カバー画像:Photo by Carlo Allegri/Getty Images
マッツ・ミケルセンの“原点”が4Kで再びスクリーンに!
昨年、全国で開催され、連日満席の熱狂に包まれた「マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」。その興奮も冷めやらぬ中、今年で映画デビュー30周年を迎えるマッツ・ミケルセンのキャリアの出発点にして、デンマーク映画史を揺るがした『プッシャー』3部作が“4Kデジタル修復版”としてスクリーンに帰還する。
1996年に製作された『プッシャー』一作目は、当時30歳だったマッツの記念すべき長編映画デビュー作。後に『ドライヴ』や『ネオン・デーモン』などで世界的評価を得る鬼才ニコラス・ウィンディング・レフン監督にとっても初の長編作品であり、コペンハーゲンの裏社会を舞台に、追い詰められていく麻薬密売人(=プッシャー)の姿をリアルな緊迫感とともに描き、犯罪映画の新たな金字塔としてデンマーク映画史にその名を刻んだ。
一作目で主人公の相棒トニー役として強烈なインパクトを残したマッツは、続編『プッシャー2』では堂々の主人公へと抜擢。刑務所から出所し、底辺でもがく男の葛藤と苦悩を全身で体現し、デンマークのアカデミー賞であるロバート賞の最優秀主演男優賞を受賞。本国での評価を不動のものにするとともに、のちに世界を席巻する国際的スターへと至る確かな足掛かりを掴んだ。
シリーズ最終章『プッシャー3』は、マッツが演じるトニーこそ登場しないものの、シリーズを通して麻薬王として君臨してきたミロの孤独と権力の衰退をテーマに据え、3部作全体の完成度を格段に引き上げる完結編に仕上がっている。
“北欧の至宝”が世界にその名を轟かせる前夜に生まれた原点であり、ニコラス・ウィンディング・レフン監督にとっては、その後の国際的な大躍進の礎となった『プッシャー』3部作。伝説の幕開けから30年というタイミングで、そのすべてを“4Kデジタル修復版”として鮮明な映像で味わうことのできる貴重な機会となる。
『プッシャー』がもっと楽しくなる! マッツ・ミケルセンの3つの知られざる逸話
1.オーディションを制した“イラつかせる”演技
『プッシャー』1作目で長編映画デビューを飾ったマッツ・ミケルセンは当時まだ演劇学校の学生。そんな“無名の存在”が主人公の相棒トニー役をオーディションで勝ち取った決め手は、驚きの即興演技だった。マッツは「周囲をイラつかせる男」を体現するため、何を言っているのか判別できないほどの高速トークを披露。その落ち着きのない、エネルギーに満ちたチンピラ像が、トニーのキャラクターと完全に合致。衝撃を受けたレフン監督はその場で起用を確信したという。マッツ伝説の幕開けにふさわしいエピソードだ。
2.初出演のギャラはまさかの「自転車」だった!?
“北欧の至宝”として世界的スターとなった今では信じられない話だが、一作目の『プッシャー』はまだ新人だったニコラス・ウィンディング・レフンの初監督作品でもあり、かなり低予算の映画だったため、マッツに支払われたギャラは現金ではなく“自転車一台”だった。マッツは「せめてチャイルドシートも付けてくれないか」と食い下がったものの、プロデューサーにあっさり却下されたと、後に「ニューヨーカー」誌などのインタビューでユーモアたっぷりに明かしている。この自転車一台から彼の輝かしいキャリアが始まった。
3.名作『タクシードライバー』へのオマージュ
最も好きな作品の一つとしてマーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』を挙げているマッツ。彼とレフン監督が当時抱いていた「デンマークにもこれぐらい刺激的な映画が必要だ」という熱き共鳴が、「プッシャー」シリーズを名作へと押し上げる原動力となった。特に『プッシャー2』でトニーが鏡と向き合うシーンは、ロバート・デ・ニーロ演じるトラヴィスへのオマージュとして語り継がれる名場面。居場所を求めてもがく男の“孤独と狂気”を体現したマッツの役作りにも、あの名作と通じ合う魅力が宿っている。
