名優のキャリアを中心にその道のりを振り返る連載の第42回。今回は『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』で先駆的な女性戦場カメラマンを熱演しゴールデングローブ賞主演女優賞候補になったケイト・ウィンスレットをクローズアップします。数々の出演作でタフで繊細な女性役などを演じてきた現代英国映画界を代表する名女優です。(文・井上健一/デジタル編集・スクリーン編集部)
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情熱的でタフな女性を演じることが多いイメージを持つ
英国を代表する名女優

「彼女を演じて、何か信じられないほど突き動かされるものを感じた」

これは、『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』で主人公リー・ミラーを演じたケイト・ウィンスレットが語った言葉だ。第二次世界大戦下、男性の兵士たちに交じって最前線で歴史的写真を撮り続けた女性戦場カメラマンの先駆者リー・ミラー。タフで情熱的なその姿を描いたこの映画の実現まで、プロデューサーを兼任したケイトは、8年もの歳月を費やした。なにが彼女をそこまで駆り立てたのか。これまでの歩みを振り返ると、その理由が見えてくる。

ケイト・ウィンスレット(本名:ケイト・エリザベス・ウィンスレット)は、1975年10月5日、イギリスのバークシャー州で、4人姉弟の3人目として生まれた。家庭は祖父母の代から続く俳優一家だったため、彼女も演劇を学び、俳優の道へ。17歳の時、『乙女の祈り』(94)で映画初出演を飾るが、実在の事件に基づくこの作品で演じたのは、親友と2人で自分たちだけの世界に没頭した末、それを邪魔しようとする親友の母親を殺害する少女という難役だった。

これがヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞に輝くと、翌年出演した『いつか晴れた日に』(95)のベルリン国際映画祭金熊賞受賞と共に、自身もアカデミー賞に初ノミネート(助演女優賞)。早くも頭角を現したケイトの名を世界に知らしめたのが、1997年の名作『タイタニック』だった。この作品でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたケイトは以来、オスカー候補の常連となり、通算6度目の候補となった2008年の『愛を読むひと』で主演女優賞に輝く。この年は、ゴールデングローブ賞でもドラマ部門の主演女優賞(『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』08)と助演女優賞(『愛を読むひと』)をダブル受賞し、まさに独壇場だった。

画像: 『タイタニック』で共演したレオナルド・ディカプリオと世界的人気者に

『タイタニック』で共演したレオナルド・ディカプリオと世界的人気者に

こうして数々の名演を披露してきたケイトだが、傾向としては『タイタニック』のヒロイン、ローズのように、情熱的でタフな女性を演じることが多い。

『愛を読むひと』で演じた主人公ハンナは、第二次世界大戦後のドイツで、秘密を抱えながら、年の離れた少年と恋に落ちるミステリアスな女性。1人の女性として恋を謳歌する前半と、法廷で抱えていた秘密が明らかになり、批判を受けながらも毅然と立ち続ける後半の二面性は、本領発揮といえる役だった。

画像: 『愛を読むひと』でアカデミー賞主演女優賞を受賞

『愛を読むひと』でアカデミー賞主演女優賞を受賞

ありのままの自分自身をスクリーンに曝す

また、デビュー作の『乙女の祈り』以来、ヌードやベッドシーンを厭わないのもケイトの強みだ。しかも、『タイタニック』の頃、外見に関する激しいバッシングを受けた経験がありながらも、「自分の肉体のあら探しをするなんて、貴重なエネルギーを無駄にする行為」と、一切取り繕おうとしない。『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』でも、「準備が必要だろう」と気遣う撮影チームに対して、「必要ない。これが私だから」と、ありのままの姿をカメラの前に晒している。その点も、ヒトラーの住居の浴室で、リーが自らを写した写真「ヒトラーの浴室のリー・ミラー」(劇中でも再現)に通じるものがある。その強さや逞しさは、23歳で最初の結婚をして以来、3度の結婚歴(2人目の夫は映画監督のサム・メンデス)を持ち、2013年までに3人の子を持つ母となったこととも無縁ではないかもしれない。

『愛を読むひと』でオスカーを手にして一段落したのか、その後は『スティーブ・ジョブズ』で助演女優賞にノミネートされた2015年以外、アカデミー賞からは遠ざかっている。その一方で、2021年のテレビドラマ「メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実」からはプロデュース業にも進出。『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』では、脚本からキャスティング、監督やスタッフの編成まで、制作を全面的に主導した。そして現在は、ヘレン・ミレン主演で初監督作の制作も進行中。それが、モデルからカメラマンに転身したリーの影響を受けたものとみるのは、考え過ぎだろうか。

こうして振り返ってみると、リー・ミラーという役との出会いは、ケイトにとって運命的にも感じられ、「突き動かされるものを感じた」という冒頭の言葉ももっともに思えてくる。その意気込みはスクリーンからもひしひしと伝わるが、最後はその姿を間近で見て、彼女の思いをよく知る共演者アンディ・サムバーグの言葉で締め括りたい。

「ケイトはきっとたくさんの人に『ノー』と言われたと思う。リーがそうだったようにね。しかし、リーのようにケイトもそれを理由に辞めることはしなかった。その執念が実ってこの映画がある」

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