カバー画像:Photo by Gareth Cattermole/Getty Images
“内面の葛藤”のギャップやグラデーションを
微かな表情の動きで伝える秀逸な演技力
この2作を境に、ピューの卓越した演技力を求められる作品が次々と舞い込む。2021年には、マーベル映画『ブラック・ウィドウ』に抜てき。アベンジャーズの最古参メンバーの一人ナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)の“妹”エレーナに扮し、同シリーズに新風を吹き込んだ。2025年には「ホークアイ」(21)に続いてエレーナを再演した 『サンダーボルツ*』が公開。米映画・ドラマ批評サイト「Rotten Tomatoes」上ではアーリーレビューで95%の高評価をマークしたが、人前では強がりながら裏では虚無感に苦しむエレーナの痛みをビビッドに体現したピューの“生きた芝居”が相当効いており、感情面を強力にリードしている。
ギリギリのところでなんとか形を保っている不安定さの解像度という面では、『オッペンハイマー』(23)も出色。主人公と恋仲になり、結婚後も関係を続けてしまう情念と理性がない交ぜになった役どころであり、ノーラン監督初となるベッドシーンにも挑戦。限られた出演時間ながら強烈なインパクトを残し、錚々たるアンサンブルキャストの中でもまるで引けを取らない。そして、各演技賞にノミネートされたNetflix映画『聖なる証』(22)。自身の心の傷を見せないように職務にあたる看護師の心に渦巻く“内面の葛藤”のギャップやグラデーションを微かな表情の動きで伝える技術が秀逸だ。

『ブラック・ウィドウ』(2021)
『ブラック・ウィドウ』 ディズニープラスにて見放題独占配信中
© 2025 Marvel
ピューだからこそまっすぐに響く人間味あふれる“揺らがぬ揺らぎ”
これらの作品群は“強く見える女性の弱さ”が顕著だが、逆転の発想といえるのが『ドント・ウォーリー・ダーリン』(22)。お仕着せられた“良妻”の役割から解き放たれていくたくましさは、ピューだからこそまっすぐに響いてくる。さらに、アンドリュー・ガーフィールドと共演した『We Live in Time この時を生きて』(24)では、強さも弱さも等価に抱きしめ、変化を恐れない自立した女性を好演。シェフとしての生き方を愛し、「仕事が一番で恋愛は二の次」な割り切ったライフスタイルを送っていた彼女が異なる価値観を持ったパートナーを受け入れ、「独りの生き方」ではなく「家族との生き方」を選んでいくプロセスを見事に創出している。チームという“家族”の温かさに触れて孤独との付き合い方を見出していく『サンダーボルツ*』との共通項も見られ、フローレンス・ピューという役者自身の成熟度とシンクロするよう。
この先は『アベンジャーズ/ドゥームズデイ(原題)』やドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による「デューン」シリーズの新作『デューン:メサイア(原題)』といった大作が控えるが、フィールドがどうあれ彼女らしい人間味あふれる“揺らがぬ揺らぎ”を作品に宿し続けてくれることだろう。
『ドント・ウォーリー・ダーリン』(2022)
Don't Worry Darling © 2022 Warner Bros. Entertainment Inc.All rights reserved.
『ドント・ウォーリー・ダーリン』デジタル配信中
【初回仕様】ブルーレイ&DVDセット5,280円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
『デューン 砂の惑星 PART2』(2024)
©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. and Legendary.All rights reserved.
『デューン 砂の惑星PART2 』
4K ULTRA HD&ブルーレイセット 7,480 円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

『サンダーボルツ*』(2025)
『サンダーボルツ*』公開中 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2025 MARVEL
Filmography
フローレンス・ピューの主な出演作
2014)
『フォーリング 少女たちのめざめ』
2016)
『レディ・マクベス 17歳の欲望』
2018)
『トレイン・ミッション』
『呪われた死霊館』(Netflix映画)
『アウトロー・キング スコットランドの英雄』(Netflix映画)
『アンソニー・ホプキンスのリア王』(TV映画)
「リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ」(ドラマ)
2019)
『ファイティング・ファミリー』
『ミッドサマー』
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
2021)
『ブラック・ウィドウ』
「ホークアイ」(ドラマ)
2022)
『ドント・ウォーリー・ダーリン』
『長ぐつをはいたネコと9つの命』(声の出演)
『聖なる証』(Netflix映画)
2023)
『87分の1の人生』(日本劇場未公開)
『オッペンハイマー』
『君たちはどう生きるか』(声の出演)
2024)
『デューン 砂の惑星 PART2』
『We Live in Time この時を生きて』
2025)
『サンダーボルツ*』