今年の7月で50歳という節目の年を迎える、イギリスを代表する名優ベネディクト・カンバーバッチ。3月に日本上陸する主演最新作『フェザーズ その家に巣食うもの』は彼が映画化を熱望し、製作総指揮も兼任した渾身の一本です。本人の最新インタビューとともに作品の魅力を深掘りします。(デジタル編集・スクリーン編集部)

ベネディクト・カンバーバッチ最新インタビュー:キャリアの節目を飾る意欲作『フェザーズ その家に巣食うもの』を語る

「今の時代にこそ特に意味がある映画だと思います」

画像: Photo by Mat Hayward/Getty Images for IMDb

Photo by Mat Hayward/Getty Images for IMDb

──『フェザーズ その家に巣食うもの』では突然妻に先立たれたコミック・アーティストの“父”役を演じています。イギリスの作家マックス・ポーターによる原作は世界的ベストセラーになっていますが、原作にどんな印象を持ちましたか?

「ポーターの小説は、卓越した散文作品に思えました。そこには叙情的で、傷ついた感情があり、救済もあり、荘厳でありながら日常的で、家庭的で、現実的でありながら非現実的でもあります。読んでいるとき、私の頭の中では素晴らしい映画が浮かんできました。原作は読者に想像力を促し、非常に個人の深い部分に触れる作品です。こういう完成度の高い本を映画化するのは難しいのです。新しいことを試みたい一方で、その構造を完全に壊すこともできないですから」

──映画化で特に気を配ったのは、どのような部分ですか?

「私は主人公である父親の人間性を守りたいと思いました。俳優としては、失敗の中にこそ人間らしさがあると考え、一瞬一瞬を必死に生き抜こうとする人物を演じたいと思いました。原作者のポーターも含め、映画に関わったすべての人が、悲しみは普遍的な経験であると考えています。でもそれを男性の経験を通じて追求していく文化が実はあまりないのも確かです」

──劇中では、深い悲しみに沈む“父”の前に不思議な黒い鳥“クロウ”が現れます。このクロウはどんな存在だと思いますか?

「クロウは父親のすべてです。挑発者であり、悲しみと無力感を告げる使者で、そこには怒りも含まれています。主人公を最悪の形で批判することもあれば、守護天使にもなりうる。彼は悲嘆そのものが形を変えた存在です。ただ、父親とクロウの関係は素晴らしい。そこには疑念、発見、恐怖、狂気、羞恥、対立、そして怒りが見えるからです」

──本作では主演とともに製作総指揮も兼任されていますが、この映画に関わりたいと思った動機を教えてください。

「ディラン・サザーン監督の今回の企画に対する情熱に心を動かされて、この映画を作りたいと思いました。彼は本当に親しみやすい人柄で、非常に才能あふれる人物です。彼のためなら人物の心の奥まで踏み込み、とても正直になれると感じました。これほどまでに強い動機で物語を語ろうとする人物に出会え、プロデューサーとしては大きな刺激を受けました」

──この映画のテーマは現代において、どんな意味がありますか?

「いつの時代にも重要な内容の映画だと思いますが、今の時代にこそ特に意味があると思います。というのも、男性の脆さと、彼が悲嘆や喪失にどう向き合うかを描いているからです。私たちはさまざまな要素が複雑に絡み合った存在です。そして、最愛の人を失うという最悪の出来事によって引き裂かれたとき、一体、何が起こるのかを映画は見つめています。そこには喪失による崩壊がありますが、その灰の中から、美しく誠実なものが再び築かれ、別のものに生まれ変わります。私たちは今もなお、死や悲嘆についてあまり語られない文化の中で生きていると思います。ただ、愛は必然的に喪失を含んでいる。失う可能性なくして何かを愛することはできないからです。物事は永久には続かない。この映画はそうした喪失を、比類なく美しく、そして深く探求していると思います」

ベネディクト・カンバーバッチ プロフィール

1976年7月19日、イギリス・ロンドン出身。BBCのTVシリーズ「SHERLOCK/シャーロック」(10〜)のシャーロック・ホームズ役でブレイク。『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(14)でアカデミー主演男優賞に初ノミネートされた。『ドクター・ストレンジ』(16)でタイトルロールを演じ、同役で以降のマーベル作品でも活躍。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(21)で2度目のアカデミー主演男優賞候補になった。近作に『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』(25)、『ローズ家〜崖っぷちの夫婦〜』(25)などがある。

