マイケル・ケイン引退作にしてグレンダ・ジャクソンの遺作となった『2度目のはなればなれ』が10月11日(金)より公開されている。老人ホームから脱走し、70周年式典が行われるフランス・ノルマディへ向かう男と、ホームで男を待つ妻を描くヒューマンドラマを手掛けたオリバー・パーカー監督がSCREEN ONLINEのインタビューに応じてくれた。(取材・文:大森さわこ/編集:SCREEN編集部)

マイケル・ケイン、グレンダ・ジャクソン47年ぶりの共演が実現

 英国を代表する名優のひとり、マイケル・ケインの引退作として本国で高い評価を得たヒューマン・ドラマ『2度目のはなればなれ』。ケインはこれまで『ハンナとその姉妹』(1986)や『サイダーハウス・ルール』(1999)でアカデミー賞を受賞しているが、この新作で彼の妻を演じるのはグレンダ・ジャクソンで、彼女も『恋する女たち』(1969)や『ウィークエンド・ラブ』(1973)で2度のオスカー受賞。この映画は彼女の遺作となった。

画像: マイケル・ケイン、グレンダ・ジャクソン47年ぶりの共演が実現

この新作ではふたりの47年ぶりの共演が実現。長年、生活を共にしてきた夫婦役を演じる。年老いたふたりは老人ホームで共に暮らしているが、ある時、夫のバーニーはホームをこっそり抜け出し、フランスのノルマンディで行われた第二次大戦の記念式典に参加しようとする。かつてこの地で軍人として戦った彼には“ある秘密”があった。そんな彼を愛する妻はホームで彼を待ち続ける…。

 心温まる夫婦愛の物語でありながら、戦争がもたらすトラウマについても考えさせられる作品で、とにかく、主演ふたりの圧倒的な演技から目が離せない。この心に響く作品を監督したのは『オセロ』(1995)や『シンクロ・ダンディーズ』(2018)などで知られる英国の職人的なベテラン監督、オリバー・パーカー。ズームによるインタビューで製作秘話を話してもらった。

2人の名優との仕事を語ってくれたオリバー・パーカー監督

まず、ふたりの名優たちとの仕事に関しては「彼らと一緒に仕事ができたことがうれしいです。ふたりとも、それぞれの役のファースト・チョイスでしたからね」と満足そうな笑顔で答える。

画像: オリバー・パーカー監督

オリバー・パーカー監督

ケインに関してはこう振り返る――「彼はすでに引退を口にしていて、それでこの映画の撮影に入ったのですが、実はこの映画の最後の撮影日に感慨を込めてこう言いだしたんです。“ああ、これが私の最後のショットなんだね”。そこで私は言ったんです。”確かに最後のショットだけれど、君次第で変えることもできるよ“。それで映画を見た後、マイケルはさらに言ったんです。”この映画で引退するよ。この映画ですごくいい演技ができているし、演技者としてこの境地にたどりつくことができた。ここで終わりにできるのは、すごくいいと思う“」。

この映画の撮影中、マイケルは足が弱っていて、そんな部分も人物像に重ねて演じることになったという。「彼は今回のバーニー役に本当にぴったりだったんです。バーニーは元軍人ですが、マイケルにも軍歴がある。バーニーにはユーモアのセンスがあって、そこもマイケルらしい役柄でした。いろいろな意味で、彼自身を投影できる役で、人物の豊かな部分を見事に表現してくれました」。

画像1: 2人の名優との仕事を語ってくれたオリバー・パーカー監督

この点は共演のグレンダ・ジャクソンも同じだった。1970年代は彼女の絶頂期だったが、後に政治家に転身。晩年になってからは『帰らない日曜日』(2021)にも脇役で出演したが、今回はマイケルとの夢の競演が実現した。「グレンダには今も強さがあって、そこにひきつけられましたね」と監督。

画像2: 2人の名優との仕事を語ってくれたオリバー・パーカー監督

「現場でのふたりの共演はいかがでしたか?」と訊ねると、「共演してから40年以上たっていたから、最初はふたりともナーバスになっていたようです。グレンダは政治家だった時代もあったけれど、マイケルは大物の映画スターになっていました。ただ、ふたりにはワーキング・クラス出身という共通点もあり、そのアイデンティティを大事にしていて、相手に対する敬意もありました。ふたりには大物の風格と独特のケミストリーがありました。老人が主人公の映画なのに、静かな作品ではなく、ふたりのすごく情熱的な部分が出た作品になっていると思います」。

画像3: 2人の名優との仕事を語ってくれたオリバー・パーカー監督

実話をモチーフにした作品で、老いた男性がかつての思いをかなえるため、ホームを抜け出してフランスにひとりで渡る。この設定は、シンクロナイズド・スイミングを通じて中年男性が人生の“セカンド・チャンス”を発見する監督作『シンクロ・ダンディーズ』に通じる部分もある。

「人生にとっての第二のチャンスとは、人間としての贖罪のテーマにもつながっています。そのチャンスによって、人は癒され、人間性や周囲とのつながりを回復させていくわけです。今回の新作には仲のいい夫婦が出てきますが、夫婦であっても明かせない秘密があり、バーニーはかつての戦地に戻ることで失われたものや人間性に対する理解を深めていくわけです」。

一見、シンプルな老夫婦の物語に見えるが、やがてはバーニーが、長年、胸に秘めていた思いや戦争のトラウマも見え、その展開に心を動かされる。

パーカー自身がひかれる英国監督はデイヴィッド・リーン、ケン・ローチ、ケン・ラッセル、ニコラス・ローグ等だという。かつては舞台のシェイクスピア作品や映画(『ヘルレイザー』(1987))の俳優でもあったので、「何よりも俳優の演技に心ひかれてしまうんです」と言っていた。そんな彼の演技のこだわりがふたりの名優たちから最後の味わい深い名演を引き出し、長い時間を共にした夫婦の温かさや優しさ、戦争のもたらす悲劇や痛みが表現された美しい作品になっている。 

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『2度目のはなればなれ』
全国公開中
監督:オリバー・パーカー 
脚本:ウィリアム・アイヴォリー
出演:マイケル・ケイン、グレンダ・ジャクソン、ダニエル・ヴィタリス、ローラ・マーカス、ウィル・フレッチャー
2023年/イギリス映画/英語/97分/原題:The Great Escaper/
戸田奈津子/配給:東和ピクチャーズ 
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