大沢たかお主演で2023年に実写映画化し、2024年にはドラマが配信された「沈黙の艦隊」シリーズ。続編となる『沈黙の艦隊 北極海大海戦』が9月26日(金)に公開される。海では極寒の氷の世界・北極海を舞台に、「やまと」が激しい魚雷戦を繰り広げ、地上では「やまと」支持を表明する竹上首相を中心に衆議院解散総選挙が行われ、緊迫の政治戦が展開する。前作に引き続きメガホンを執った吉野耕平監督に本作の見どころを語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

上戸彩が演じる市谷は観客が感情移入できる存在


──上戸彩さんが演じる市谷は今作で大きく存在感を増しています。特に市谷の娘からの電話やメールという日常的モチーフを加えて、“母”の部分を描いたことにより、物語のレイヤーがさらに広がったように思います。

原作には一般市民の描写がほとんどありません。物語的に描く余地がないと判断されたのでしょう。ただ、映像作品としては必要と感じ、映画ではあえて市谷というオリジナルキャラクターを登場させました。もし政治や軍事に直接関心が高くなくても、観る人に市谷を通じてどこか物語と自分との繋がりを感じてもらいたいと思ったのです。前作では「たつなみ」にも人間臭さを担ってもらっていましたが、本作では登場しないので、市谷の母としての側面も描くことにしました。観る人によっては、より身近で感情移入できる存在として、重要さが増したのではないかと思います。

画像1: 上戸彩が演じる市谷は観客が感情移入できる存在


──市谷を演じた上戸彩さんとは、どのようなやり取りをされましたか。

前作ではニュースキャスターとして“光り輝く立場”の人物でしたが、今回はそこから降り、一人の人間として、自分で切り開いていく。ニュース番組の看板的存在という立場ではないので、建前ではなく自分の心に従って、政治家が隠そうとする真実を追い求めていった結果、市谷は戦場に飛び込んで恐怖を感じる場面に遭遇します。そのリアルな感覚を表現してほしいとお願いしました。上戸さんは市谷の人間味をしっかりと演じてくださり、物語に厚みを与えてくれました。


──政治パートでのベテラン俳優陣の演技についてはいかがでしたか。

みなさん、僕よりもはるかにキャリアが長く、いろんな監督と仕事をされてきています。役についてもすでに考え抜かれていますから、みなさんの「私にどうしてほしい?」という問いに、私からは簡潔にお伝えしなければと思っていました。

それぞれの役に信念があり、単なる悪役ではありません。海江田という存在に対して、どう動いていくかという世界なので、どの役もただの記号にならないよう意識したところ、みなさんが力強く表現してくださいました。

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──先程、キャラクターの対比として、静の海江田、動の大滝についてうかがいましたが、潜水艦の中と衆議院解散総選挙となった政界も静と動といえるかと思います。潜水艦バトルと政治ドラマを並行して描くにあたり、映像を構築する際にどう対比させましたか。

潜水艦内は座りっぱなしの静的なシーンが多いので、政治ドラマの方では政治家たちの歩くシーンを意識的に増やすだけでなく、選挙の開票作業所に投票箱を持った人が走り込んできたり、それを見た作業員がガーッと動いたりする動的なシーンも入れ、人間関係の緊張感を身体的な動きで出すようにしました。そうすることで両方のパートにリズムとメリハリが生まれたように思います。

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──流氷やオーロラなど、北極海ならではの自然表現の美しさも印象に残りました。自然の風景を映像化する際の工夫を教えてください。

真冬の北極海は実際には真っ暗で何も見えません。でも、映画では氷の下にどこか水面を感じさせる、ほのかな光を差し込むなど、ギリギリの噓で自然の映像としての美しさを作りました。映像的に“嘘の光”を入れることで、北極海を心象的に描けないかと思ったのです。


──そういった点でVFXやCGをかなり使われていると思いますが、前作から2年が経ち、技術的に進化したことが反映されているところはありましたか。

前作は潜水艦に固定のGoProを設置しましたが、今回それに加えてInsta360も使いました。このカメラは360度撮影し、後から自在にカメラワークを付けられるのです。氷山崩落のシーンは砕けて沈んでくる氷塊の圧に包み込まれるような感覚が得られると思います。また、波や海面の表現も前作より格段に進化しました。スクリーンから取り込める情報量が圧倒的に多いので、観客はリアルに近い臨場感を得ることができるのではないでしょうか。

画像4: 上戸彩が演じる市谷は観客が感情移入できる存在


──監督ご自身が考える、シリーズを通しての「沈黙の艦隊」の核心テーマとは何でしょうか。

海江田は突飛で常識外れな人物ですが、 世界はまだ不完全で、変革の余地があるという可能性を体現しています。彼の存在を通して「世界は人の手で変えられる」という希望を感じてもらえればと思います。


──これからご覧になる方にひとことお願いします。

今回はスクリーンで体感していただくことを第一に考えて映像を作りました。迫力も緊張感も、劇場でこそ味わえるものになっています。ぜひ映画館で体験していただければうれしいです。

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<PROFILE> 
吉野耕平監督 
1979年生まれ。大阪府出身。『沈黙の艦隊』(23年)、「沈黙の艦隊Season1~東京湾大海戦~」(24年)に続き、今作の監督も務める。2000年、『夜の話』で第22回PFF審査員特別賞を受賞。『日曜大工のすすめ』(11年)で第16回釜山国際映画祭ショートフィルムスペシャルメンション受賞。CMプランナー。映像ディレクターを経て、CGクリエイターとして『君の名は。』(新海誠監督/16年)に参加。12年と19年に、次の時代を担う映像クリエイター選出プロジェクト“映像作家100人”にも選出され、20年、『水曜日が消えた』で劇場長編監督デビューを果たす。『ハケンアニメ!』(22年)では第46回日本アカデミー賞優秀作品賞、優秀監督賞に輝いた。

『沈黙の艦隊 北極海大海戦』2025年9月26日(金)全国劇場にてロードショー

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<STORY> 
冷たく深い北の海を、モーツァルトを響かせながら潜航する〈やまと〉。  
〈大〉いなる平〈和〉と名づけられた原子力潜水艦は、米第 7 艦隊を東京湾海戦で圧倒し、ニューヨークへ針路をとった。アメリカとロシアの国境線であるベーリング海峡にさしかかったとき、背後に迫る一隻の潜水艦……   
「核テロリスト〈やまと〉を撃沈せよ――」   
それは、ベネット大統領が送り込んだ、〈やまと〉の性能をはるかに上回るアメリカの最新鋭原潜であった。   
時を同じくして、日本では衆議院解散総選挙が行われる。
〈やまと〉支持を表明する竹上首相は、残るも沈むも〈やまと〉と運命を共にすることとなる。   
海江田四郎は、この航海最大の難局を制することができるのか。   
オーロラの下、流氷が浮かぶ北極海で、戦いの幕が切って落とされる――

<STAFF&CAST> 
監督:吉野耕平 
脚本:髙井 光 
音楽:池 頼広 
原作:かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」(講談社「モーニング」) 
主題歌:Ado「風と私の物語」作詞・作曲:宮本浩次 編曲:まふまふ 
出演:大沢たかお 上戸彩 津田健次郎 中村蒼 松岡広大 前原滉 渡邊圭祐 風吹ジュン Torean Thomas Brian Garcia Dominic Power Rick Amsbury 岡本多緒 酒向芳 夏川結衣 笹野高史 江口洋介 
配給:東宝 
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