決定!!

10月5日(土)より公開の映画『本を綴る』劇場公開を記念し、新宿K's cinemaにて篠原哲雄監督の三作品が上映される。上映作品は、「本を贈る」の他、篠原監督作品のなかでも人気の高い『月とキャベツ』『洗濯機は俺にまかせろ』の3作品。 なお「本を贈る」は全9話のドラマを一本に再編集したものを上映する。

期間:10/5㊏~10/11㊎ 連日16:30~  
料金:1400円均一(シニア1200円)  
※「本を綴る」鑑賞の方は1200円(チケット提示)

『本を贈る』(2022年/上映時間 96分) 10月6日(日)  
『月とキャベツ』(1996年/上映時間 100分) 10月5日(土)、8日(火)、10日(木)  
『洗濯機は俺にまかせろ ディレクターズカット版』(1999年/上映時間 108分) 10月7日(月)、9日(水)、11日(金)

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