ディラン・サザーン(監督・脚本)&マックス・ポーター (原作者)インタビュー

ディラン・サザーン (監督・脚本)

画像: 原作者マックス・ポーター(写真左)、ディラン・サザーン監督(写真右) Photo by Kate Green/Getty Images for BFI

原作者マックス・ポーター(写真左)、ディラン・サザーン監督(写真右)
Photo by Kate Green/Getty Images for BFI

“大人向けの実写版ジブリ映画”と説明していた

──今回の映画を作ったいきさつを教えてください。

「この映画は、私が心を深く動かされた一冊の本から始まりました。10代の頃、私には予期せぬ形で友人たちを相次いで亡くした経験があります。今でこそ少しは受け止めることができますが、若い私は、その圧倒的な喪失にどう向き合えばいいのか分かりませんでした。その悲しみを胸の奥にしまい込みましたが、抱え込むうちに、さらにひどい状態になりました。しかし数年後、マックス・ポーターの今回の原作本に出会えたことは、私の心を解き放つ最高の人生体験のひとつとなったのです」

──クロウの存在をどう捉えて脚色を進めましたか?

「クロウは現実かもしれないし、想像かもしれない。しかし常に人をひきつけ、家族を混乱へと導く存在です。それは狂気を帯びたメリー・ポピンズであり、タイラー・ダーデン(原作と映画版『ファイト・クラブ』の主人公の分身)であり、さらにウィズネイル(映画『ウィズネイルと僕』の登場人物)の不器用な特権意識も併せ持っています。これまで誰も見たことのないキャラクターです。物語におけるクロウの役割は、まるで童話やスタジオジブリ映画のキャラクターが持つ役割のようにも感じられました。実際、この映画について尋ねられると、しばらくの間、私は“大人向けの実写版スタジオジブリ映画”と説明していました。日常と家庭的な世界にファンタジーと視覚的な独創性を織り交ぜた作品なのです」

──今回のキャストの演技をどう見ていますか?

「カンバーバッチは父親役を強い信念と奔放さで演じ、見る人を魅了します。とても超人的な演技です。映画初出演の子役のボクソール兄弟は誰もが愛さずにはいられないでしょう」

画像: ベネディクト・カンバーバッチ主演最新作『フェザーズ その家に巣食うもの』の世界

『悲しみは羽根をまとって』(発売中)

マックス・ポーター/桑原洋子訳
早川書房刊

マックス・ポーター (原作者)

見る人によってまったく異なる意味を持つ映画に

──今回の映画化の話が来たとき、どう思いましたか?

「私は共同作業においては、直感的な信頼をベースにして仕事をしたいと思っています。自分の作品の脚色のされ方や、あるいは他の言語への翻訳に対して、それをコントロールする気はありませんが、そのコラボレーションに関わりたいとは思います。監督のディラン・サザーンと最初に会ったとき、彼がこの本を理解し、愛情を抱き、その奇妙な核心を守ろうとしていることが分かりました。彼はクロウのことを理解していて、それを必要とし、好意を持っていたのです」

──映画製作のどういう点に驚きましたか?

「撮影現場を訪れたとき、圧倒的な気配に包まれて涙がこぼれました。父の死について書いた本でしたが、そこには父とは関係のない別の新しい命がありました。ディランは人によってまったく異なる意味を持つ映画を生み出したのだと思います。そして、解釈は観客に委ねられています。この作品にはばかばかしい部分、すごく深刻な部分の両方が入っているのです」

──俳優の演技はいかがでしたか?

「少年たちは驚くほど真実味があり、ディランは最高の優しさと共感をもって彼らを導きました。その結果、これまでに見た中でも最高の子役の演技が引き出されました。また、ベネディクト・カンバーバッチの父親役に対して、観客は大胆な分析を行うことができるかもしれません。観客自身もそうした分析の一部で、彼は観客とともにいて、やがて彼自身に同化するでしょう。演技を観るとき、普段は俳優との安全な距離がありますが、この映画にはそれがありません。卓越した演技力を超え、その演技を見ることは奇跡的な体験となっていると思います」

『フェザーズ その家に巣食うもの』
2026年3月27日(金)公開
イギリス/2025/1時間38分/配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
監督:ディラン・サザーン
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、デヴィッド・シューリス(声)、リチャード・ボクソール、ヘンリー・ボクソール

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