映画『8番出口』は、男が無限ループに迷い込むサバイバルを描いた作品である。監督は川村元気氏。主演には二宮和也を起用した。原作は、インディーゲームクリエイター・KOTAKE CREATEが制作し、累計販売本数190万本を超える販売を記録した世界的ヒットゲーム。物語を持たないこのゲームをどのように映画化したのか。主演・二宮との協働についても含め、脚本も担当した川村監督に聞いた。(取材・文/ほりきみき)

脚本を読んで、うまくいかないシーンを直感的に見出す山田洋次監督

──『百花』(2022)で取材させていただいたときに「“自分がプロデューサーの立場なら、絶対に嫌なこと”をやったら、むしろ“珍しくて新しいもの”が生まれるのではないかという観点で作ったことで、『映画館で観る』という体験の独自性、優位性への意識が強くなった」とおっしゃっていました。

今はTikTokやYouTubeで楽しいものが無料で見られるので、スマートフォンに取られる時間がすごく長い。そんな環境下で、なぜ、わざわざ映画館に行って、映画を見るのかということに僕らは向き合わなくてはいけません。だったら、映画館でしかできない体験があれば、ユニークな映画が生まれるのではないかと、より強く考えるようになりました。

ではフックになることとして、どんなことがあるのか。まず、1つめとして、映画館に行くとスマートフォンを見ない。つまり、映像や音楽のものすごい没入体験ができる。IMAXなどは、まさにその没入体験を売りにしているわけです。

もう1つ、「待つ」という体験ができる。タイパという言葉があるように、現代人は本当に待てなくなっています。この映画は途中で10秒以上、画面が静止して無音になるのですが、スマートフォンで見ていたら、多分、みんなスワイプしていると思います。でも映画館では待たざるを得ないので待っていると、第2章にガツンと切り替わる。あのような、物語が一気に動いたときのカタルシスは映画館ならではの時間のコントロールによって生まれるので、意図してやっていますが、かなりインパクトのある体験になるのではないでしょうか。

今後も映画を作るときには、映画館で見ることをかなり意識して作っていくと思います。

──映画館で観る優位性を考えると、音の付け方にもこだわっていらっしゃったのではありませんか。

今回、映画音楽をポップミュージックのスタープレイヤーである中田ヤスタカくんと『百花』でも音楽をやってもらった網守将平くんの2人にお願いしました。中田くんにはゲーム音楽的なアプローチを、網守くんには人間に寄り添う音楽を作ってもらいました。機械的世界と人間的世界が音楽でも対比するようにしたのです。

説明をできる限り排し、聴覚からもループを体感できるよう工夫しました。冒頭でボレロが流れ、ループのたびに同じジングルが聞こえます。IMAXやDolby Cinemaといった大画面・大音響フォーマットでこそ楽しめる作りにしました。

画像1: 脚本を読んで、うまくいかないシーンを直感的に見出す山田洋次監督

──エンドロールにSpecialthanksとして、山田洋次監督、是枝裕和監督、李相日監督のお名前がありました。どのような形で関わっていただいたのでしょうか。

今っぽくてトリッキーな題材に見えますが、『シャイニング』(1980)や『雨月物語』(1953)などの古典的な恐怖映画の要素を纏いたいと思っていました。そこで、なるべくこの題材から遠い方に相談したのです。山田監督は主人公のセリフ、是枝監督は脚本の構成、李監督はキャラクター像について決定的とも言えるアイデアをいただきました。

──是枝裕和監督とは『怪物』(2023)で、李相日監督とは『怒り』(2016)、『悪人』(2010)でご一緒されていますが、山田洋次監督とはどのような繋がりがあったのでしょうか。

