海江田は艦を進める“エンジン”そのもの
大滝は内側から熱量を放ち、光を持った存在
──前作のインタビューで、「原作は32巻もある大作で、膨大な世界が広がっていますが、それを全部描くことはできません。映画の尺で見せるなら、2人の話に重点を置き、スタートラインはここなんだと見せ切るなら何とか戦えると思いました」とお話されていました。続編は原作の中でも屈指のスケールを持つ「北極海大海戦」です。ここを映画化するにあたって、どこに重点を置こうと思われましたか。
今回は深町が登場しません。深町が担っていた “人間的な熱”をどう補うかが大きな課題でした。その際、海江田は自分の内面をあまり見せない人物なので、周囲からどう光を当てるかが重要になります。そこで、「やまと」のクルーや、新たなライバルであるベイツといったキャラクターを立てていくことで、海江田の魅力を引き出していくことを考えました。

──海江田を演じる大沢たかおさんとは撮影前にどのような話をされましたか。
続編で海江田をどう描くかを話し合いました。普通に考えると人間味を描きたくなりますが、それでは海江田らしさが薄れてしまいます。海江田は「見えないけど見える」という不思議な存在。だからこそ見えすぎず、彼のわずかな表情や仕草から観客が理解を深めていけるようにしましょうと話しました。

──潜水艦の中で艦長として直立不動で立っていることの多い海江田が登場シーンでは腕立て伏せをしていました。どのような意図があったのでしょうか。
海江田は目的達成のために人生を捧げているようなところがあり、この戦いを乗り切ることだけを考えて、体調管理の一環として黙々と腕立て伏せをしています。その姿は潜水艦を動かす原子炉のようなものであり、艦を進める“エンジン”そのものです。静かながらも膨大なエネルギーを抱えている存在であり、同時に、見方によっては不気味さや危うさを秘めた存在にも見えることを象徴する場面にしました。
──先程、前作では「海江田=静」と「深町=動」の対比が物語の軸だったと話していらっしゃいましたが、今作では大滝が「動」の存在を担っているように思います。
大滝は今回、もう一人の主人公のような立ち位置にいます。深町とはまた別の意味で対照的で、とにかく自分の足で動き、風を切って歩くアクティブな人物です。海江田がほとんど歩かないので、対比が一層際立ちます。大滝は内側から熱量を放ち、光を持った存在として描きました。彼が海江田を照らし、ぶつかり合うことで、物語全体を引っ張る重要な役割を担っていると考えています。

──大滝を演じる津田健次郎さんとは、どのような話をされたのですか。
目をキラキラさせながら「やまと保険」という斬新な構想を掲げる大滝は行動的で、自らを飾ることがなく、とても理想的な人物です。ただ、そのままでは見方によっては “スーパーマン”になってしまうので、津田さんは演じる上で大滝の欠点を知りたいと言われました。そこで「会議の最後の最後で突然『一から考え直そう』とか言ってしまうようなタイプで、同じ会社にいたらかなり厄介な浮いた存在かもしれません」とお伝えしました。
津田さんとはそうした部分をどう表現するか話し合いましたが、とても豊かに演じてくださり、改めて経験豊かな役者としての力を感じました。

──具体的にはどういった感じでしたか。
大滝は新しいキャラクターなので、津田さんが演じているのを見て、「大滝ってこういうところがあるんだ」と、逆にこちらが教えてもらったように感じた場面もありました。例えば、料亭での酒向芳さんと津田さんの会話シーンで、酒向さんが「お笑い草だよ」と津田さんのことを笑おうとしたときに、津田さんが先に笑ってみせたのです。大滝という人物のしたたかさや余裕が際立ちました。演出を超えて役者同士のやり取りから生まれた瞬間で、とても面白かったです。党首対談のシーンでは大滝が遅刻してスタジオに登場しますが、歩きながらヒートアップして思わず笑い声がもれるような場面がありました。大滝の昂りが伝わってきて印象的でした。ただ、ここは編集でカットしたので、使っていないのですけれどね。
──海江田と大滝が一度だけ相見えるシーンがあります。そこでの演出で大切にしたことはありますか。
大滝が乗っているヘリコプターからカメラが飛び出し、ワンカットで海江田まで続いていく。潜水艦にいる海江田とヘリコプターに乗っている大滝が同じ瞬間を共有している感覚を出したくて、コミックのレイアウトを意識しながら、空と海を1つの空間に捉えて、地続きな感じで描くことを意識していました。
また海江田の奥で大滝が叫んでいるという近景と遠景が1つに収まっているところも実写では難しいのですが、2人が目を合わせていなくても心はぶつかり合っているような距離感の近さを感じさせることを大切にしました。