セクシー・アイコンとして今もなお人々の記憶に残り続けるハリウッドの人気女優マリリン・モンロー。その彼女のこれまでのイメージが時代の変化によっていま変わりつつあります。愛を求める孤独な少女だったモンローが、セルフプロデュースによって自分をコントロールし、男性優位だった映画界で大スターの地位を確立していく能力に再評価が集まっています。まもなく生誕99年となる彼女の新たなドキュメンタリー『マリリン・モンロー 私の愛しかた』でも描かれる類まれな魅力と才能、36年という早すぎた生涯を振り返ってみましょう。(文・清藤秀人/デジタル編集・スクリーン編集部)
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幼少期を里親の家や孤児院などで過し、いつしか映画界を夢見るように

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ハリウッドがまだ黄金期にあった1940年代から1950年代にかけて、スクリーンはグラマラスな肉体を全面に押し出した、いわゆるセックスシンボルで溢れ返る。その筆頭にいたのがマリリン・モンローだ。その性的魅力で男性の欲望を掻き立てる一方で、演技に対する執着が強く、パブリックイメージを自らコントロールする術を心得ていたとも言われるモンローだが、1962年の8月4日、36歳の若さで不慮の死を遂げて以降、死の真相、その実像は今も謎に包まれたままだ。1926年の6月1日生まれだから、もし、生きていたら今年で99歳を迎えていたはずのモンロー。そんな節目の年に、36年の人生で起きた興味深いトピックを拾い集めてみたい。

画像: 里子に出された子供時代 写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

里子に出された子供時代
写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

カリフォルニア州ロサンゼルスで生まれ育ったモンロー、実名ノーマ・ジーン・モーテンセンは、幼少期のほとんどを里親の家や孤児院で過ごした。母親のグラディスが結婚してわずか4年で夫と離婚し、ノーマを里親のもとに預けて時々会いに来ていたが、やがて、ハリウッドに小さな家を購入してからは母娘の生活がスタート。しかし、グラティスは精神衰弱を患い、ノーマは州の保護下に置かれることになる。母親の友人宅や孤児院を転々とする中で、性的虐待を受けた可能性が指摘され、結果、内気で引き篭もりがちになったノーマだが、里親の何人かが連れ出してくれた映画館で、真夜中近くまで最前列に座って、フィルムが映し出す夢の世界に没頭していく。

夢が現実に繋がるきっかけはモデル業だった。1945年、モデル・エージェンシーと契約したノーマは、茶色の巻毛をプラチナブロンドに染め、瞬く間にエージェンシー最高の稼ぎ頭に昇格。ハリウッドメジャーの一角、20世紀フォックスと契約を結んだのは翌年、1946年のことだ。ノーマのスクリーンテストに立ち会ったフォックスの重役、ベン・ライオンはブロードウェーのスター、マリリン・ミラーから発想してノーマの芸名をマリリン・モンローに決める。こうして、波乱に満ちたモンローの俳優人生がスタートする。

型にはまった役に飽き足らず演技力を磨くための努力も惜しまなかった

デビュー当初は端役ばかりだったが、業界の目利きたちはモンローの才能に早くから着目していた。『イヴの総て』(‘50年)で主役を演じたベティ・デイヴィスは共演者のモンローについて、『非常に野心的で間違いなく成功すると確信していた』とコメント。また、ジョン・ヒューストン監督作『アスファルト・ジャングル』(‘50年)では出番は数分だったものの強烈な印象を残したモンローについて、伝記作家のドナルド・スポトーは『彼女はモデルから俳優へ完全に移行した』と称賛する。

画像: カレンダーに使われた無名時代のヌード写真 写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

カレンダーに使われた無名時代のヌード写真
写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

20世紀フォックスとの間で新たな契約が成立した頃、無名時代に撮影したフルヌード写真が流出し、キャリアに赤信号が点ったが、そこは夢の王国。スタジオ側はモンローと相談の上で当時は生活費に困窮していたことを強調することで大衆の同情を買い、逆にモンローには主役オファーが相次ぐことになる。雑誌“LIFE”の表紙を飾ったのはこの頃だ。

