『(LOVE SONG)』と合わせて観ると、より深く心に響くもう一つの物語。3つの“もしも”を生きる青年の人生は、選ばなかった道の先をそっと覗かせてくれます。もし、あの時に戻って選び直せたとしたら、あなたはどの道に進みますか?(文・編集部(作品紹介)/デジタル編集・スクリーン編集部)

チェックポイント:テグ、ソウル、プサンでの3つの運命

「平行宇宙」の物語構造とテーマの深さ

画像: 「平行宇宙」の物語構造とテーマの深さ

今作は、主人公ドンジュンが夢見る「平行宇宙」を、2020年のテグ、ソウル、プサンという3つの都市で描く、非常にユニークな構成になっている。一般的な平行宇宙ものと違い、ドンジュンの3つの人生は劇的に異なるのではなく、「同じ条件のもと、変わる要素だけが違う」という形で構成され、奇妙に交差しながら共鳴する。3つの人生は鏡のように互いを映し、観客は「もしも」の人生を通して、失われたカンヒャンの存在や家族、そして自己を深く見つめ直すことになる。

記憶がバラバラに飛び交う「パズル」のような演出

画像: 記憶がバラバラに飛び交う「パズル」のような演出

映画の中で、現在進行中の3つの人生に、1995年・テグでの少年時代の記憶(フラッシュバック)が何度も飛び込む。普通の回想とは異なり、記憶はバラバラで、まるで頭の中で感情が暴れているかのように唐突に現れる。この演出によって、別れやトラウマが残した記憶の「混乱」を観客もそのまま体感することになる。最終的に、このバラバラなピースが、ドンジュンとカンヒャンが離れた「路地」という場所につながり、大人になった彼が過去とどう向き合うのか、結末への期待が自然と高まる。

ペク・スンビン監督 インタビュー

脚本を書きながら、どこかで兄さんが「スンビンが俺たちの話を映画にしたんだな」と分かってくれると思っていました

──本作はどんな魅力のある映画でしょうか。

「私が言うのもなんですが…。知人の映画監督が、本作を観てこう言いました。『題材は平行宇宙なのに、こんな語り口の韓国映画はあっただろうか。同じ平行宇宙を描くにしても、アメリカで10代を過ごした監督は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のような映画を撮るけど、韓国でもっとも保守的な土地・大邱で10代を過ごした君は、平行宇宙をこんなふうに考えるんだな』と」

──今作はウィリアム・マクスウェルの小説「So Long, See You Tomorrow」から取ったそうですね。

「そうです。映画の中でカンヒャンが読んでいる小説のタイトルでもあります。ウィリアム・マクスウェルの作品で、韓国では2000年代半ばに出版されましたが、今は絶版になっています。私は遅れてその本を読んだのですが、物語が自分の大邱で過ごした10代とよく似ていて驚きました。主人公も友人を助けたかったのに助けられなかった。そして私にも、アパートの上の階に住んでいた“兄さん”を助けられなかった記憶と悔いがありました」

──2021年のソウル国際プライド映画祭で初公開されました。当時「これは後悔と悔恨の映画であり、平行宇宙のもうひとりの自分の物語から生まれる温かな共感の映画」とおっしゃっていましたが、もう少し詳しく聞かせてください。

「物語は、当時の自分の姿が嫌で、いつも違う自分を夢見ていた10代の少年ドンジュンの話です。別の宇宙にもう一人の自分がいて、自分を支えてくれた友人がいる。そんな時、その友人に大きな出来事が起こり、助けられなかった後悔が、それぞれ異なる運命を生みます。映画ではその運命を3つの平行宇宙として描きます。後悔をどうにかして正そうとするひとりの物語であり、若い頃にはできなかったことを、年を重ねてからやっとその友人のためにする物語でもあります。最終的に、自分の後悔の底にいるのはその人であり、この長い旅の終わりは、その人に会うための旅路だという話です」

──映画に登場するカンヒャンのモデルになった人物は、この映画を観たら自分の話だとすぐ分かるのでは?

「除隊して復学した頃、ネット掲示板に『もしかして、俺の知ってるペク・スンビン?』という一文が残されていたんです。あの出来事以来、その兄さんとは会っていなかったので、とても驚きました。どう返事をしようか悩んでいたら、2日ほどでそのメッセージは削除されていました。それにもまた驚きました。

私が好きな映画に『スタンド・バイ・ミー』(86)があります。そこでは、心が弱いけれど文学的才能のあるゴーディを、親友クリスが本当の兄のように支えます。もしその兄さんがこの映画を観たら、きっと自分の話だと分かるでしょう。少し自分勝手かもしれませんが、脚本を書きながら、どこかで兄さんが『スンビンが俺たちの話を映画にしたんだな』と分かってくれると思っていました。もし問題になったら、その時は私が責任を負うつもりです」

──最後に観客へのメッセージを。

「上映時間は144分です。観終わった後、『自分が別の選択をしたらどんな人生だったか』を考えてみてほしい。そういう想像が、これからをもっと懸命に、そして愛をもって生きられるきっかけになると思うからです。観客のみなさんにも、それを感じてもらえたらうれしいです」

ペク・スンビン監督 プロフィール

1977年12月24日、韓国出身。2007年、ジョン・ファウルズの小説「フランス軍中尉の女」を原作とした短編映画で、ミジャンセン短編映画祭「エクストリーム・ナイトメア部門」最優秀作品賞を受賞。2009年、韓国映画アカデミーの長編映画制作研究プロジェクト第1作として、長編デビュー作『葬式のメンバー』を監督。現在、韓国インディペンデント映画界を代表する気鋭の監督として国内外で活躍している。

『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
2025年10月31日(金)公開
韓国/2023/2時間24分/配給:日活/KDDI
監督・脚本・撮影:ペク・スンビン
出演:シム・ヒソブ、ホン・サビン、シン・ジュヒョブ、ソン・チャンウィ、キム・ジュリョン

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