『プロジェクト・ヘイル・メアリー』をはじめ、フランチャイズに依存しない娯楽作や意欲作を次々と送り出し、ハリウッドで独自の存在感を放つ“Amazon MGMスタジオ”。その歩みと注目作に迫ります。(文・荻原順子(本文)、編集部(作品紹介)/デジタル編集・スクリーン編集部)
Amazon スタジオ時代は小規模作品で注目を集める
往年の名画ファンであれば、『風と共に去りぬ』(1939)や『レベッカ』(1940)の冒頭、“セルズニック・インターナショナル・ピクチャーズ”の看板に続いて登場する白い大邸宅を記憶している方も少なくないはずだが、あの大邸宅、実は、1918年、サイレント映画時代のプロデューサー/監督のトーマス・H・インスが建てたカルバー・スタジオという映画スタジオの建物。その後は、セシル・B・デミルやデヴィッド・O・セルズニックなど、所有者が変わったが、今でも健在で、現在はAmazon MGMスタジオの本拠地となっている。(*但しカルバー・スタジオの土地・施設は別会社の所有)

『風と共に去りぬ』などにも登場する、カルバー・スタジオを象徴する“The Mansion”。
(写真は2017年のもの) Photo by Getty Images
そのAmazon MGMスタジオ(以下“Amazon MGM”)の前身Amazonスタジオは、2010年11月16日、親会社のAmazonの配信サービスAmazon Prime Video用のコンテンツを作るために創設された。その背景には、Prime Video加入者が増加したのと同時に競争相手のNetflixに対抗してオリジナル作品の製作を強化する狙いがあった。Amazon スタジオが最初に注目されたのは、2014年2月に配信開始された「トランスペアレント」で、最初の年に複数部門でエミー賞にノミネートされ、監督賞と2つの演技賞を受賞している。映画では『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)が配信会社製作の映画としては初めてアカデミー賞にノミネートされ、ケイシー・アフレックが主演男優賞を、ケネス・ロナーガンが脚本賞をそれぞれ受賞した。その後も、『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(2017)や『サウンド・オブ・メタル〜聞こえるということ』(2019)等、批評家たちから高く評価されて映画賞も多く受賞するような、比較的小規模予算のインディー映画を製作していくが、2021年にAmazonがMGMを買収、現在のAmazon MGMとなってからは製作する作品の方向性が大きく変わっていくことになる。

「トランスペアレント」
父親がトランスジェンダーであることを告白した家族の物語。エミー賞、GG賞などで受賞。本スタジオ初期代表作のひとつ。
Prime Video で独占配信中
© Amazon Content Services LLC

『サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ』(2019)
聴力を失い始めたメタルバンドのドラマーの葛藤と再生を描く。第93回アカデミー賞では編集賞・音響賞を受賞している。
Prime Videoで配信中
©Amazon Studios
AmazonMGMスタジオとなり“劇場公開”もより重視するように
MGM買収によってアマゾンが獲得した最も大きな財産は、100年以上の歴史を持つ老舗映画スタジオ、MGMが所有するIP(Intellectual Property=知的所有権)だろう。MGMのIPは、4,000本以上の映画、17,000本以上TV番組に及び、「007」シリーズを筆頭に、「ロッキー/クリード」、「ロボコップ」、「ピンク・パンサー」など、現行シリーズやリブートの可能性を秘めた過去のヒット作も多い。中でも「007」シリーズは、史上最も興行収入の高いメディア・フランチャイズの1つとして知られており、2025年にAmazon MGMが「007」シリーズのプロデューサー、バーバラ・ブロッコリからクリエイティブ・コントロール権を譲り受けた際には、大いに話題になった。
Amazon MGMは、劇場公開も重視するようになり、配給部門を設置。Amazonスタジオ時代のように、映画賞受賞の資格を得るためだけに限定的な期間のみ劇場公開した後すぐに配信を開始するような公開フォーマットではなく、従来のように劇場公開する作品を年に12本から15本ぐらい製作する意向を発表している。
まるで“古き良きハリウッド”娯楽作から野心作まで製作