1953年には『ナイアガラ』で大瀑布を背景に愛人と密通するヒロインを演じる過程で、伝説の“モンローウォーク”を披露し、『紳士は金髪がお好き』では後にマドンナが“マテリアルガール”で完コピするミュージカルシーケンスを残し、『百万長者と結婚する方法』では高級アパートに引っ越して玉の輿を狙うモデルの一人に扮して絶妙なコメディエンヌぶりを披露したモンローは、凡庸な映画の救世主となる。そんな彼女には「賢くはないけれど性的魅力で溢れ返る女性」というレッテルが貼られるが、事実は少し異なる。フォックスと契約直後、演技の幅を広げるためにパントマイムの第一人者、ロッテ・ゴズラーに師事。1955年初頭には自ら主催する制作会社“マリリン・モンロー・プロダクション(MMP)”を成立し、同年、ニューヨークに渡ってリー・ストラスバーグの“アクターズ・スタジオ”でメソッド演技のワークショップに参加している。

画像: アクターズ・スタジオに通い演技力に磨きをかけた 写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

アクターズ・スタジオに通い演技力に磨きをかけた
写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

画像: 『七年目の浮気』のスカートが捲れる有名シーンの撮影中 写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

『七年目の浮気』のスカートが捲れる有名シーンの撮影中
写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

演技レッスンの成果はハリウッド帰還後、出演した『バス停留所』(‘56年)の歌手役に活かされ、ビリー・ワイルダー監督の『七年目の浮気』(‘55年)はその年最高の興収を弾き出し、同じワイルダーと組んだ『お熱いのがお好き』(‘59年)ではゴールデングローブ賞ミュージカル/コメディ部門の主演女優賞に輝く。

その急逝の裏には自殺説、陰謀説と様々な噂があるが……

画像: 2番目の夫、ジョー・ディマジオと 写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

2番目の夫、ジョー・ディマジオと
写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

画像: 作家アーサー・ミラーと3度目の結婚 写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

作家アーサー・ミラーと3度目の結婚
写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

私生活では、1954年1月14日、元ニューヨーク・ヤンキースのスター選手、ジョー・ディマジオと結婚し、新婚旅行で日本を訪れている。しかし、自分の人気を当て込んで訪れた日本で妻の方により大きな注目が集まるのを目の当たりにしたディマジオは、モンローの人気に嫉妬したと言われている。その後、モンローは韓国に渡ってアメリカ海兵隊のショーに出演し、喝采で迎えられ、ディマジオは日本で野球指導を行った。1954年10月、結婚わずか9ヶ月でモンローは離婚を申請し、翌年10月にディマジオとの離婚が成立。その頃にはモンローの興味は劇作家のアーサー・ミラーへ移行していて、2人は1956年6月29日、ニューヨークで結婚式を挙げる。メディアはこの結婚を不釣り合いだと報じたが、モンローはミラーが属するユダヤ系コミュニティの一員になるためユダヤ教に改宗。ミラーに対して忠誠心を誓う。しかし、この結婚もミラーがモンローのために脚本を執筆した『荒馬と女』(’61年)の撮影中に破綻。モンローは役柄に対する不満を口にし、撮影前夜に脚本を書き直すミラーの悪癖にも悩まされた。同時に、かねてから指摘されていたモンローの薬物依存が悪化し、薬の影響で就寝中にメイクを受けることもあったという。

画像: ケネディ大統領に「ハッピー・バースデー」を歌ったステージ 写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

ケネディ大統領に「ハッピー・バースデー」を歌ったステージ
写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

ブレントウッドの自宅の寝室で、シーツにくるまり、受話器を持ったまま息絶えたモンローの遺体が発見されたのは、1962年8月4日のこと。今も自殺説、陰謀説が渦巻く中、近く公開されるドキュメンタリー映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』(‘22年)では、当時モンローとの交際が噂されたケネディ兄弟とマフィアによる陰謀説を選択している。同作はまた、モンローの葬儀に過去の夫たちの中で唯一参列し、映画関係者をシャットアウトして密葬をセットアップしたジョー・ディマジオの姿を紹介している。

画像: モンロー急死のニュースは世界を駆け巡った 写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

モンロー急死のニュースは世界を駆け巡った
写真は映画『マリリン・モンロー 私の愛しかた』より

最新作も含めて、これほど長きにわたり、映画やアートワーク、パフォーマンスのテーマであり続けるスターは、モンロー以外に思いつかない。彼女が愛される理由は、可愛さとセクシーの裏で演技への執念を燃やし、求める幸せと安息とは生涯縁がなかった不世出のアイコンに対する性差を超えた共感があるのではないだろうか。

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』
2025年5月30日(金)公開
フランス/2022/2時間/配給:彩プロ
監督:イアン・エアーズ
出演:マリリン・モンロー、トニー・カーティス、ジェリー・ルイス、ジョージ・チャキリス、ジェーン・ラッセル

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