インタビュー 主演2人が語る『ブラックバッグ』の舞台裏
緊迫した心理戦が展開し続ける本作。物語の中心となるジョージとキャスリンを演じた2人がストーリー面から演出面まで、本作について語ってくれました。

ケイト・ブランシェット(キャスリン役)
“あのパーティーは、怖がる観客も多いはず。それほど緊迫した会話が続くから”
──演じたキャスリンについて教えてください。
「永遠の問いでしょう。彼女はものすごく冷静沈着な女性。そして洞察力が鋭く、人を見抜くことができる。そのうえ他人に容赦がなく、油断ならない。キャスリン自身も人に頼ることはしない。でも結婚生活だけは、神聖で大切なものだった。あの夫婦は、2人ともつらい経験をして傷ついてきた。私が脚本で一番気に入ったのはキャスリンが容疑者という点。だからこそ脚本がキャスリン役の私に何を求めているのか分かった。謎を秘めていると同時にもう少しで正体が分かりそうと思える人」
──脚本を手掛けたのはデヴィッド・コープです。
「見事な脚本だった。観客を物語に引き込み、思いがけない展開で予想を裏切るの。想像以上に満足できる結末を用意する。それがデヴィッド・コープ。脚本も面白いし、キャラクターも味がある。つかみどころがなく謎めいた夫婦でね。あんな形で成り立つ夫婦は見たことがなかった。脚本をもらった時に、相手はマイケル・ファスベンダーだと言われた。だから脚本を読みながら容易に大事な場面を想像できた」
──ディナーパーティーのシーンはいかがでしたか。
「長い台本だった。あんなに長い台本は、なかなか見ない。登場人物の人格があらわになり、掛け合いの中で絶妙な緊張感が生まれる。あのパーティーは、怖がる観客も多いはず。それほど緊迫した会話が続くから。会話を使うことで緊張感を保ち続け、観客に考えるべきことを与えてあげる。テーブルには存在感のあるトム・バークもいる。それからマリサ。すばらしい女優。2人とは本作が初めてだったけど、非の打ちどころがない演技だった。最初から全力投球だったし、一瞬で0を100にする様は圧巻だった。
スティーヴンは面白い撮り方をした。私の予想とは全く違った。スティーヴンの特徴とも言えるかも。“丸いテーブルを囲んで、この配置で撮るのだろう”と思っても必ず予想を裏切る。準備しても無駄。今回はテーブルの真ん中を抜いて、恐ろしく偏った角度から私たちを撮った。カメラが視界に入るから、この視点で撮られていると意識せざるを得ない。どの時点で誰が誰を見ているかを意識すると、演じ方を変えたくなるから」
──〈ブラックバッグ〉の意味とは?
「昔ながらのお医者さんの鞄と同じ。何が入っているかは誰も聞けない。スパイの鞄も一緒。閉ざされたら最後。お金なのか武器なのか、誰にも分からない秘密の金庫。その中身は夫にさえ言うことは許されない。むしろ自分でも中身を忘れるべきなの」
ケイト・ブランシェット プロフィール
1969年5月14日、オーストラリアのメルボルン生まれ。国立演劇学院卒業後、舞台で活躍。93年シドニー演劇新人賞と女優賞。『アイム・ノット・ゼア』(07)と『TAR/ター』(22)でベネチア映画祭女優賞。『アビエイター』(04)でアカデミー助演賞、『ブルージャスミン』(13)で同主演賞。
マイケル・ファスベンダー(ジョージ役)
“最後のシーンは絶妙な雰囲気を醸し出していたよ。映画の冒頭と似ていて大事な要素が隠れているんだ”
──あなたが演じたジョージについて教えてください。
「ジョージの趣味が“料理”と“釣り”という設定は面白いほどしっくりきた。孤独を好む人だからね。彼にとって1人で何かに打ち込むことは、精神を整える手段なんだ。自分の思考に没頭し、考えを消化できるからね。(ジョージについて)最初はジェレミー・パックスマンを想像した。それからクリストファー・ヒッチェンズ(注:2人とも英国出身で政界などに鋭く切り込んだジャーナリスト)。それから悩んだ末、いったん白紙に戻した。基本的にいつも、役を作り上げる時はひたすら読み込むんだ。だから今回もいつもどおり読み込んだ。何度も繰り返し読んで、台本と向き合う。すると徐々に役の人格が体に染み込んでいく。役が浮かび上がったら、あとは練習あるのみだ。衣装を着ると役の姿を自分にかぶせることができる」
──ジョージとキャスリン夫婦の関係についてはどんなことを?
「この夫婦の特徴はいくつかあるが、まず子供がいないこと。それが意図的な決断だったのか試みた結果かは分からない。ただ2人とも幼少期からつらい経験をして傷ついてきた。キャスリンは作中でも母親との苦い思い出を語っている。ジョージも父親からの影響を強く受けているはずだ。過去の経験があったから今の人格になった。ジョージはキャスリンの精神面を心配している。ヴォーン医師とのシーンでも命を絶とうとしたとほのめかしていたからね。それから夫婦の関係が描かれる時は何かが見え隠れする。撮って初めて気づいたが、最後のシーンは絶妙な雰囲気を醸し出していた。映画の冒頭と似ていて大事な要素が隠れているんだ」
──ソダーバーグ監督の演出は?
「監督はチームに信頼を置いていて、すべてを任せてくれた。自由にさせてくれる。それに監督からの要求も最小限だ。いくつかの具体的な要望さえ守れば、好きなように仕事ができる。構想した姿をそのまま演じていい。それほど俳優を信じてくれている。根底にあるのは監督としてのスティーヴンの手腕だ。俳優が監督に対してすべてを委ねられると思わなければ成り立たない。信頼関係が何より重要だ。監督に対する確かな信頼があるから、託すことができるんだ。スティーヴンが自らカメラを握ると空気が変わる。俳優にはカメラを無視するか容認するか、選択肢があるだろう。僕はカメラを容認して演じるのを好むが、背後に監督がいるとそれが大きな支えになる。セットは整っていたし、現場はいつもいい雰囲気だった。流れが決まっていてやりやすかったよ」
マイケル・ファスベンダー プロフィール
1977年4月2日、西ドイツ(当時)のハイデルベルク生まれ。アイルランドで育つ。2001年にTVデビュー。08年の『HUNGER/ハンガー』で英国インディペンデント映画賞の男優賞ほか世界の映画賞を受賞。11年の『SHAME -シェイム-』でベネチア映画祭男優賞受賞。
『ブラックバッグ』
2025年9月26日(金)公開
アメリカ/2025/1時間34分/配給:パルコ ユニバーサル映画
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ケイト・ブランシェット、マイケル・ファスベンダー、マリサ・アベラ、トム・バーク、ナオミ・ハリス、レゲ=ジャン・ペイジ、ピアース・ブロスナン
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