〜今月の3人〜
北島明弘
映画評論家。心筋梗塞で北里大学病院に入院。大学創設者北里柴三郎の顔が採用された新千円札のバナーがあちこちに。
松坂克己
映画ライター・編集。毎月数十本の試写を見ているが、先日の『ANORA アノーラ』には驚かされた。
渡辺麻紀
映画ライター。25年の期待作はジェームズ・ガンの新生スーパーマンです。クリプト、かわいすぎ!
北島明弘 オススメ作品
『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』
映画監督を目指す少年の痛々しくも微笑ましい青春の1ページをユーモアを交え綴る
評価点:演出5/演技5/脚本4/映像4/音楽4
あらすじ・概要
映画監督志望の高校生ローレンスは親友とともにビデオ作品を撮影。教師からは作品を酷評され、親友も離れていく。バイト先のビデオ屋でも暴走してしまい、孤立してしまうが、己の道をまっしぐら。
『ニュー・シネマ・パラダイス』『エンドロールのつづき』と、映画に魅せられた少年を描く映画は少なくない。彼らの瞳が輝いているのを見ると、「そうだよね」と共感してしまう。これが本作のように映画を撮り始める十代後半が主人公となると、映画製作過程の労苦、将来への不安が加わって、安穏と見ていられなくなる。
21世紀初頭のカナダ。17歳のローレンスは映画監督を目指し親友マットと映画作りに励んでいる。映画を熱愛し、映像美についても一家言をもっているが、作品を見る限り眼高手低の感は否めず、教師からは突き返される。それでも、ローレンスはめげない。ニューヨークのコロンビア大学の映画科を目指し、学費をためるためビデオ屋でアルバイトする。元女優だった店長との会話からにじみ出る映画業界批判も面白い。
シングル・マザーの母親やマットとの関係はややこしく、ユーモアをまじえて綴られる青春の1ページは痛々しくも、ほほえましい。カナダの女性監督チャンドラー・レヴァックのデビュー作で、ビデオ屋で働いていた時の体験を基にしているという。
公開中、イーニッド・フィルム配給
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松坂克己 オススメ作品
『満ち足りた家族』
家族の間で起きたある問題をめぐって対照的なエリート兄弟に確執が生まれる
評価点:演出5/演技5/脚本5/映像4/音楽3
あらすじ・概要
月に一度、夫婦で会食をしている弁護士の兄と医者の弟。生き方の違いから衝突することもあるが、まずまず普通の家庭付き合いだった。だがそれぞれの子供が一緒に
なって事件を起こしてしまい、両家は対応に苦慮する。
『八月のクリスマス』や『四月の雪』などのホ・ジノ監督の最新作で、ソル・ギョングとチャン・ドンゴンという韓国の二人のトップスターの共演だ。それだけでも見る気をそそるが、原作がオランダの作家のもので、これまですでに3度も映画化されているというのが面白い。
なぜそれをいままたホ・ジノ監督は作品にするのか。彼はかつてド・ラクロの「危険な関係」を大胆にアレンジして映画化したことがある。今回も原作からは設定を変え、いかにも韓国らしい社会状況を踏まえたドラマに作り上げているのはさすがと言っていいだろう。
兄は実利を優先する裕福な弁護士、弟は常に道徳的であろうとする清貧な医師。二人ともある意味のエリートではあるが、その生活は対照的だ。だがこの2家族の大学受験を控えた娘・息子がある事件を引き起こしてしまい、それへの対応で兄弟の間に確執が起きる。脚本にも参加しているホ・ジノ監督が出して見せる結論は、衝撃的であると同時に、人間性とは何かを見る者に問いかけてくるのだ。
公開中、日活、KDDI配給
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渡辺麻紀 オススメ作品
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』
80年代の元気なアクションを取り戻し、現代的な問題も織り込んだ熱い香港映画
評価点:演出5/演技5/脚本5/撮影4/音楽3
あらすじ・概要
80年代の香港。黒社会から追われるハメになった不法移民の青年・陳洛軍は九龍城に逃げ込む。そこは人望の厚いみんなの指導者・龍捲風によって平和が保たれていた。陳洛軍は3人の若者に出会う。
かつて元気いっぱいだった香港映画界。ジャッキー・チェンのカンフーアクションやチョウ・ユンファのノアール系アクションに私たちはいつも大興奮していた。そんな時代の元気をこれでもかと詰め込んだのが本作。価値観が大きく変わろうとしている80年代の九龍城を舞台に男たちの闘いとそこから生まれる友情が描かれる。
アクションは文字通り5分に一度。最初はカンフーを中心に、黒社会の連中の介入が激しくなると銃撃戦が加わる。男たちは誰もが達人で、まさに胸のすくアクションの連続。そういう中で育まれる人情や友情は、ジョン・ウーの映画を連想させるような熱さ。アクションで興奮し、ドラマで心を熱くしてくれるのだ。
香港で大ヒットした理由はしかし、それだけではない。住処だった九龍が変わるのなら、自分たちの生き方も変えなくてはいけないのだろう。つまり、今の香港が抱える問題をちゃんと含ませているからだ。80年代を舞台にしていながら、驚くほど現代的な映画になっているのである。
公開中、クロックワークス配給
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