父が自分のことをどう思っているのかを息子が探っていく
──監督がオファーを受けたときのお気持ちからお聞かせください。
これまで自分はノンフィクション作品を原案にしたものを手掛けたことがありませんでした。しかも原案はイギリスが舞台です。国も文化も言語も違うので、そのままそっくり日本での出来事として置き換えられるはずもなく、上手に脚色しなければなりません。とてもチャレンジングな企画ではあるけども、挑戦し甲斐があると思いました。
──脚本開発は脚本家の三嶋龍朗さんがプロットを作って、執筆し、それを監督が主宰するライターズルームのモノガタリラボの方々を交えて意見交換するという形で行われたと聞きました。三嶋さんがプロットを作る際、監督から何か事前にお伝えになったことはありましたか。
まずは「このノンフィクションをどう映画に落とし込むか」という構成についてモノガタリラボのメンバーで意見を出し合うところから始めました。その中から出たアイディアを参考に僕が構成をまとめ、三嶋くんプロットにしてもらいまいた。そこからプロデューサー含めみなさんでブラッシュアップした上で脚本化していきました。

──大勢の方が関わることで意見は多く出たと思いますが、それを1つにまとめるのは難しくありませんでしたか。
とても難しいですね。ただし、ひとりひとりの意見をよく理解し、うまくまとめる事さえできれば、たくさんの意見が出ることはむしろメリットになります。1人で書くよりも多角的な脚本になる可能性が高い。だからこそ、それをまとめる人間の手腕が試される仕組みだと言えます。
──今後もこの方法で脚本開発を進めていかれるのでしょうか。
そうすると思います。多くの人からアイディアを頂くのは、企画の初期段階ではとても有効だと思いました。ただこのアプローチは内容によって向き不向きがあります。例えば作家性や個性を強く出したい時にはあまり向きませんので、別のアプローチをとることになります。
──最終仕上げで大事にしたのはどういったことでしょうか。
この作品は父と息子、家族、音楽、アルツハイマーなどいろいろな切り口からご覧いただける物語になっています。それだけを聞くと良いことのように思えますが、実はこれら全部をバランスよく描いてしまうと、お客さんはかえって何を見ればいいのかわからなってしまう恐れがあります。そこで僕は最終仕上げとして、それらの切り口に強弱をつけて、父が息子をどう思っているのかを探る、父と息子の物語なのだという道筋をはっきりとつけていきました。