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(2026)
アンディ・ウィアーのベストセラーSFを映画化。ライアン・ゴズリングが、地球の運命を背負った教師を演じ、世界興収6.7億ドル超の大ヒット。現時点でAmazon MGM最大のヒット作。
Prime Videoにて見放題独占配信中
© Amazon Content Services LLC
かくしてAmazon MGMは、中規模予算の大人向け作品を製作し続けながらも、大型娯楽作の製作体勢も整備。2026年3月に公開された『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は約2億ドルの製作費で世界的に6億7,700万ドルの興行収入を記録。一方では製作費4,000万ドルのジェイソン・ステイサム主演のB級アクション映画『ビーキーパー』(2024)で、世界的に1億6,260万ドルを稼ぐなど、地味ながら手堅い興行にも成功している。幅広い層にアピールする娯楽作品を製作する一方で、『チャレンジャーズ』(2024)や『クライム101』(2026)といった批評家受けする作品も製作するスタンスは、“古き良き時代のハリウッド・スタジオ”的だとも言える。そのあたりが、マーベル映画やDC映画、あるいはCGIてんこ盛りな映画に飽き飽きしていた映画ファンに歓迎され、Amazon MGM作品は、好調な興行を続けているのかもしれない。

『ビーキーパー』(2024)
ジェイソン・ステイサム主演。元特殊部隊員の養蜂家が詐欺集団に復讐を挑むアクション。世界興収1.6億ドル超を記録し、続編も決定。
Blu-ray&DVD発売中・デジタル配信中
© 2024 Miramax Distribution Services, LLC. All Rights Reserved.

『チャレンジャーズ』(2024)
親友だったふたりのテニス選手が一人の女性を巡って愛憎をぶつけ合う姿を、ルカ・グァダニーノが官能的に描く。
Prime Videoで見放題独占配信中
©2024 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. All Rights Reserved.

『クライム101』(2026)
犯罪小説界の巨匠ドン・ウィンズロー原作。刑事・強盗・保険ブローカー、3人の運命が交差する。“大人向け犯罪映画”との評も。
Prime Videoで配信中
© 2026 Amazon MGM Studios Content Services LLC
“昔のハリウッド感”を復活させて成功しているAmazon MGMの2026年公開予定待機作には、『ブレット・トレイン』(2022)のデヴィッド・リーチによるアクション映画『銀行強盗:完全マニュアル』(9月)、アン・ハサウェイとダコタ・ジョンソンが共演するサイコ・スリラー『ヴェリティ/真実』(10月)、シルヴェスター・スタローンが『ロッキー』を作るに至った経緯を描く“I Play Rocky”(11月)、2027年公開予定待機作では、『華麗なる賭け』(1968)を『トーマス・クラウン・アフェアー』(1999)に続いて、マイケル・B・ジョーダン監督・主演でリメイクした 『The Thomas Crown Affair(原題)』(3月)や、「スペースボール」(1987)のリブート、 『The Spaceballs, The New One(原題)』(4月)など、MGMのIPライブラリーを活かした作品も控えている。上記のラインアップを見ても、様々なジャンル、多様な観客ターゲットを想定した作品が挙がっているようで、今後、Amazon MGMがどのような映画作りをしていくのか、注目していきたい。

『ひつじ探偵団』(2026)
人気小説の映像化。モフモフな羊たちが、飼い主を殺した犯人捜しに奮闘する。本格的なミステリーに差別や偏見など社会的なテーマも盛り込まれ、日本でも話題に。
Prime Videoにて独占配信中
© Amazon Content Services LLC

『マスターズ・オブ・ユニバース』(2026)
80年代に人気を誇ったIPの再映画化。主演にニコラス・ガリツィンを迎え、溌剌な筋肉アクションにマッチョイズムの再定義も取り込んだ意欲作。
Prime Video にて独占配信中
© 2026 Amazon Content Services LLC
