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エル・ファニング(シルヴィ・ルッソ役)
“彼女は、ただ本当の彼を知りたかった”

──ボブ・ディランの大ファンだそうですね。
「13歳のときに『幸せへのキセキ』の現場でキャメロン・クロウ監督が、『雨のバケツ』を何度も流していたんです。いいなと思っていたら、それがボブの曲だと教えてくれて。おすすめのアルバムもね。本当に夢中でした。壁にポスターを貼ったり、中学校では手に筆記体で『Bob Dylan』って毎日書いたり。他の子には変な目で見られましたが『ボブを知らないの?クールじゃないわ』って(笑)」
──あなたが演じたシルヴィは、そんなディランのニューヨーク生活初期におけるキーパーソン、スージー・ロトロがモデルです。
「ボブ本人の希望で、映画では彼女の名前は“シルヴィ”に変更されました。スージーは65年のニューポートにいなかったですし、日付も多少入れ替わっていますが、それ以外は、ふたりの関係はとても現実に忠実だと思います。
脚本では、彼女は今の彼になる前の彼を知る唯一の人物。ピートもある意味そうですが、シルヴィは音楽的な面でボブと関わっていません。ただの若い少年としての彼を知り、ミネソタから来た、キャップをかぶった男の子に恋をした。そして、真実を求めていた。本当の彼を、“ロバート・ジマーマン”を知りたかったんだと思います」
エル・ファニング プロフィール
1998年4月9日、アメリカ・ジョージア州生まれ。姉ダコタの幼少時を演じた『I am Sam アイ・アム・サム』(01)でデビュー。2025年は「プレデター」最新作『Predator: Badlands(原題)』、『わたしは最悪。』のヨアキム・トリアー監督作『Sentimental Value(原題)』が公開予定。
エドワード・ノートン(ピート・シーガー役)
“ピートとボブは、ガンダルフとフロドのよう”

─ピート・シーガーはボブ・ディランをまるで養子のように受け入れ、導きます。そして、この映画が描く4年間の中で、ボブは次第に自分自身の道を切り開き、やがてピートを置き去りにしていくようにも見えますね。
「僕はピートとボブのことを、(『指輪物語』の)ガンダルフとフロドと、そして『力の指輪』のように考えています。ピート・シーガーはあの一団の人々にとってのガンダルフだった。そしてガンダルフがフロドにそう感じたように、彼とウディ・ガスリーは、ディランの中に、自分たちが築き上げ、世に広めたいと願ったものを受け継ぐ人物を見出していたのだと思います。当時のニューポートでの写真や映像が残っていて、ジム(マンゴールド監督)はそれを見事に捉えています。
ステージの端に座ってディランの演奏を見つめるピート・シーガーの表情は…彼の顔には喜びがあふれているんです。彼らが長年の困難を乗り越えながら育んできたもの、ブラックリストにさえ苦しめられながらも守り続けてきたものが、新たな世代の力として大きく花開こうとしている。当時、多くの人々が、自分たちの音楽がついに世界を変えられると感じていたと思います。文字通り、音楽が社会変革の『道具』となるんだと」
エドワード・ノートン プロフィール
1969年8月18日、アメリカ・マサチューセッツ州生まれ。映画デビュー作『真実の行方』(96)でアカデミー助演男優賞候補に。また、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)で同候補、『アメリカン・ヒストリーX』(98)では同賞主演賞候補に。
モニカ・バルバロ(ジョーン・バエズ役)
“私とジョーンは、あらゆるレベルでつながった”

──ジョーン・バエズを演じることについてどう思いましたか?電話で話もされたそうですね。
「とても緊張しましたし、彼女の素晴らしい人生と伝説を称えなければならないという計り知れないプレッシャーを感じました。役が決まった当初、私は歌もギターも未経験でした。でも、映画の中のジョーンはキャリアの絶頂期。なので、最初の目標は、観客の皆さんが、私がミュージシャンになれるかもしれないと思えるようなレベルに達すること。自分の生活を、できる限り練習できるように再構築しました。
ジョーンを演じていて良かったことのひとつは、彼女が自分自身についてとても正直だということです。自虐的な意味ではなく、自分の才能や自分が提供できるものについても正直なんです。だから、ボブについて彼女と交わした会話は、彼女が回顧録で語っていたことと同じでした。彼女には隠し事は何もなく、私に話してくれた情報の中には、これまで彼女が世間に伝えてきた事と異なるものはありませんでした。
彼女は、ギターを弾きながら眠ってしまい、翌朝目が覚めてまたギターを弾き続ける、とも言っていました。驚きました。私も同じことをしたから。私たちはあらゆるレベルでつながることができたんです」
モニカ・バルバロ プロフィール
1989年6月17日、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。ニューヨーク大学ティッシュ芸術学部などで演技を学ぶ。キャリア初期はTVを中心に活躍し、2022年の『トップガン マーヴェリック』でブレイク。2025年は人気犯罪小説を映画化した『Crime 101(原題)』の公開が控えている。
ジェームズ・マンゴールド(監督・脚本・製作)
“ある青年の到着で始まり、彼が去って終わるんです”
──『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』と過去の監督作『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』を比べてみると、どうでしょうか?
「『ウォーク・ザ・ライン』は100%キャラクター・ストーリーで、まったく異なる魅力的な二人の人物のラブストーリーだったと思います。一方、この映画は、第3幕で主人公が啓示を受け、自分を苦しめていた痛みを告白し、苦しみを経て乗り越える、というよくある型にははまっていません。ボブが何かを打ち明けたところで、それがすべてを変えるような瞬間にはならないと感じたからです。
ボブが私に『この映画は何の映画なんだ』と尋ねた際、この映画のことを一番明確に打ち出せました。『ミネソタで育ち、息を詰まらせている若者の話です』と答えたんです。映画がこの青年の到着で始まり、彼が去ることで終わるのは偶然ではありません。そして、この映画がウディ・ガスリーの歌う『So Long, It's Been Good to Know Yuh(さよなら、出会えてよかった)』で始まり、同じフレーズで終わるのもね。この映画は、前に進むこと、そして愛する者さえも置き去りにすることについての映画なのです。」
ジェームズ・マンゴールド プロフィール
1963年12月16日、アメリカ・ニューヨーク生まれ。Calartsで映画と演技を学んだのち、『カッコーの巣の上で』(75)のミロス・フォアマン監督に師事。代表作に『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(05)、『LOGAN/ローガン』(17)、アカデミー作品賞候補になった『フォードvsフェラーリ』(19)など。
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