カバー画像:『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』より ©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
イントロダクション
ティモシー・シャラメが体現するボブ・ディランの“ある5年間”

『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』、『エルヴィス』など“レジェンド”と呼ばれるミュージシャンを描いた映画は、傑作となることが多い。そこに新たなページを刻んだのが、ボブ・ディランを主人公にした本作だ。他の多くのミュージシャン映画と違って、この映画は若き日の5年間に絞って、ディランがいかに才能を開花させたのかにフォーカスする。舞台となるのは1960年代の前半。「風に吹かれて」といった名曲が生み出されたプロセスだけでなく、繊細かつピュアな恋愛ドラマ、有名シンガーたちとの熱い交流などを通し、“名もなき者”だった青年が多くの葛藤と闘い、殻を破って成長していく。みずみずしい青春映画の魅力も兼ね備えているので、誰もが共感できる仕上がりとなったのだ。
最大のハイライトは、ボブ・ディランになりきったティモシー・シャラメのパフォーマンス。ハリウッド若手スターのトップに立つ彼が、明らかに過去の出演作とは違う“発声”で20代のディランを甦らせた。しかも自身で名曲の数々を歌いこなし、ステージの観客だけでなく映画を観るわれわれのテンションも上げる。共演キャストたちも注目で、恋人シルヴィ役のエル・ファニングは天才ミュージシャンとの複雑な関係を名演。さらにジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロ、ピート・シーガー役のエドワード・ノートン、ジョニー・キャッシュ役のボイド・ホルブルックと、実在のミュージシャンに扮した演技派の面々がシャラメを支える。
監督のジェームズ・マンゴールドは、本作にも登場するジョニー・キャッシュをホアキン・フェニックスが演じた映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』を手がけた人。ミュージシャンの素顔に深く、鋭く迫りながら、ライブシーンの演出は冴え渡る。ディランの音楽への“覚醒”のバックには、1960年代のアメリカの激動の歴史も重ねられ、時代を鮮やかに体感させるのも本作のマジックだ。第97回アカデミー賞では作品や監督、主演男優、助演男・女優など計8部門でのノミネートを達成。本作は授賞式直前の日本公開となるので、シャラメがオスカーを手にする光景を夢想しながら、スクリーンと向き合うのもいいかも!
あらすじ

1961年、ギターを片手にニューヨークにやってきたロバートは、尊敬するフォークシンガーで、入院生活を送るウディ・ガスリーの前で自作の曲を披露。その場に立ち会った人気シンガー、ピート・シーガーに才能を認められ、ナイトクラブのステージに立つ。ロバートはボブ・ディランという名で、プロのミュージシャンとしてデビュー。アーティストのシルヴィと恋におちつつ、有名シンガーのジョーン・バエズとも関係を持つなど奔放な日常を送りながら、名曲「風に吹かれて」を誕生させる。ボブ・ディランの才能は広く知れわたり、人気も沸騰するなか、1965年、彼はニューポート・フォーク・フェスティバルでの歴史的なパフォーマンスに挑むことになる。
CHECK POINT
ティモシー・シャラメが約70年ぶりの快挙を達成!
現在29歳のティモシーは本作でアカデミー賞主演男優賞候補に。22歳のときには『君の名前で僕を呼んで』(17)でも同賞の候補になったが、20代のうちに2度アカデミー賞主演男優賞候補になるのは、あのジェームズ・ディーン(『エデンの東』『ジャイアンツ』)以来! 約70年ぶりの快挙を成し遂げた。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
全国公開中
アメリカ/2024年/2時間21分/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルック
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