山田監督が主宰する映画監督のサロンみたいな集まりがあって、李監督や是枝監督もいらしています。僕も10年ほどずっと参加していて、2ヶ月に1回ぐらい山田監督と会う機会があるのですが、会うたびに「今、こういうことやっていて…」と相談してきました。『百花』のときも本打ちをしてくれていたのです。山田監督は最強の脚本家でもあるので、自分がディレクターをやるときは特に全力で頼ります。

──監督にとって山田監督は師匠のような存在なのですね。

山田監督は寅さんシリーズだけで50本、通算100本近く映画を作ってきた経験から、脚本を読んで“うまくいかないシーン”を直感的に見抜かれます。場数が違う。毎回、非常に貴重な視点をいただきます。

この作品に関しても、「こういうゲームのことは全然わかんないんだよ」おっしゃられながら脚本を読んでおられましたが、初号を見て「面白かった。こうなるんだなあ」と楽しんで帰っていかれました。新しいものに対して貪欲だから、いまだに現役でいられるのかなと思います。年齢差は半世紀ありますが、映画を通じて友人のように接していただいていると感じています。

──第78回カンヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門出品されましたが、その後のインタビューで「カンヌの会場で観ながらここ直そう、みたいなことを考えていた」とおっしゃっている記事を拝見しました。日本での公開はカンヌとは異なる日本バージョンになっているのでしょうか。

少しだけ手を加えました。内容はネタバレになるので言えませんが、完成度を高めるための調整です。

──では最後に、これから作品を観る方へひとことお願いします。

映画館で観たときに、新しい映画体験や発見があると信じて作りましたので、ぜひ映画館でご覧いただけると嬉しいです。暑い夏でも涼みながら楽しい95分を没入して過ごしていただけると思います。間違い探しのような遊びの要素もあるので、二度目は新たな発見がありますので、お見逃しなく。

画像2: 脚本を読んで、うまくいかないシーンを直感的に見出す山田洋次監督

<PROFILE>  
川村元気  
1979年横浜生まれ。『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『怪物』などの映画を製作。2010年、米 The Hollywood Reporter 誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌11年に「藤本賞」を史上最年少で受賞。2012年に小説『世界から猫が消えたなら』を発表し、同作は32カ国で翻訳出版され、世界累計270万部超のベストセラーとなる。他著に小説『億男』『四月になれば彼女は』『神曲』『私の馬』、対話集『仕事。』『理系。』、翻訳を手がけた『ぼく モグラ キツネ 馬』等。2018年、佐藤雅彦、平瀬謙太朗らと共同監督した『どちらを』が第71回カンヌ国際映画祭短編コンペティション部門に選出された。2022年、自身の小説を原作として、監督・脚本を務めた『百花』が第70回サン・セバスティアン国際映画祭にて、日本人初となる最優秀監督賞を受賞。2025年、監督・脚本を務めた本作が第78回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション【ミッドナイト・スクリーニング部門】に選出された。

(c)YOSHIHARU OTA

『8番出口』2025年8月29日(金)全国東宝系にてロードショー

画像: - YouTube youtu.be

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<STORY>  
白い地下通路を歩いていくと、天井には【出口8】の看板。だがいつまでも出口に辿り着くことができない。何度もすれ違う同じ男に違和感を覚え、やがて自分が同じ通路を繰り返し歩いていることに気付く。そして壁に掲示されている、謎めいた【ご案内】を見つける。通路のどこかに【異変】があれば引き返し、なければそのまま前に進む。【1番出口】【2番出口】【3番出口】……正しければ【8番出口】に近づき、見落とすと【0番出口】に戻る。次々と現れる不可解な異変を見つけ、絶望的にループする無限回廊から抜け出すことができるのか?

<STAFF&CAST>  
監督: 川村元気  
脚本: 平瀬謙太朗、川村元気  
音楽: Yasutaka Nakata (CAPSULE)、網守将平  
脚本協力:二宮和也  
出演:二宮和也 河内大和 浅沼成 花瀬琴音 小松菜奈   
配給:東宝  
©2025 映画「8番出口」製作委員会

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