〜今月の3人〜
稲田隆紀
映画解説者。親しい人の訃報に接する度に未だ生き永らえてることを神に感謝する。これからも変わらずに奮闘するぞ。
斉藤博昭
映画ライター。今年の夏の思い出は、愛する映画『青春デンデケデケデケ』の聖地巡礼と神宮での村上サヨナラホームラン目撃。
松坂克己
映画ライター・編集者。例年通り名鑑に着手、今回はオールカラーにするということで超豪華になりそうだ。
稲田隆紀 オススメ作品
『パルテノペ ナポリの宝石』

圧倒的な美を追求するソレンティーノ監督が初めて女性を主人公にした美しさの怪作
評価点:演出5/演技4.5/脚本4/映像5/音楽5
あらすじ・概要
1950年、風光明媚なイタリア・ナポリで生まれた女の子はパルテノペと名付けられ、美しく聡明な女性に成長するが、楽しい輝くような日々は最愛の兄の死を契機にして、彼女の人生を孤独にみちたものに変えていった──。
『グレート・ビューティ 追憶のローマ』や『グランドフィナーレ』、『LORO 欲望のイタリア』など、圧倒的な美意識と個性を誇るイタリアの奇才パオロ・ソレンティーノの新作。あらゆる“美”の瞬間を追い求めてきた監督が、「現代のヒーローは男性ではない」という思いから、初めて女性を主人公に据えた。故郷のナポリに対する深い愛を映像に込めながら、絶世の美女、パルテノペの軌跡を華麗に綴っている。
製作にサンローラン プロダクションが加わっていることで、ソレンティーノの美意識がいっそう刺激され、音楽もいい。自ら脚本を書き、ブラックなテイストも散りばめながら、ナポリの美しい風景いっぱいに寓話を展開していく。ヒロインに抜擢されたセレステ・ダッラ・ポルタは本作でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞新人賞を受賞した。ゲイリー・オールドマンやステファニア・サンドレッリといったベテランと対して、素敵な存在感を見せてくれる。A24が米配給権を獲得したことでも分かる、これは尋常ではない美しさの怪作である。
公開中、ギャガ配給
©2024 The Apartment Srl - Numero 10 Srl - Pathé Films - Piperfilm Srl @Glanni Fiorito
斉藤博昭 オススメ作品
『リモノフ』
常人レベルでは追いつけないほどの波乱の人生が
やがて最高の生き様のような“憧れ”を帯びていく

評価点:演出4/演技5/脚本4/映像4/音楽4
あらすじ・概要
ウクライナ生まれのエドワルド・リモノフは、工場で働きながら詩作に熱中。モスクワで裕福なエレナと出会い、一緒にアメリカへ亡命する。ホームレスのドン底生活も経て、リモノフは革命を叫びながら作家として大成。
人は本当にこんなにも激烈な“生きざま”を送れるのだろうか。はっきり言って常人レベルでは追いつけないほどの波乱を、あえて自分で選択し、本能的に突き進むエドワルド・リモノフの人生は、たしかに映画にふさわしい。もちろん映画らしく大げさに、ドラマティックに描いた部分もあるだろう。見方によっては自分勝手すぎるリモノフの言動は前半こそ面食らうが、やがて一度きりの人生の最高のサンプルとして“憧れ”を帯びていく。それが本作のマジックかも。
自らの血で相手の名前を壁に書きなぐるほど、愛する女性にアピールしつつ(これ、普通なら完全に引かれるレベル)、ホームレス生活では男性とも積極的に関係を持つリモノフ役は、ベン・ウィショーの肉体と表情で説得力を持つことになった。セクシュアリティを公言した名優の「自分だからこそ演じられる」という自信が、役のカリスマ性に憑依した印象。何度か流れるルー・リードの「ワイルド・サイドを歩け」も、背景の時代を象徴しつつ、この曲の出発点、歌詞の内容がリモノフの人生を濃縮しているようで胸に沁みる。
公開中、クロックワークス配給
© Wildside, Chapter 2, Fremantle España, France 3 Cinema, Pathé Films.
松坂克己 オススメ作品
『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』
ウェス・アンダーソンらしさ満開で父と娘のロードムービーを描く

評価点:演出5/演技5/脚本5/撮影4/音楽3
あらすじ・概要
世界的大富豪が暗殺未遂に遭い、尼僧見習いをさせていた娘を遺産相続人に指名、自らの生涯をかけた“フェニキア計画”実現のため娘を伴い資金確保の旅に出る。だがそれぞれの相手は一筋縄ではいかず……。
ウェス・アンダーソン印とでもいうべき世界観・リズム・美学を堪能できる一編。とにかく独特の雰囲気を持った監督だが、今回はいつもにも増して“らしさ”が光っている。父は謎の大富豪、娘は尼僧の見習いで父とは別居中、この二人が共に旅をすることになるという設定だけでも面白そうだが、その旅はまさに破天荒の極み。富豪がある計画を完成させるための出資者を求める旅なのだが、それぞれの相手が一筋縄ではいかない強者ばかり。富豪の目論見はどんどんズレていくが……という展開。

いつものことだが出演陣が豪華すぎる。主役のベニチオ・デル・トロはハマり役だし、スカーレット・ヨハンソンやベネディクト・カンバーバッチがチョイ役出演、他にも常連が大挙出てきて、あれよあれよの大盤振る舞いだ。ウェス・アンダーソンが嫌いではないならぜひ見ておくべき作品。娘役のミア・スレアプレトンはケイト・ウィンスレットの娘だそうで、2000年生れというからまだ25歳、実に楽しみな逸材が現われたものだと言っておこう。
公開中、パルコ ユニバーサル映画配給
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