役へのアプローチが的確な宮近海斗
──亜子の行きつけのお店の店長、辻雄介を宮近海斗さんが演じています。宮近さんは映画への出演はほぼ初めてですが、いかがでしたか。
辻雄介のような役は出が少ない分、自分らしさを残そうとしちゃう人が多いのだけれど、宮近くんは余計なことを一切しませんでした。それでも存在感があるから、しっかりとキャラクターが見えてくる。役へのアプローチがすごく的確なんですよ。演じることを素直に楽しんでいてくれたので、それが役に滲み出ていました。やっぱりアイドルとしてのステージや舞台の経験があるから、勘がいいのでしょうね。リハーサルから段取り、本番と繰り返すごとに良くなっていくのを感じました。

──石井杏奈さんが涼の後輩である遠藤日和を演じています。はっきりとものをいうタイプで、涼に対して積極的にアプローチし、亜子には思ったことをストレートにぶつけますが、決して嫌な女性ではありませんでした。その微妙な塩梅を石井さんにはどのように演出されましたか。
石井さんが日和をすごく好きでいてくれて、その愛情が役に宿っていたから、あの魅力的なキャラクターになったんだと思います。何をやっても可愛くて、嫌味な感じが全くない。救われたなと思いました 。石井さんのアプローチにかなり救われたなと思いました 。

──作品内で「楓」が4回使われていました。
この『楓』を撮るにあたり、生と死の境界線という視点から相米慎二監督の『東京上空いらっしゃいませ』(1990)を参考に見直しました。この映画で井上陽水の「帰れない二人」がカバーで繰り返し流れるのを聞き、『楓』を何人かのカバーで繰り返したらどうなるだろう?と考え始めたのです。プロデューサーに提案したところ、「面白いですね」と盛り上がりました。ただ、「帰れない二人」と違い、「楓」は物語のテーマに深く結びついています。「現実的ではない」という結論に至りました。それでもアイデア自体は残しておこうということになり、結果的に、エンドロールのスピッツの「楓」の他に、男女2曲と合唱曲でカバーを取り入れる形になりました。渋谷龍太さんの声は魅力的でムードがあり、十明さんの声には透明感がある。場面そのものに引き込まれるような力を感じました。彼らの歌声が作品の世界観を導いてくれたと思います。

──これから作品をご覧になる方にひとことお願いします。
僕としては、すごく“日本映画らしい”ラブストーリーになったのではないかと思っています。登場人物たちが互いに譲り合い、思い合う気持ちを抱えながらも、本当の感情を奥底に隠して向き合っていく――そんな男女の物語です。だからこそ、喪った人のことを思い出すような、胸が締め付けられる心情が描けたのではないかと感じています。
ぜひ劇場でご覧いただき、その感情の揺らぎや余韻を味わっていただけたらうれしいです。
<PROFILE>
行定勲
1968年8月3日生まれ、熊本県出身。
助監督として岩井俊二監督、林海象監督や若松孝二監督などの作品に参加。1997年に「OPEN HOUSE」で長編映画デビュー。長編第2作「ひまわり」(00)で釜山国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。2002年「GO」(01)で、第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、脚光を浴びる。2004年「世界の中心で、愛をさけぶ」が、興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象に。2010年「パレード」で、第60回ベルリン国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞。2018年「リバーズ・エッジ」でも、第68回ベルリン国際映画祭にて同賞を受賞。その他にも、「北の零年」(05)、「今度は愛妻家」(09)、「真夜中の五分前」(14)、「ナラタージュ」(17)、「窮鼠はチーズの夢を見る」(20)、「リボルバー・リリー」(23)等を手掛ける。情感あふれる耽美な映像と、重層的な人間模様が織り成す行定監督作品は、国内外で高く評価され、観客の心を揺さぶり続けている。また、韓国ドラマをはじめて演出した「完璧な家族」(25)がLemino他で配信中。

『楓』12月19日(金)全国公開
- YouTube
youtu.be<STORY>
僕は、弟のフリをした。君に笑っていてほしくて。
須永恵(福士蒼汰)と恋人の木下亜子(福原遥)は、共通の趣味の天文の本や望遠鏡に囲まれながら、幸せに暮らしていた。しかし朝、亜子を見送ると、恵は眼鏡を外し、髪を崩す。実は、彼は双子の弟のフリをした、兄・須永涼だった。1ヶ月前、ニュージーランドで事故に遭い、恵はこの世を去る。ショックで混乱した亜子は、目の前に現れた涼を恵だと思い込んでしまうが、涼は本当のことを言えずにいた。幼馴染の梶野(宮沢氷魚)だけが真実を知り涼を見守っていたが、涼を慕う後輩の日和(石井杏奈)、亜子の行きつけの店の店長・雄介(宮近海斗)が、違和感を抱き始める。二重の生活に戸惑いながらも、明るく真っ直ぐな亜子に惹かれていく涼。いつしか彼にとって、亜子は一番大事な人になっていた。一方、亜子にもまた、打ち明けられない秘密があったー。
愛するからこそ、伝えられなかった想い。
めぐる季節の中で明らかになる、あまりにも切ない真実に、驚きと涙がとまらない。
<STAFF&CAST>
出演:福士蒼汰 福原遥
宮沢氷魚 石井杏奈 宮近海斗 大塚寧々 加藤雅也
監督:行定勲
脚本:髙橋泉
原案・主題歌:スピッツ「楓」(Polydor Records)
音楽:Yaffle
2025/日本/カラー/120分/シネスコ/Dolby5.1ch
配給:東映 アスミック・エース
Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会


