誰かを思うことで人生が特別なものになる“普遍的な愛の極意”に溢れたロマンティックコメディ
クリスマス・シーズンを舞台にしたロマンティック・コメディの定番として、すぐに浮かぶのが『ラブ・アクチュアリー』(03)。2004年の公開以来、日本でも多くのファンに愛されてきた作品だ。今年は日本での公開20周年を記念して、4K版のデジタル・リマスターが劇場で上映される。寒くなってきたシーズンに見ると、心と体がホカホカに! 19人の人物たちのさまざまな“愛の瞬間”がつまっていて、とても幸せな気持ちになれる。
まずはキャストの豪華さに驚かされる。ヒュー・グラント、コリン・ファース、アラン・リックマン、リーアム・ニーソン、ビル・ナイ、エマ・トンプソンと、主演作も作れる俳優たちがずらり。さらに新人時代のキーラ・ナイトレイ、初々しいマーティン・フリーマンなど、後に大ブレイクした俳優たちも出演。ベテランから若手まで英国俳優たちのうまみが堪能できる。監督・脚本は『フォー・ウェディング』(94)や『ノッティングヒルの恋人たち』(99)の名脚本家として知られ、その後は『アバウト・タイム 〜愛おしい時間について〜』(13)も監督したリチャード・カーティス。英国のロマンティック・コメディ界の才人で、コメディ、ミスター・ビーン・シリーズの生みの親でもある。
カーティス自身は『パルプ・フィクション』やロバート・アルトマン作品のような群像劇を目指したそうだが、本当に構成が巧み。からまりあう複数の物語をスムーズに見せる。舞台はクリスマス直前のロンドンで、言葉の通じない女性に恋をする作家、愛する妻を失った男と義理の息子、友人の新妻に恋する男性、カムバックをもくろむ落ち目のロックシンガーなど、さまざまな思いを抱えた人物たちが登場。ヒュー・グラント演じる首相のように愛する人に素直に思いを告白できない人物も出てくる。かつてグラントに取材した時、「シャイな人物は、カーティス本人の個性を反映しているんだ」と言っていた。首相以外にも監督自身を反映したとおぼしき控えめな人物像も多いので、こういうところは日本人にも好感度が高いはず。
また、ノラ・ジョーンズ、ジョニ・ミッチェル、ザ・ビーチ・ボーイズ等、選曲もさえている。グラントが官邸で見せる奇妙なダンス、落ち目のロッカー役のビル・ナイのお下劣なパフォーマンス、マライア・キャリーのクリスマス・ソングが歌われる子供たちの舞台など、音楽と連動した名場面(時には迷場面?)も多い。映画のロケはトラファルガー広場、セルフリッジのデパート、テート・モダンなどロンドン市内で行われ、冒頭と最後に登場するロンドンのヒースロー空港が特に印象的だ。この映画が作られたのはアメリカの同時多発テロ事件の直後で、カーティスは憎しみではなく愛の大切さを伝えていた。そして、今、コロナ後の社会には別の閉塞感が漂う。でも、日々が苦しくても、誰かを思うことで人生が特別のものになる。そんな普遍的な愛の極意がこの作品からは伝わる。
『ラブ・アクチュアリー4Kデジタルリマスター』全国公開中/配給:シンカ
STORY|ロンドンではさまざまな愛が交錯する。ダウニング街の官邸に新しい首相が到着。彼は新米の秘書に心ひかれる。恋人に裏切られたジェイミーはフランスのコッテージに行き、そこでポルトガル人の女性との距離を縮める。妻を失い、義理の幼い息子を育てるダニエルは、彼の恋の悩みを知る。19人の人物の思いが語られていく。
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