松山を舞台に5人の女子高生たちがボート部の活動を通じて、葛藤を乗り越え、絆を育んでいく。『がんばっていきまっしょい』は敷村良子の同名小説を原作にした劇場版アニメーションである。監督を務めたのは「日本アニメ(ーター)見本市」の短編「新世紀いんぱくつ。」(2015)で監督デビューした櫻木優平。『あした世界が終わるとしても』(2019)でアヌシー国際アニメーション映画祭コンペティション部門にノミネートされた俊英である。2作目となる本作への思いを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

観客が悦子たちと一緒にボート競技のルールを学び、魅力を知っていく


──原作は敷村良子さんの同名小説で、すでに映画化(1998)、テレビドラマ化(2005)されています。今回、劇場アニメ化した企画のきっかけから教えてください。

プロデューサーの田坂さんと前作『あした世界が終わるとしても』(2019)を作っていたときから、次は何をするかを話していました。その際、松竹さんから「女の子ががんばる物語がいいのではないか」と提案されたのです。それは自分がやりたかった題材の1つだったので、その方向で企画が進み始めました。

ただ、スポーツを通して、青春期を過ごす若者の葛藤や成長を描く作品はすでに多く存在します。あえてオリジナル原作にして入り口を狭めるのではなく、企画に合う原作を探すことにしました。そこで思い浮かんだのが、敷村良子さんの「がんばっていきまっしょい」でした。10代の頃に映画を見て、その後、小説も読み、自分にとって「女の子ががんばる物語」の原点かつ金字塔でもあるのです。ボート競技がCG向きということもありました。

──原作では主人公の村上悦子(悦ネエ)がボート部を復活させましたが、映画の悦ネエは高橋梨衣奈(リー)に頼まれてボート部に入ります。本作は原作よりも悦子の内面にスポットを当てているように感じました。脚本開発では何を軸にされましたか。

プロットの早い段階で、新しい作品として作ろうという方針を決め、今の時代の悦子を描くのなら、どちらかというと巻き込まれる系の主人公とした方がいいのではないかとなりました。しかし原作ファンもいますし、すでに映画化もテレビドラマ化もされていますから、その悦子像から大きく離れることは避けたい。その辺りの塩梅を繊細に調整しながら、現代の主人公として共感されやすいところに持っていきました。自分の中の悦子像に関しては割とすぐにすとんと決まったので、調整に気を使ったものの、悩むことはありませんでした。

画像1: 観客が悦子たちと一緒にボート競技のルールを学び、魅力を知っていく

──ボート競技について、よく知りませんでしたが、見終わる頃には、「イージーオール」というオールを水中から出して、漕ぐ動作を止めるときの掛け声が自然と口から出てきました。

ボート競技に触れたことがない方が多いので、そういった方がご覧になってもついていけるようにしたいと思いました。そこで、観客が悦子たちと一緒にルールを学び、魅力を知っていくよう、うまく繋げて引っ張りあげる構成を考えたのです。

とはいえ、説明ばかりでは面白くありません。ボート競技の説明が必要なところにはしっかり入れつつ、多くなり過ぎないように、バランスにはかなり気をつけました。

──脚本をざっくりと作り、タイムラインにセリフだけ並べたムービーを全尺分作り、シーンのバランスを取っていったとうかがっています。

映画作品は音のテンポ感も大事なので、90分のラップミュージック的な意識で編集しています。音のリズム、会話のリズムの気持ちがいいところを軸にしながら、「このセリフを繋げると何分になるのか」を計り、「このシーンは何分くらいに収める」といった感じで全体におけるシーンの配分をしていきました。それをしないと、序盤は設定を説明するためのセリフが多いので、長くなってしまいがちなのです。

──兵頭妙子(ダッコ)と井本真優美(イモッチ)がきちんと登場する前に、すでにガヤとして画面に登場していました。鑑賞2回目で気が付きましたが、複数回見る楽しみの1つかと思います。こういったことはかなり早い段階でから考えていらっしゃるのでしょうか。

日常シーンは何もしないと面白くなりません。古い邦画を参考にしていて、ストーリーを進めるメインの出来事の裏で起きている何か、例えば奥のキャラクターがヤジを入れているなど、
細かい演出の積み重ねをしました。そういうところで面白さを担保したのです。

画像2: 観客が悦子たちと一緒にボート競技のルールを学び、魅力を知っていく

──コスト計算もシビアにされたともうかがっています。

作画業界よりもCG業界の方がコスト計算はシビアで、やりたいことでも全部はやれないという大前提があります。「ここまでしかできません」ということが出てくるので、「ここはやるけれど、ここは省きましょう」という判断が現場で求められます。予算内で収まる形を取りつつ、その中で表現としていちばんいいところを狙いました。

──スクリーンサイズはシネスコです。なぜこのサイズを選ばれたのでしょうか。

16:9とシネスコは根本的に画面構成が違います。16:9は縦横比2:1を超えていませんが、シネスコは2:1を超え、正方形が2つ入ります。複数のキャラを収める平面構成になるので、そこも含めて、5人でボートに乗る物語はシネスコにハマると思いました。

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