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初期から確立していた俳優としての“特別な資質”
子役として注目を集め、そこから俳優として着実に成功を収める。大ヒット作で名前を広く知られた後も、メジャー系から小規模の作品まで、また等身大のキャラクターから強烈な悪役までと、どんな条件でもその世界の人間になりきる……。これは長く活躍する俳優の、ひとつの理想型だが、30代半ばで体現しているのが、ニコラス・ホルトだろう。
1989年にイギリスで生まれたニコラスは、6歳で俳優のキャリアをスタートさせ、公開時12歳の『アバウト・ア・ボーイ』が最初のブレイク。ヒュー・グラント演じる優雅な独身の主人公の運命を変える少年役で、天才子役ぶりを発揮した。そして10代後半、英国チャンネル4のドラマ「スキンズ」での無意識に人の心も操る人気者のトニー役は、ニコラスにとっても大人の俳優へ成長する重要な仕事となり、その後、コリン・ファースの大学教授を惑わす不敵さ、本心が掴みにくい悩ましげな雰囲気という高度な表現に挑んだ『シングルマン』で、若手実力派スターの仲間入りを果たす。
この初期の代表作で、ニコラスの特別な資質は確立されていたのかもしれない。相手を瞬間的に虜にするミステリアスな瞳、全身から漂わせる妖しさは、俳優としての大きな武器になったと言っていい。メジャースタジオの大作の「X−MEN」シリーズで、野獣キャラのビーストに変貌するハンクを皮切りに、ニコラスは等身大の青年よりも、極端なシチュエーションの役でその実力を示していく。恋するゾンビ青年役の『ウォーム・ボディーズ』を経て、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の、武装戦闘集団「ウォーボーイズ」の一人、ニュークス役では、リミッターを外して過激に暴れ回り、多くの人を恐れ知らずのチャレンジ精神で圧倒した。この時、ニコラスは25歳。俳優としてどんな方向へ進むのかにも期待が高まった。
『アバウト・ア・ボーイ』当時のホルトとヒュー・グラント
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“極端さ”と“誠実さ”両面をブレンドし活躍
一度でも過激な役どころで目立った俳優は、逆パターンを演じた時、そのギャップで観る人の心をときめかせる。ニコラス・ホルトの場合、『トールキン 旅のはじまり』での「指輪物語」の原作者J・R・R・トールキン役がその好例。従軍するシーンもあるが、基本的に名門オックスフォード大学時代など青年期を瑞々しく演じる彼の姿には、英国俳優ならではの端正さ、洗練さが際立っていた。
ニュークス役などの極端さと、トールキン役などの誠実さ。その両面をブレンドした作品やキャラクターに、近年のニコラスの活躍が顕著に表れている。『女王陛下のお気に入り』で演じた18世紀の伯爵ロバート・ハーレー役では、巨大なウィッグを被り、エマ・ストーン演じる女中のアビゲイルにブチ切れるなど、外見や演技は強いインパクトながら、全体としては高尚なムードも漂う作品だった。『ザ・メニュー』はその逆で、ニコラスのタイラー役は素直なキャラクター。放り込まれるのが、孤島のレストランと、背景が恐るべき世界だった。同じ系統が『ノスフェラトゥ』で、吸血鬼を巡るダークな世界観の中で、彼が演じた不動産屋のトーマスはひたすら誠実に行動する。作品世界が強烈であれば優しく、それほどでなければ過激に暴走する。そこにニコラスの真骨頂が見てとれる。
レックス・ルーサー役も納得!近作でも最上の演技を魅せる
そんなニコラスの演技力が最高レベルに達している最近の作品が2つある。ひとつはジュード・ロウと共演した『オーダー』。白人至上主義のテロ集団で、人々の心を“洗脳”してしまう若きカリスマのボブ・マシューズ役。集会での弁術の迫力や巧みさと、ニコラスが俳優として人の心を夢中にする“説得力”がシンクロした。そしてもう一本が『陪審員2番』。裁判の陪審員を務めつつ、その殺人事件に自分も深く関わっていたことが発覚するという、かなり複雑な役どころ。最終的に彼はどんな判断を下したのか。ラストシーンでのニコラスの表情には、これまでのキャリアが凝縮され、観ているこちらも鳥肌モノ!
こうした近年の実績を振り返れば、ニコラス・ホルトに『スーパーマン』の宿敵役レックス・ルーサーが任されたのも納得がいくはず。これまでジーン・ハックマン、ケヴィン・スペイシー、ジェシー・アイゼンバーグと、超実力者が担ってきたこの役に、どんな新たな面を注入するのか。期待を超えたルーサーがスクリーンにお目見えするのは間違いない。