東京で暮らす孤独で落ちぶれた俳優が、“アメリカ人男性”として日本の「レンタル・ファミリー」会社に雇われ、他人の人生の誰かの身代わりを演じる過程で、人との繋がりや自らが家族の一員として受け入れられる喜びを思いがけず再発見していく。『レンタル・ファミリー』は『ザ・ホエール』で第95回アカデミー主演男優賞に輝いたブレンダン・フレイザーが主演を務めるヒューマンドラマである。メガホンをとった日本人のHIKARI監督にインタビューを敢行。作品に対する思いやキャスティング、演出、映像へのこだわりについて語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

“セリフの間”が素晴らしいブレンダン・フレイザー


──企画のきっかけを教えてください。

共同脚本家のスティーブン・ブレイハットが、日本で「外国人でもできる仕事」を探していたとき、通訳や英語教師の仕事の他に、バーやカフェで執事の格好をして接客する仕事や「家族をレンタルする」というサービスまであることを知りました。

私も膝枕レンタルやガールフレンドレンタルは聞いたことがありましたが、「家族を演じる」というのはカテゴリーが違う。なぜそれを求めるのか、どういう背景があるのかということにすごく興味が湧いて、調べ始めたのが最初でした。

──アメリカにはこうした「家族をレンタルする」サービスは存在しないのでしょうか。

ないですね。アメリカは日本ほど安全でも平和でもなく、「この人、大丈夫?」という疑いから入っていくので、日本のような“最初から信じる”文化がない。訴訟社会で銃社会でもある。だから「知らない人に家族のふりをしてもらって家に招く」というビジネスは成立しません。

もちろんエスコートサービスの仕事はありますが、あくまで大人同士の関係性。日本のように「お父さん役」「娘役」を依頼どおりに演じるというシステムは日本独自のものです。

──リサーチはどのように進められましたか。

実際にそのサービスをやっている方にお話を聞いたり、依頼したことがある人の体験談を読んだりしました。代行業者のウェブサイトを見たりもしましたね。調べていくと、1980年代にはすでにこうしたサービスが存在したようです。もっと深く探っていけば、さらに面白い発見があるかもしれません。

──このテーマを映画にしようと思った決め手は何だったのでしょうか。

私は日本人ですが、海外に長く住んでいるので、日本の“本音と建前”の文化や、人が孤独を表に出しにくい社会の空気を外から見て感じていました。そういった、日本の“空気を読む”文化や、“察する”というコミュニケーションのあり方は、海外ではなかなか理解されにくい。でも、それがあるからこそ、日本には独特の美しさや繊細さがあるとも思っています。

リサーチを進めるうちに、孤立や孤独、あるいは40代・50代の人々が抱える心の問題など、日本社会が抱えてきた構造が見えてきました。そこから「この現象を通して、何か物語を描きたい」と考え始めたのです。

画像1: “セリフの間”が素晴らしいブレンダン・フレイザー

──脚本はどのように作られていったのでしょうか。

スティーブンと一緒に書きました。彼とは長年の付き合いがあって、感覚的にもすごく合うんです。彼が骨格を作って、私が肉付けするような感じで進めました。

──脚本を書く上で、特に意識された点はありますか。

リアリティですね。実際にありそうな設定、ありそうな会話、ありそうな感情の動き。それを大切にしました。あと、登場人物のバックストーリーをしっかり作ること。彼らがなぜその行動をするのか、どんな過去があるのかを明確にしておくことで、演技にも深みが出ると思っています。

──セリフの間や沈黙など、言葉にしない部分も印象的でした。

日本には“察する”文化があって、言葉にしなくても伝わることがある。だからこそ、沈黙や間が意味を持つ。そういう部分を大切にしたかったし、海外の観客にもその美しさを感じてもらえたらと思っています。

──脚本の完成までに、どれくらいの時間がかかりましたか。

構想から完成まで、ざっと2年くらいですね。途中でストライキがあったり、制作が止まったりもしましたが、その間もリサーチを続けていました。脚本は何度も書き直しましたし、キャストが決まってからも調整しました。現場での演技を見て、セリフを変えることもありました。

──現場での変化を受け入れる柔軟さも大切なのですね。

脚本はあくまで“設計図”であって、現場で生まれるものを大切にしたい。役者さんがその場で感じたこと、即興で出てきた言葉や動き——そういうものが、時に脚本を超える力を持つことがあります。だからこそ、現場では常に開かれた姿勢でいたいと思っています。

──キャスティングはどのように進められたのでしょうか。

ブレンダン・フレイザーさんがフィリップ役に決まってから、日本側は川村恵さん、アメリカ側は高田ゆみさんがキャスティングディレクターとして入り、全員オーディションで決めました。日本では有名な俳優でも、海外では知られていないことが多いので、お芝居を見せてもらう必要があったのです。英語が話せることを条件に、かなりの人数の俳優に会いました。レンタル・ファミリー会社のスタッフとして働く中島愛子を演じた山本真理さんは英国育ちで発音も自然でしたが、それ以上に「芝居の力」を感じたのです。

フィリップが演じた父親の娘である川崎美亜を演じたゴーマン シャノン 眞陽さんはこれまでに映画の出演経験がなく、英語もカタコトしか話せなかったのですが、オーディションでの意思の伝え方が素晴らしくて、即決でした。

レンタル・ファミリー会社を営む多田信二役の平岳大さんは海外、特にアメリカでもイギリスでも皆さんご存知の方が多く、彼の優しい感じと、どこまで嘘なのかわからない感じがキャスティング的にぴったり。ブレンダンとの読み合わせを行い、相性を見て決めました。

──俳優への演出ではどのようなことを大切にされましたか。

まずリハーサルをしっかり行います。役の背景や生い立ちを共有し、なぜその人がそう行動するのかを一緒に探していく。現場ではブロッキングをしながら調整し、その上で撮影に入ります。テイクは最低3回、多ければ6回ほどです。感情のニュアンスを変えながら何度も試します。演出に関しては結構細かいです。

ブレンダンさんは3回やると全部違う演技をするので、編集でドラマチックにも、コメディにもできる。「まず自由にやってみて」と伝え、そこから調整しました。しどろもどろしているフィリップが最終的にどっしり構えるようになるという演出をしながら進めていきました 。

真理さんはとても考える俳優なので、シーンを細かく分解し、いろいろ話し合いました。

柄本明さんは本当に素晴らしい方です。何も言わなくても、彼の表情だけでストーリーが伝わる。アドリブも多く取り入れました。車椅子のシーンでは、座ってうなずいてから立ち上がるまでの動作に時間をかけて撮影しています。最終的に使われなかった部分もありますが、彼の演技には深みがありました。

画像2: “セリフの間”が素晴らしいブレンダン・フレイザー

──ブレンダン・フレイザーという俳優の魅力を、どこに感じましたか。

彼は“セリフの間”が素晴らしい。言葉の合間の沈黙や感情の揺れをきちんと生きている。ほんの少しの眉の動きでも心情が伝わる。編集していて全カットが発見でした。オフィスでの「What do you think I do?」のシーンなど、セリフ自体はシンプルですが、言い方ひとつでニュアンスがまったく変わる。彼の感受性の高さが出ています。

柄本さんがアフレコ時に「ブレンダンはスターだね」とおっしゃっていました。しかし、ロンドンでのプレミア上映を見た後、ご自身の演技については「いや、まだまだだな。恥ずかしくて見ていられない」と照れていたのです。そんな柄本さんは可愛らしかったですね。

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