(インタビュー&文・斉藤博昭/デジタル編集・スクリーン編集部)
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リドリー・スコット RIDLEY SCOTT
“歴史モノは衣装や武器をあれこれ考えるのが楽しいし、
人間はつねに同じ過ちを繰り返すというテーマを描くことができる”
──前作から24年経っての続編ですが、自ら監督して作ろうと思った最大の決め手は何ですか?
「多くの人から『グラディエーター』が一番好きな映画だという言葉をもらって、『それなら続編を作れないこともないだろう』と思い立ったんだ。ただ他の作品を手がけていたため、これだけ長い時間がかかってしまった。当初、ある脚本家と組んでプロジェクトが進んだものの、思うような脚本が仕上がらず、一旦中止になった。そこから2年間くらい考えて、あるアイデアが頭にこびりついていた。前作の主人公マキシマスに生き残った息子がいて、ローマの王冠を受け継ぐ立場なので命を狙われる。だから母は息子を遠くへ追いやった……というもの。このアイデアを発展させたのが本作だよ」
──今回の主人公ルシアスはマキシマスの息子ということで、演じるポール・メスカルにマキシマス役のラッセル・クロウの面影を感じたのですか?
「いや、そんなことはない。ポールはアイルランドのラグビー選手のようだろ(笑)? ただラッセルもポールも舞台出身なので声が素晴らしい。今回の撮影でも、ポールがコロセウムで観衆に向かって語りかけるシーンは、舞台的なセリフをうまくこなしていたからね。彼を選んだのはTVシリーズの『ノーマル・ピープル』を観たから。リチャード・ハリス(前作のマキシマスの父役)の孫をやらせたら説得力があると思ったのがきっけかだ」
─前作はマキシマスとトラの対決が話題になりました。今回は新たな猛獣が複数出てきますが、あなたのチョイスですか?
「もちろん。それが私の仕事だからね。脚本家との綿密な話し合いの中で、私がヒヒ、サイ、サメという突飛なアイデアを出した。これらを使ったアクションの撮り方に自信があったからさ。私は7年間、美術学校に通ったので本格的な絵やスケッチを描くことができる。撮影の数ヶ月前に、自分でストーリーボードを描き、1冊の分厚いコミックブックのようになるんだ。ヒヒやサイ、サメの決闘シーンを手がけるスタッフに、それを渡すことで効率よく撮影の計画を立てることができるのさ」
──今回も多くのカメラで一気に撮影するスタイルを選んだそうですね。
「最大で11台のカメラを使って撮影した。会話のシーンはマルチカメラで撮った方が、俳優が自由に演技できるからだ。子役が出ている場合は特に助かる。たとえば本作の場合、猿が登場するが、当然ながら私の指示を聞き入れない(笑)。だから4台のカメラを“猿担当”にして追いかけてもらった。猿が自由に動き回っても、4パターンの映像が収められるので、編集者も選択肢をもらえるわけだ」
──その編集作業も、あなたの現場ではスピード重視だとか。
「撮影の初日から、撮った映像を編集者に渡す。そうすることで毎週末の土曜日に繋いだものをチェックできるんだ。私の作品では、撮影が終わる頃には、すでに半分の編集が終わっている。すべて撮り終わってから編集を始めていたら、1作に2年はかかり、私は痺れを切らしてしまうんだよ(笑)」
──この『グラディエーターⅠⅠ』と前作の『ナポレオン』、さらに『最後の決闘裁判』など最近は歴史モノが多いですね。
「歴史が大好きなんだよ。これから撮る新作も、カタールとドバイを舞台にした金融詐欺のドラマだが、やはり実話ベースだ。歴史モノは衣装や武器をあれこれ考えるのが楽しいし、人間はつねに同じ過ちを繰り返すというテーマを描くことができる。『グラディエーターⅠⅠ』でも、人間は歴史から学ばないという事実を伝えているよ。『キングダム・オブ・ヘブン』のように『あそこを本編に入れておけばよかった』と失敗がその後の糧になった作品もあったが、『ナポレオン』は本当に面白い素材だった。66もの戦いに挑み、30歳で皇帝の座に就いたわけで、その壮大な刺激をどう撮るべきか最初は悩んだ。そこで絶大な権力を誇る男が、ある女性の前では脆弱になるストーリーに焦点を当てることにした。リサーチを進めるなか、ナポレオンの妻ジョセフィーヌの直筆の手紙を見つけた時は興奮した。そこに書かれていた言葉を、ラストシーンに使うことができ、歴史モノを作る醍醐味に浸れたのだ」
リドリー・スコット プロフィール
1937年11月30日、イングランド・サウスシールズ生まれ。1961年に弟トニー・スコットを主演に起用した16ミリ短編「Boys and bicycle」(完成は65年)を監督し、77年の『デュエリスト/決闘者』で長編監督デビュー。『エイリアン』(79)や『ブレードランナー』(82)など、卓越した映像センスで一躍注目を浴び、95年には映画製作会社スコット・フリー・プロダクションズを設立。『テルマ&ルイーズ』(91)、『グラディエーター』(00)、『ブラックホーク・ダウン』(01)の3作でアカデミー賞監督賞にノミネートされており、2003年にはナイトの称号を得た。