どのくらいで何が見えるか、視覚的な部分を意識
──ミステリー・ピクチャーズのイ・ウンギョンさんから「ジャンル映画を一緒にできないか?」と誘われ、「ホラーをやりたいです!」と答えたのがきっかけとうかがいました。なぜホラーだったのでしょうか。
ホラーは子どもの頃から本当に大好きなんです。僕は最初、『鬼畜大宴会』(1998年)という、ホラーではないんですけど血まみれの映画でデビューしていて、当然ホラー映画はいつかやりたいと思っていました。でもなぜか、これまで実現したことがなかったんですね。
ここ何年か、特に強く「ホラーをやりたいな」という気持ちがあって、それでイ・ウンギョンさんにそう伝えたんだと思います。
──監督が初めて観たホラー映画は、ウィリアム・フリードキン監督の『エクソシスト』(1973)で、そういう作品を日本で撮りたかったと聞きました。
いわゆる取り憑いたものを祓うというタイプの作品で、芝居の濃度が高くないと成立しないホラー映画です。ある意味、俳優の演技力がかなり試されると思います。
──霊ではなく、悪魔ということかと思いますが、霊と悪魔の違いについてどう思われますか。
霊は必ずしも「悪」ではないですよね。
それに対して悪魔というのは、僕にとっては一種の例え話のような存在です。僕はキリスト教徒ではないので、そう感じるのかもしれませんが、悪魔というのは自分自身の心の中にあるもの、自分の中の弱さや、隠したい部分を象徴している存在だと思っています。
たとえば『エクソシスト』を観ていても、神父が対峙しているのは悪魔そのものというより、神父自身の心の中の戦いのようにも見える。そういうところがとても好きで、そういう捉え方をしています。

──脚本はチェ・ドゥクリョンさんが書いたものを、監督と奥様のユニット「浪子想」名義で奥様が修正し、それをさらに別の韓国のライターが修正する方式で作られたそうですが、これまでの文芸作品寄りの作品とは構成が違ったのではありませんか。
物語の構造は違いますね。自分の感覚で言うと、展開がかなり早いです。今回は90分前後の作品を求められていましたし、そこを目指して作りましたから。
ネタバレになるので詳しくは言えませんが、コ・ユンジュンが演じた牧師ハンジュの秘密をかなり早い段階で明かしていますよね。これがミステリーだったら、真実を明かすのは後半になります。でも、この作品は明かした後の「戦い」こそが見せ場になります。ホラーとしては、悪魔とのバトルが始まるところが重要なので、早めに明かさないといけない。そういう意味でも、展開はかなり速いと思います。
──そうすると、演出の仕方もかなり違ったのでしょうか。
演出そのものが大きく変わったというわけではありませんが、ホラー映画なので、いつもより「見え方」は強く意識しました。
僕は普段、感情を軸に撮ることが多いのですが、今回はそれ以上に視覚的な部分を意識しています。カメラとの距離感や、見えてくるタイミング、どれくらいでどう見えるのか。観客として観たときにどう感じるか、そういうことはかなり考えました。
──神戸を舞台に選んだ理由と、ロケーションが物語にもたらした効果について教えてください。
この企画自体が「神戸でやる」という前提があったと思いますね。
神戸は古い港湾都市で、昔からいろいろな外国文化が入ってきた場所です。キリスト教もそうですし、韓国のキリスト教、ヒンドゥーの神様など、さまざまな宗教や文化が自然に混在してきた土地なので、今回の物語にはとても合っていました。逆に言うと、日本でやるなら神戸か、横浜や長崎じゃないと成立しない話だと思います。
ロケハンでは、神戸のフィルムコミッションの方や地元の制作会社のスタッフが全面的に協力してくれて、いろいろ一緒に探しました。
中でも廃神社を見つけたときは、「ここで撮りたい」と強く思いましたが、山の奥にあって、機材を運ぶだけでも大変な場所でしたし、照明をどう組むかという問題もありました。別の場所を探そうか、セットで組めないかといろいろ検討しましたが、あの雰囲気に勝る場所は結局見つからなくて、管理されている方の許可もいただき、あそこで撮ることになりました。

──木野花さんが住んでいる家も、谷間にあるような場所でとても印象的でした。雰囲気が物語に合っていますね。
あの家は普段ほとんど使われていなくて、倉庫のような状態だったので、最初は「ロケには使えない」と言われていたんです。でも写真を見ると面白そうだったので、一度、試しに見に行こうということになりました。
実際に行ってみたら、意外になんとかなりそうで、そこから片付けをしたり、美術で飾り込んだりとかなり大変でしたが、最終的にはあの場所で撮らせてもらいました。

──ベルトコンベヤ跡トンネルが見るからに怖そうなところでした。トンネルの中のシーンはセットで撮られたのかと思いましたが、実際にトンネルの中で撮られたそうですね。
そうなんです。ロケハンの前にシナリオハンティングの段階で見せてもらいました。全長が何キロもあり、延々とまっすぐ続くトンネルなので、歩いていくと空間が歪むような感覚になって、現実感が薄れていくんです。人の内面に入り込んでいく感覚と重なるんじゃないかと思いました。
撮影では苦労しました。長く深いトンネル内には当然トイレもないので、数時間ごとにトイレ便として車を往復させなきゃならなかったです。

