作品選びにお悩みのあなた! そんなときは、映画のプロにお任せあれ。毎月公開されるたくさんの新作映画の中から3人の批評家がそれぞれオススメの作品の見どころポイントを解説します。

〜今月の3人〜

土屋好生
映画評論家。秋来ぬと目にはさやかに見えねども…とうたった平安の歌人も酷暑にげんなり。せめて涼風だけでもおくっておくれ。

大森さわこ
映画ライター。著書「ミニシアター再訪」が丸善・ジュンク堂主催の≪書店員が選ぶノンフィクション大賞2024≫の候補作となる。

前田かおり
映画ライター。孝行息子といえば、韓ドラの「となりのMr.パーフェクト」。演じるチョン・ヘインにハマってます。

土屋好生 オススメ作品
『リリアン・ギッシュの肖像』

伝説的女優ギッシュから大女優モローが引き出す映画史の一断面とは

画像1: 土屋好生 オススメ作品 『リリアン・ギッシュの肖像』

評価点:演出4/演技4/脚本3/映像4/音楽3

あらすじ・概要
 かなり高齢と思しき品のいい貴婦人が突然しゃべり始める。話題は古き良きハリウッドの裏話。よほど懐かしいのか次第に口数が多くなり、うそかまことか、退屈とはほど遠い楽しいひとときが続く…。

 一時代を画したハリウッド俳優のリリアン・ギッシュと、フランスを代表する俳優で国際的にも名を知られたジャンヌ・モロー。この異色の2人を結び付けたものはいったい何だったのか。映画史の一断面をこれほど見事に浮かび上がらせたのは他にちょっと思い浮かばない。

 それにしてもドキュメンタリー映画とはいえ、ここまで徹底して2人の会話だけでまとめあげた映画もこれまでなかったのではないか。どこまで行っても「ギッシュ節」が冴えわたる。まるで速射砲のように飛び出すせりふ(?)の数々。大きく見開かれた目は常に過去へと舞い戻りその住人となる。とにかく悠長に過去の思い出に浸っている暇などない風情なのだ。

画像2: 土屋好生 オススメ作品 『リリアン・ギッシュの肖像』

 では、製作・監督担当のモローはいったいギッシュの何に魅せられたのか。ここで書くのも野暮なことだが、あえていえばそれは汲めども尽きぬ好奇心であり、生きる姿勢にかかわること。つまり誠実な生き方そのものがギッシュ本人の弁というのも、わかるような気がする。

公開中、エスパース・サロウ配給
© 1983 FONDS JEANNE MOREAU POUR LE THÉÂTRE, LE CINÉMA ET L’ENFANCE. TOUS DROITS RÉSERVÉS

大森さわこ オススメ作品
『2度目のはなればなれ』

主演二人の最後の姿を大切な記憶の箱にしまっておきたくなる味わい深い作品

画像1: 大森さわこ オススメ作品 『2度目のはなればなれ』

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽4

あらすじ・概要
 バーニーとレネは、長年、愛し合ってきた夫婦で、いまは同じ老人ホームで暮らす。海軍にいた夫は、こっそりホームを抜け出し、フランスのノルマンディの記念式典に参加。やがて過去の秘密が明かされる…。

 しみじみとした味わいがじわじわと広がる映画。その中心にいるのはマイケル・ケイン&グレンダ・ジャクソンという英国の熟練の名優たち。ケインには引退作、ジャクソンにとっては遺作。それぞれの最後の姿を大切な記憶の箱にしまっておきたくなる。両者ともに2度のオスカー受賞者だが、落ち着いた中にタダならぬ存在感があり、老いを超越した圧倒的な輝きに魅せられる。両者の人生までもが浮かび上がる最後の名演を見せている。

画像2: 大森さわこ オススメ作品 『2度目のはなればなれ』

 ふたりが演じるのは、長年、愛し合ってきた老夫婦の役。ある日、夫は妻と暮す老人ホームを出て、第二次大戦のフランスの記念式典に参加。そこで明かされる戦死した旧友への思い。軍人だった彼の過去への悔恨。ほほえましい夫婦愛を描いた心温まる映画でありながら、戦争が進行中の今の時代に見ると、戦場で失われた命の尊さについても考えさせられる。また、老人の過去への思いだけではなく、周囲にいる若い世代とのやり取りを通じて、未来に託されたささやかな希望も浮かび上がる。実話がベースで、英国的な大人のヒューマン・ドラマとして静かな感動がある。

公開中、東和ピクチャーズ配給
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前田かおり オススメ作品
『西湖畔(せいこはん)に生きる』

中国の絶景からこの世の地獄へまっしぐら闇堕ちした母の魂を救う息子の孝行劇

画像1: 前田かおり オススメ作品 『西湖畔(せいこはん)に生きる』

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像5/音楽4

あらすじ・概要
  茶畑で働いて息子を女手一つで育てたタイホア。息子は就職し、母であるタイホアを安心させたいと思うがうまく行かない。そんななか、タイホアがマルチ商法にハマってしまう。息子は母を正気に戻そうと奔走するが。

『春江水暖』(19年)で、山水画を思わせる映像美とゆったりとしたカメラワークで大家族の人生の機微を描いたグー・シャオガン監督。本作では前作のスタイルを踏まえつつも、大胆なチャレンジに出た。序盤は山間で茶摘みをしながら慎ましく生きる母子を静謐に映すが、中盤以降は欲望ギラつくマルチ商法の世界を描写。その熱量は強烈で、少々過剰とも思えるほどだが、監督自らマルチ商法の集団に潜入した経験を脚本に反映。そのせいか洗脳シーンは毒気に当てられた気分になる。

画像2: 前田かおり オススメ作品 『西湖畔(せいこはん)に生きる』

 物語は、そんな世界に引き込まれた母を救うために息子が奔走する姿を描く。演じるウー・レイは中国では「国民の弟」とも称され、好青年役が似合う。冒頭、自然と戯れる至福の表情から、母を思う苦渋の表情まで実に多彩。対する母役のジアン・チンチンはドラマ「清越坊の女たち~当家主母~」での凛とした女主人姿とは一変。欲にかられた人間の狂気を体現する。それにしても、このタイトルに宣伝ビジュアルでこんな内容だったとは、凄すぎて小躍り!

公開中、ムヴィオラ、面白映画配給
© Hangzhou Enlightenment Films Co., Ltd.

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