プロダクションノート
複雑な「恐怖の家」ができるまで

本作の主な舞台になるのはコロラド州郊外にあるミスター・リードの家。撮影はバンクーバーに作られたいくつかのセットで行われた。キャストの対話が多い作品だが、舞台劇のように見せたくなかったスコット・ベックとブライアン・ウッズの監督コンビは撮影監督にチョン・ジョンフン、プロダクション・デザイナーにフィリップ・メッシーナを起用してリードの不気味な家に映画的な命を吹き込むことにした。

「リードの家にあるものはどれも家っぽいけれど、人が住んでいるように感じられません。無味乾燥で、どの部屋もどこかおかしい」と言うのはクロエ・イースト。メッシーナが用意した小さな窓、鍵のかかったドア、人を迷わすような廊下、といったすべてがリードの心の中を表わすようなものばかり。登場する部屋も物語の展開に合わせて順番にその相貌を表わすようになっている。リードが心酔するダンテの神曲の「地獄篇」をリサーチして視覚的に示すなど、目を凝らして見たくなる仕掛けがあちこちに待っている。またある時点でゲームマスターとしてのリードの俯瞰からの目線を示すために、引いたり、上がったり、外に出たりするジョンフンの効果的なカメラワークにも注目したい。

監督コンビはどんな人?

脚本と監督を共同で担当するスコット・ベックとブライアン・ウッズは『クワイエット・プレイス』の脚本で成功し、『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』の監督、『ブギーマン』の製作などで一躍ハリウッドで注目されている気鋭のコンビだ。2人は幼馴染で故郷のアイオワ州でアート系映画館をオープンするなど根っからの映画好き。彼らは以前から宗教を扱った映画を作りたいと話し合っていて、「言葉や思想を通じて会話で怖がらせるものが書けたら素晴らしい」と考えた。『異端者の家』の基になったのは彼ら自身の体験で、大学生だった2人が隕石が地球に激突するという短編映画を製作していた時、ロケ地を探して訪ねた優しい老夫婦の家で「隕石が数か月後に来て人類を絶滅させることは知っている」と老夫妻が語りだしたことで、その場の雰囲気が一変したことにあると言う。これを基に脚本を書いたが、主人公の宗教の深い知識に追いつくためにさらなる調査が必要となったことで一度執筆を中断。その後ウッズが実際にモルモン教徒と結婚したこともあり、モルモン教宣教師と語り合う機会を得たことで脚本が完成に向かったと言う。
ヒュー・グラント起用について

本作での従来のイメージを一変させた演技が絶賛されているリード役のヒュー・グラント。ベックとウッズの監督コンビはウォシャウスキー姉妹監督の『クラウド アトラス』を一緒に見て以来、6つの時代の6人の異なるヴィラン役を力演したヒューに感心し、いつか彼を自分たちの作品に起用したいと思っていた。それからもヒューはリスクのある役を次々引き受け、観客が知っている彼を越えるような役を生み出し続けてきた。ベックは「本作の製作準備をしていた時、ヒューならばもっと暗いキャラクターにさえ、様々なロマコメでもたらしてきた楽しさを与え、引き上げてくれるとわかっていた」と胸を張る。期待に応えたヒューは、宗教的な偶像破壊主義者について学び、何が連続殺人犯やカルト教団のリーダーに悪事を働かせたかを突き止めようとした。「ヒューの調査は徹底的で、わからないセリフがあれば次々質問してくるんです」とウッズも言う。こうした努力もあってヒューはこれまで以上に飛躍した独創的な悪役リードを生み出すことに成功した。
スコット・ベック監督&ブライアン・ウッズ監督インタビュー

“この映画は僕たち2人の数十年にもおよぶ友情から生まれたものなんです”
──本作のテーマが「宗教」や「信仰」になったきっかけは何でしょうか?
スコット・ベック監督(以下、ベック)「恐竜やモンスターやエイリアンが登場する、ストレートなホラーやスリラーの脚本や監督を務めてきて、よりパーソナルな内容を描きたいと思いました。本作は、ブライアンと僕の数十年におよぶ友情から生まれたもので、人生について、そして僕たちが信じることと信じないこと、その理由について深く話し合ってきた結果でもあるんです。怖さやスリラーの要素を背景に、僕たちがずっと考えを巡らし、あれこれ考察してきたテーマを描きたかったんです」
──映画では「宗教」を説明する際に、リードが「モノポリー」を例に出しますね。
ベック「宗教のように大きな概念を扱う際、ビジュアルを用いた比較が鍵になります。この映画では、古代の宗教を説明して対比させることに苦労しました。モノポリーは世界的に人気のあるボードゲームですし、(宗教を説明する)入り口として完璧だったんです。モノポリーも反復の歴史をたどっていますから。レディオヘッドとホリーズの例も同じです。それに僕たちは、皆さんに馴染みのあるポップカルチャーを挿入するのが元々好きなんです」
──同シーンでは「スター・ウォーズ」にも触れますよね。ちなみにヒューがジャージャー・ビンクスの声マネをしますがアドリブですか?
ブライアン・ウッズ監督「ジャージャーに触れるセリフ自体は脚本からあったのですが、声マネはヒューのアイデアなんです(笑)。彼との撮影は、すべてのテイクが異なっていて楽しかった。毎回、何かを変えてくるんですよ」
(インタビュー&文/SCREEN編集部)
『異端者の家』
2025年4月25日(金)公開
アメリカ=カナダ/2024/1時間51分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督・脚本:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ
出演:ヒュー・グラント、ソフィー・サッチャー、クロエ・イースト
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