Special Column:台湾発青春ラブストーリーはなぜ心を打つのか?

『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』
このところ台湾の青春ラブストーリーがアジア各国でリメイクされるケースが増えている。2011年に台湾で社会現象になるほど大ヒットした90年代が舞台のラブコメ『あの頃、君を追いかけた』は、2018年には山田裕貴、齋藤飛鳥主演で日本版が制作され、韓国でも今年『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』とタイトルを変えリメイク。同じく韓国版では音楽が鍵となる『シークレット・メロディ』、手話でのコミュニケーションを描いた『聴説/Hear Me』を『君の声を聴かせて』として作り変えた。さらに、2020年金馬奨(台湾アカデミー賞)で5冠の快挙となったファンタジーロマンス『1秒先の彼女』は日本で『1秒先の彼』としてリメイクされた。また、生者と死者が婚姻を結ぶ“冥婚”をフックにストーリーが展開するLGBT作『僕と幽霊が家族になった件』も、タイでの改変が決定している。

『シークレット・メロディ』

『君の声を聴かせて』
もともと台湾の青春恋愛映画は、詩情溢れる映像美やリアルな青春の描写、切ないロマンスが多く人気のジャンル。今なおアジア各国でリメイクされる理由は、普遍的な青春のテーマに社会性やエンタテイメント性を加えてオリジナリティーあふれる作品を生み出していることにある。それはエドワード・ヤンやホウ・シャオシェンといった、社会派の巨匠の過去の作品にも『エドワード・ヤンの恋愛時代』や『恋恋風塵』などこのカテゴリーの名作があり、今なお受け継がれているのだ。
『あの頃、君を追いかけた』は過ぎ去った青春時代を振り返る“回顧型青春恋愛映画”のひとつのジャンルを確立させた。
リアルで甘酸っぱくて胸がキュンとするような青春を懐古させる作品は、学生生活の雰囲気や登場人物がおかれる環境などがアジア各国に共通点があり、感情移入しやすい。『シークレット・メロディ』や『1秒先の彼女』などのミステリーやファンタジーを加えた作品は、誰もが青春時代に味わう葛藤や切なさを繊細に描きながら、どこかほっこりさせ、抜け感がある。そのバランスが絶妙なのである。

『劇場版 時をかける愛』
それは台湾という国柄に関わっているのではないかと思われる。温暖な気候、親切な人々、超高層ビルといたるところにある夜市が共在し、家族関係を大切にしながら、アジアで同性婚を初めて認めた先鋭性。そんな国柄と同じく台湾の青春ラブストーリーはとんがり過ぎず、あえて少し野暮ったい感じを残しながら、革新的なことをやってのけるところが魅力なのだ。
最近、韓国のSNSで「台湾感性」が人気のキーワードになっている。「台湾感性」とは、気取らず、作為的でなく、何気ない日常生活を象徴する風景など、レトロな台湾の美学を形成するもののこと。ちなみに韓国のスターも台湾に注目しており、大人気ガールズグループNewJeansの2024年にリリースされたシングル「How Sweet」のPVは台北で撮影。台湾の街路などの独特な魅力が表現されている。
この「台湾感性」が青春ラブストーリーにも溶け込んでいるところが、観る者を魅了する。今後も台湾の青春ラブストーリーのリメイクが増えることがあっても、減る事はないはずだ。
台湾映画が続々リメイク! この夏公開の青春ラブストーリー
『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』

ORIGINAL ▶『あの頃、君を追いかけた』(2011)
台湾で大ブレイクしたノスタルジック・ラブストーリー『あの頃、君を追いかけた』(2011)をTWICEのダヒョンと「雲が描いた月明かり」のジニョンのW主演でリメイク。舞台は2002年の韓国、お調子物の男子学生ジヌとクラス中の憧れの存在である優等生ソナへの恋の行方をジヌの目線で描き出す。甘酸っぱい高校時代、切ない大学時代からラストは振り切った爆笑シーンがツボ! 映画初主演ながらダヒョンのフレッシュな演技が光る。
『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』
公開中
韓国/2025/ 1時間41分/配給:シンカ
監督:チョ・ヨンミョン
出演:ダヒョン(TWICE)、ジニョン
© 2025 STUDIO TAKE CO., Ltd. & JAYURO PICTURES CO., Ltd.
『劇場版 時をかける愛』

PREQUEL ▶ドラマ「時をかける愛」(2019)
第55回金鐘奨(台湾版エミー賞)で4冠に輝いた大ヒットドラマ「時をかける愛」の続編映画。ドラマの伏線を拾いつつ、深い謎に誘う時空を超えた恋愛ミステリー。5年間交際していた恋人が転落死。数年後、ヒロインの元に届いたカセットテープを再生すると、別人となって死亡事故の前にタイムトリップしていた…。どんでん返しの連続でサスペンスフル。恋人役は台湾の彼氏と呼ばれるシュー・グァンハン。
『劇場版 時をかける愛』
2025年9月12日(金)公開
香港=中国=台湾/2022/ 1時間46分/配給:アット エンタテインメント
監督:ホアン・ティエンレン
出演:シュー・グァンハン、アリス・クー、パトリック・シー、 ジン・シージア
© Wanda Pictures Co.,LTD
『君の声を聴かせて』

ORIGINAL ▶『聴説/Hear Me』(2009)
韓国で大ヒットした台湾映画『聴説/Hear Me』(2009)を韓国でリメイク。両親の弁当屋を手伝うモラトリアム青年が手話で会話する姉妹の姉に一目惚れし、手話を通して交流していく。普通のラブストーリーとは異なり、時に無音で手話と表情のみで描かれるコミュニケーションで、より心情が浮き彫りに。台湾版よりラブ要素が多め、かつ「自分が何をやりたいのかが大切」というメッセージを伝える、心温まるストーリーになっている。
『君の声を聴かせて』
2025年9月26日(金)公開
韓国/2024/1時間49分/配給:日活/KDDI
監督:チョ・ソンホ
出演:ホン・ギョン、ノ・ユンソ、キム・ミンジュ
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『シークレット・メロディ』

ORIGINAL ▶『言えない秘密』(2007)
台湾の大スター、ジェイ・チョウ原案の映画『言えない秘密』(2007)に現代的な解釈と変更を加え、結末も新たに映画化。原因不明の発作を起こして韓国に戻った天才ピアニストが、偶然ピアノを弾く女性と出会い恋に落ちるが、なぜかすれ違い続け…。俳優としての活躍も目覚ましい「EXO」のド・ギョンスが運命に翻弄されながらも彼女を諦めない役柄を熱演。終盤、想定外の伏線からの展開にハラハラが止まらない。
『シークレット・メロディ』
2025年10月3日(金)公開
韓国/2025/1時間43分/配給:クロックワークス
監督:ソ・ユミン
出演:ド・ギョンス、ウォン・ジナ、シン・イェウン、ペ・ソンウ、カン・マルグム
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