2026年、世界中から愛された名優アラン・リックマンがこの世を去り、10周忌を迎えました。悪徳と純愛を行き来する圧倒的な演技幅で観客を翻弄し、最後には誰よりも深い感動で包み込んだアラン。彼がその役作りに込めた「静かなる誇り」を紐解きながら、今も色あせることのない“英国紳士”の真髄に迫ります。(文・大森さわこ/デジタル編集・スクリーン編集部)
Photo by Cambridge Jones/Getty Images

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映画版「ハリー・ポッター」シリーズには英国の有名俳優たちが大勢出演していたが、そんな中でもセブルス・スネイプを演じていたアラン・リックマンは、特に忘れがたい印象を残した俳優のひとりだろう。2016年1月14日に膵臓ガンのため、69歳で他界したが、スネイプ役は今も色あせない人物像だ。今年、没後10年目を迎えたが、この役を中心にして俳優としてのアランの魅力を振り返ってみたい。

英国には映画界で遅咲きになる俳優もいるが、実はアランもこうした俳優のひとりだ。最初は美術系デザイナーの道を歩んでいたが、途中で俳優を志し、26歳でRADA(ロイヤル演劇アカデミー)に入った。その後は名門、ロイヤル・シェイクスピア劇団で数々の舞台に立ち、特に『危険な関係』(85)で恋愛ゲームを楽しむヴァルモン役は当たり役となった。40代前半で遂に映画界入り。ハリウッドの大ヒット作『ダイ・ハード』(88)のダンディなテロリスト役で、一躍、脚光を浴びた。

原作者ローリングに説得され
葛藤の末に引き受けたスネイプ役

 90年代以降は、順調に演技派の道を歩んでいたアラン。実は最初にスネイプ役の話が来た時、気乗りせず、断ろうと考えたそうだ。それというのも『ダイ・ハード』の悪役で成功後、ハリウッド大作『ロビン・フッド』(91)など邪悪な役が来ることにうんざりしていたせいらしい。

 ただ、「ハリー・ポッター」シリーズの原作者、J.K.ローリングの説得もあって、最終的にはスネイプ役を引き受けた。アランに役が来た頃、原作はまだ途中までしか刊行されておらず、スネイプの正体が明かされていなかった。そこで作者はスネイプの先の展開を断片的にアランに伝えて、アランは役作りの参考にした、ともいわれる。

 スネイプはハリーが通う魔法学校の魔法薬学の先生だが、どこか不気味な影がある。ハリーたちには冷たく、意地悪な人物にも見える。長い髪を中央で分けて黒い衣装。笑顔もほとんど見せない。ただ窮地に立ったハリーたちを守ることもある。善か悪か途中まではよく分からないが、そんな謎めいたところが、逆にこの人物の魅力も高めていた。やがてダンブルドア校長を殺害し、ハリーの永遠の宿敵、ヴォルデモートと付き合いがあることが判明。やっぱり、悪ではないか……と思いきや、遂に最終章『ハリー・ポッター 死の秘宝PARTⅡ』で彼の衝撃の秘密が明かされる。

画像: 原作者ローリングに説得され 葛藤の末に引き受けたスネイプ役

悪と純愛の境界線を越えて
来日時に見せた「英国紳士」の真髄

前述のようにアランはキャリア前半では悪役で有名になったが、他の出演作をたどると純粋な愛を貫く役も意外に得意としていた。『愛しい人が眠るまで』(91)では事故で他界後、愛する女性を見守ろうとする幽霊の役。ジェーン・オースティン原作の『いつか晴れた日に』(95)では、不誠実な男性との恋に破れた女性を愛し続け、次第に人間的な信頼を得る軍人役。『ラブ・アクチュアリー』(03)では長年連れそった妻と部下の若い女性との愛に心がゆれる編集者役だ。こうした作品での役作りは純愛を貫くスネイプ像へとつながったはずだ。一方、邪悪な役はもともと得意で、後期の作品では『スイニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師』(07)の悪徳判事役で持ち前の凄みを見せ、このあたりはスネイプのダークな雰囲気とも共通。純愛系も悪役も行き来できる幅の広さを持っていた。

生前、監督としても2本の作品を残したアランは98年2月に監督デビュー作『ウィンター・ゲスト』(97)の宣伝で来日。インタビューする機会があったが、その時は「これからもいろいろな役を演じてみたい。俳優は機会さえ与えられれば、どんな役でもできると思う」と言っていた。素顔のアランは本当に知的でダンディな英国紳士だった。深みのある渋い声も魅力的で、ネイビーのベルベットのジャケットをさらりと着こなし、大人の余裕も見せていた。

そして、01年から「ハリー・ポッター」シリーズが始まり、10年間スネイプを演じ続けた。この玉虫色の人物を好演することでアランの人気はさらに上昇し、本誌の投票でもシリーズ完結前から根強い人気を誇っていた。スネイプ役は本音を見せず、じっと内側で感情をコントロールできるスキルが求められるが、アランは成熟した演技力でこの役を自分のものにした。

過去に別の映画で英国アカデミー賞の受賞やノミネートはあったが、アメリカでのオスカーには縁がなかったアラン。英国の「ザ・ガーディアン」誌は2009年に「アカデミー賞の候補にならなかった偉大な俳優たち」のひとりとして彼の名前をあげていた。ただ、静かに本物の実力を見せていたところも彼らしいと思う。これからもスネイプ役はファンの間で愛され続けるだろう。

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Alan’s Precious Memory

アラン・リックマン、その素顔の記憶

劇中では冷徹なスネイプとして生徒たちを震え上がらせたが、素顔のアランは誰より温かな指導者だった。ダニエル・ラドクリフが「俳優としても人間としても、これほど誠実な人はいない」と最大級の賛辞を贈る一方で、撮影現場では茶目っ気たっぷり。 『アズカバンの囚人』の寝泊まりシーンでは、マイケル・ガンボンと結託してダニエルの寝袋に「ブーブークッション」を仕込み、本番中に爆音を鳴らして現場を爆笑の渦に巻き込んだという伝説も。少年のような悪戯心と、若き共演者たちへの深い愛が共存していた。(文/スクリーン編集部)

『ハリー・ポッターと死の秘宝〈PART2〉』より

『ハリー・ポッターと死の秘宝 〈PART2〉』
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