母を失った少女と、孤独を抱える先生。欠けたものを抱えながら生きる二人の出会いを描いた『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』は、痛みと優しさが静かに響き合う物語だ。長編デビュー作にして、青龍映画賞新人監督賞、そしてベルリン国際映画祭での受賞という快挙を成し遂げたキム・ヘヨン監督。本作に込めたキャラクター造形の意図やキャスティングの裏側、そして公開までの長い道のりで自身を支え続けた思いについて話を聞いた。(取材・文/ほりきみき)

1万回の「大丈夫」を越えた先に見えた希望

──本作は「母を失った少女」と「孤独な先生」の関係を軸にした物語ですが、監督はこの二人の関係を最初にどのようなイメージから構想されましたか。

困難や欠乏を抱えたキャラクターを描きたいと考えたのが出発点でした。若い世代を描くとき、子どもたちは親の保護や物質的な支えが十分に得られない状況に置かれていることがあります。一方で、大人は経済的にもキャリア的にもある程度満たされているように見えても、心の中には虚しさや孤独を抱えている。

そうした「子ども」と「大人」、それぞれが異なるかたちで欠落や難しさを抱えている人物を並べることで、互いに補い合う関係を描けるのではないかと考え、この設定にたどり着きました。

人は誰しも「生きたい」「成功したい」と願い、完璧であることを目指しますが、その先にあるのは結局「成功」だと思うんです。ただ、実際に成功を手にしたとしても、必ずしも100%幸せになれるわけではない。そのことも、この作品を通して伝えたかったテーマの一つです。

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──主演のイ・レさんは子役としてデビューしてからキャリアが長いですが、本作の「イニョン」というキャラクターを通じて、彼女のどのような「新しい一面」を引き出したいと考えましたか。

これまでのイ・レさんにない新しい一面を引き出す、というよりも、もともと彼女の中にある魅力をどう活かすかを大切にしました。子役時代から長く活動し、さまざまなジャンルの作品に出演してきた方なので、「見せてこなかった面を探す」というよりは、彼女自身が持っている資質に改めて目を向けたんです。

特に、イ・レさんの持つ明るさや前向きなエネルギーは、この作品のイニョンというキャラクターととてもよく重なります。その魅力を引き出し、より大きく、より鮮やかに表現することを意識しました。言い換えれば、新しさを加えるというよりも、彼女の中にあるポジティブな側面を最大限に拡張していった、という感覚に近いと思います。

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──チン・ソヨンさんは『毒戦BELIEVER』(2019)での強烈なイメージがありますが、今回「冷徹さと温かさが共存する」ソラ役に彼女を起用した決め手、また現場での彼女の意外な素顔があれば教えてください。

これまでチン・ソヨンさんは、強烈でインパクトのある役柄の印象が強く、「怖い人」というイメージを持たれている方も多いと思います。私自身もそうした印象を持っていましたが、実際にお会いしてみると、とても愛らしい方だと感じたんです。特に笑ったときに目元が下がって、半月のようになる表情が本当に可愛らしくて。その魅力が、これまで十分に知られていないのではないかと思いました。

だからこそ、強さだけでなく温かさも併せ持つソラというキャラクターを、きっと見事に体現してくれるはずだと感じ、起用しました。

実際の現場でも、最初はスタッフの中に「近寄りがたいのでは」と構えている人もいましたが、チン・ソヨンさんはとても情に厚く、優しい方で、よく笑うんです。そのギャップに最初は皆驚いていましたが、撮影が進むにつれて、その人柄に惹かれ、気づけば現場の多くがファンになっていました。

ただし今回の撮影では、「絶対に笑わないでください」とお願いしていたんです。普段はあんなに笑顔の多い方だからこそ、その笑顔を封じることで、ソラという人物の緊張感や孤独がより際立つと考えました。

──後半で見せる自然なソラ先生の笑顔は、私もキュンキュンしました。

あの笑顔こそが、彼女の本来の姿なんです。あのシーンの撮影では、チン・ソヨンさん自身もとてもリラックスしていて、本当に自然体で演じていらっしゃいました。撮影もとてもスムーズで、すぐにOKが出たのを覚えています。

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──本作の制作中に監督ご自身が自分に対して、タイトルのように「大丈夫、大丈夫、大丈夫」と言い聞かせた瞬間はありましたか。

はい。まずこの作品自体が私にとって長編デビュー作だったこともあり、準備段階から多くの困難に直面していました。経験を重ねてきた監督とは違い、「これからデビューする」という立場ならではの難しさがあって、そのたびに自分に「大丈夫」と言い聞かせていたのです。

