「才能は見つける人と守る人がいて、初めて輝く」
──主人公の姉・神谷布美を岡崎紗絵さんが演じています。発達障害を抱えた妹のことで忙しい両親に心配を掛けないよう、常にしっかり者として振舞ってきたのではないかと感じました。キャラクター作りで大事にされたのはどういったことでしょうか。
僕は長男で弟がいるのですが、世の中の長男長女はみな、下の子が生まれたことで親にとって自分が一番でなくなり、寂しい思いをした経験を持っているのではないでしょうか。布美の場合はその度合いがより強かったと思いますし、そのことに対する寂しさや反発があったと思います。もちろん東京に出てお店を出すということは自分の夢でもありましたから、自立心の強いキャラクターにしました。
それでも妹のことが嫌いというわけではありません。姉妹としての情は持っています。それでも才能という点においては妹の方が優れているということに対して、思うところはある。非常に葛藤の強いキャラクターですが、岡崎さんはそこのところをしっかり理解して演じてくれました。
史織は観客から共感を得やすいキャラクターではありませんから、その部分を布美が背負っているという思いで作っていました。僕の中で布美は第二の主人公です。
──発達障害を抱えた妹が自分にない才能を持つことにやり切れなさを感じていたときに、布美は専門学校時代の先生から「才能は見つける人と守る人がいて、初めて輝く」と言われました。この言葉が心にしみましたが、どのようにして生まれた言葉なのでしょうか。
先生の言葉に対して、布美は「納得できません」と言いますが、心の中では響いているといった感じで言ってくださいと演出をしました。
僕自身が森谷さんに発見してもらい、守り育ててもらってきたという経験がありますし、才能ってそうやっていかないと表に出ていけないものだと思っていますから、それをメッセージとして込めました。
──史織と布美の父親、神谷康孝を吉田栄作さんが演じています。娘を心配しつつも、言葉で表現できない不器用さが伝わってきました。吉田さんが作ってきた父親像は監督からご覧になっていかがでしたか。
栄作さんは顔合わせでお話して、本を読んだ段階で役を理解されていて、現場ではすっかりお父さんになっていました。
細かいことで言えば、今回、栄作さんから「方言を取り入れたい」と言われました。演技が難しくなるため、元々は方言を取り入れない予定でしたが、子供世代は方言を使わなくても、お父さん世代は方言を使うという設定にすれば、愛知らしさも出るし、職人の頑固で不器用な感じが表現できるのではないかと提案してくれたのです。こちらとしては「それならばぜひお願いします」とお返事して、お父さんは方言を話すようになりました。
──清水美砂さんが演じた史織の伯母さんが自分にとって弟である康孝に「親子喧嘩は親が折れなきゃダメ」と諭します。
脚本に加わってくださった鈴木史子さんが書いてくれたセリフです。僕は家庭を持っているわけではありませんが、鈴木さんにはお子さんがいらっしゃるので、親子喧嘩は最終的に親が折れないとダメといった経験をされているのでしょうね。だからこそ、あのセリフが生まれたのではないかと思いました。とてもいいセリフですよね。
──ラストに親離れ、子離れをしますが、どう描こうと思っていらっしゃいましたか。
史織が目標を達成し、次のステージに向かって歩きだすということになったとき、心配でも見送ってあげるのが親の務め。子が変わる以上、親も変わる。どちらかだけではダメ。全員が次に向かう姿を描きたいと思っていました。
──ご自身の経験が投影されているのでしょうか。
僕は昔から映画監督になりたいと言っていたので、快く送り出してもらえました。やはり親に応援される方が子どもとしてはうれしいです。そういう意味では送りだしていく親の姿も含めて、幸せな感じを描けたらと思っていました。
今回、映画のためにウール工場も取材し、工場の経営状況についてのお話もうかがいました。「昔はよかったけれど、今は苦しい」、「この仕事を続けていけるのか」、「跡を継いでくれる人がいない。どうしたらいいのか」という悩みがある一方で、「例え跡を継ぎたい人がいても、この仕事はやらせない方がいいのではないか」という悩みもありました。
これは尾州だけの問題ではなく、日本のあちこちで起こっている問題です。そこは事実として描いておきたいと思いました。その上で、「だからどうしていけばいいのか」を前向きに考えられるように明るい方向に向かって映画を終わらせました。何とかなってほしいという思いがあるのです。