街の書店は年々減少し、経済産業省が公表しているデーター(2022年)では20年前に比べて約6割減っているという。厳しい状況をどう乗り越えていくのか。『本を綴る』は篠原哲雄監督や脚本家の千勝一凜氏が全国の面白い書店や図書館を訪れ、店主や地域の方々と交流していく中で生まれた物語である。公開を前に篠原監督にインタビューを敢行。作品に対する思いや新しく立ち上げた自主レーベルについて、話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

那須なら続編の突破口になるかもしれない


──本作はYouTubeの配信ドラマ「本を贈る」(全9話)の続編で、本作の主人公、一ノ関哲弘は「本を贈る」最終話の途中で旅に出て、そのまま姿を見せませんが、ラストでかなりの存在感を示しました。ドラマの段階で映画の構想があったのでしょうか。

前作の「本を贈る」は2021年に東京の本屋さんを応援するため開設されたYouTubeチャンネル「東京の本屋さん~街に本屋があるということ〜」内で配信されたYouTubeドラマです。街の本屋さんと店主さんにスポットを当てた紹介動画を制作したことで書店流通の仕組みを学び、跡継ぎ問題や店主の拘りなど知ってゆく中でドラマが作りたいと思うようになり、東京都書店商業組合さんに企画書を出して実現しました。

撮影から配信まであまり時間がなく、ドラマを撮っていた段階では続編を考える余裕は僕にはありませんでした。しかし、脚本家の千勝一凜さんは「次に書くならば哲弘の話」と考えていたようです。


──なぜ本作は配信ドラマではなく、映画にされたのでしょうか。

全9話の「本を贈る」は一本化されて、神田のブックカフェや日比谷図書館のほか、那須のリゾートホテルのイベントルームで上映会が行われました。東京の本屋さんの話ですが、那須にお住いの方で、出版業界に少し携わったことがある方が興味を持ち、企画してくれたのです。しかも那須にあるポータルサイトが取材に来てくれて、那須の色々な情報も得ることができました。

少し前まで那須には「書店のない地域で持続していける地方書店のモデル」として作られた那須ブックセンターという書店がありましたが、残念ながら4年半で閉じるしかありませんでした。しかし、その後「那須塩原市図書館 みるる」という素晴らしい図書館ができたことを知りました。

その頃、朧げに「本を贈る」の続編の構想があり、那須を舞台の一つとしたら物語の突破口になる可能性を感じ、脚本作りがスタートしました。この度は書店組合からの依頼でなく、自主制作になることは否めなかったので、文化庁に映画制作のための助成金の申請をしたのです。

画像1: 【インタビュー】既成の枠組みの中ではできないことをする!『本を綴る』篠原哲雄監督
画像2: 【インタビュー】既成の枠組みの中ではできないことをする!『本を綴る』篠原哲雄監督


──脚本開発はどのように進めていかれましたか。

助成金の申請が通ったのが2022年9月。年内に作って2023年12月末までに映画館で14回以上の有料上映をしなくてはなりませんでした。そこで、那須で見つけた古書に挟まれていたラブレターをきっかけに哲弘の旅が始まり、行く先々でいろいろな本屋さんに出会う話ということで、急ピッチに開発していきました。

僕は京都の恵文社一乗寺店という本屋さんがとても好きで、京都に行くといつも寄っていました。京都出身の千勝さんも恵文社一乗寺店のことを知っていたので、那須の次を京都にし、彼女のおじさんが扇子職人だったことも脚本に盛り込まれました。出せなかったラブレターの話は架空ですけれどね(笑)。

この旅は哲弘が小説を書けなくなった話に繋がっていく。その間に遠藤久美子さんが演じた花さんという女性の話を挟み、彼女もある事情から一歩が踏み出せない状態で、哲弘と花がそれぞれに抱えているものを何処となく分かち合いながら進んでいくストーリーになっていきました。


──本作は全国の個性あふれる本屋さんを紹介することで、本屋さんの活性化を応援している作品ですが、行き場を失った人が居場所を見つける話でもありますね。

そうなんです。本屋の復興支援が主題ではありますが、本の居場所、人の居場所もテーマになるのではないかと思い、“どんな人にも居場所はある”というメッセージも込めています。

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