特に大変だったのは、撮影終了後から公開までの期間でした。本作は2021年5月に撮影を終えましたが、韓国での公開は2025年2月と、非常に長い時間を待つことになったのです。その間、2023年10月に釜山国際映画祭で初上映され、さらに2024年2月にはベルリン国際映画祭でも上映されましたが、それでも「完成した作品がすぐに世に出ない」という状況は、精神的にとても辛かったことを覚えています。その期間は気持ち的に苦しい時間がずっと続いていて、自分に何度も「大丈夫」と言い聞かせていました。おそらく、1万回くらいは言っていたんじゃないでしょうか。

──そんなときに、精神的な支えになったものや、前向きになれる心の持ちようといったものはあったのでしょうか。

一緒にこの作品を作ってくれた俳優やスタッフの存在を思い出しながら、踏ん張っていました。彼らのことを考えると、「ここで諦めてはいけない」と自然と思えたんです。その思いが、前に進む力になっていたと思います。

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──2025年青龍映画賞の新人監督賞、そしてベルリンでの受賞と、長編デビュー作として最高のスタートを切られました。この成功によって、監督の物語に対する視点や次作への向き合い方に変化はありましたか。

何かが大きく変わった、という感覚はありません。青龍映画賞やベルリン国際映画祭で賞をいただいたことによって、作品づくりへの向き合い方が変わったというわけではないんです。

もちろん、デビュー作で作品賞と監督賞という形で評価していただけたことは本当に光栄で、ありがたいことだと感じています。ただ私にとって賞は、この映画を一緒に作り上げた俳優やスタッフへの「お疲れさまでした」「よく頑張りました」という、ねぎらいの意味が大きいものだと思っています。

その上で、自分自身としては、これからも監督として成長し続け、作るべき作品をきちんと作っていかなければならないという気持ちは変わりません。賞の有無に関わらず、その姿勢は大切にしていきたいと思っています。

ただ、今回の受賞を通して、「諦めなくてよかった」と自分に声をかけることができたのも事実です。今後はより一層、いい物語を観客に届けたい。そして監督としての責任を果たしていきたいと改めて強く感じました。

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<PROFILE> 
監督:キム・へヨン 
2019年、JTBCドラマ「恋愛体質〜30歳になれば大丈夫」の共同演出を担当し、多くの人々の人生ドラマを生み出したキム・ヘヨン監督は、初の長編映画監督作『大丈夫 大丈夫 大丈夫!』を通じて、力強く新生活を始める観客たちに、希望に満ちた癒しと応援のメッセージを届ける。

<映画> 
『今夜、世界からこの恋が消えても』(2025)監督 *韓国リメイク版 
『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』(2023)監督 
『エクストリーム・ジョブ』(2019)助監督 
『造られた殺人』(2015)助監督 
『二十歳』(2015)助監督 

<ドラマ> 
「ユニコーン~パンギョ物語~」(2022)演出 
「恋愛体質〜30歳になれば大丈夫」(2019)演出

©motoishiduka

『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』4月10日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

画像: 映画『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』ティザー予告|4月10日(金)全国公開! youtu.be

映画『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』ティザー予告|4月10日(金)全国公開!

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<STORY> 
母親を失った高校生イニョン(イ・レ)は、家賃が支払えず家から追い出されてしまい、所属しているソウル国際芸術団の練習室で隠れて寝泊まりしていた。芸術団の60周年公演に向けて猛特訓が続く中、ある日、“魔女”と呼ばれ、完璧主義で生徒達に容赦なく厳しい態度をとる芸術監督ソラ(チン・ソヨン)に練習室での生活がバレてしまい、その日からソラの家で一緒に暮らすことに。年齢も性格も生活習慣も違う二人は、お互いに戸惑いを見せながらも、同じ時間を過ごすことで徐々に心を通わせていく。そんな中、イニョンを敵対視している芸術団のエース、ナリ(チョン・スビン)の不調をきっかけにチーム内で問題が勃発。イニョンをはじめとする団員たち、そしてソラの気持ちはバラバラになってしまう。公演開催の危機に迫られた芸術団のため、ソラはある覚悟を決めるが…

<STAFF&CAST> 
監督:キム・へヨン 
出演:イ・レ、チン・ソヨン、チョン・スビン、イ・ジョンハ、ソン・ソック 
2023年/韓国/カラー/スコープ/5.1ch/原題:괜찮아괜찮아괜찮아!/英題:IT’S OKAY!/102分/字幕翻訳:根本理恵/提供:KDDI 
配給:日活/KDDI
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