『オブセッション 災愛』と『バックルームズ』という2本のホラー映画が、全米興行で記録的なヒットを飛ばしています。その熱狂を支えているのは、主にZ世代の若い観客たち。なぜ彼らはこの2作にこれほどまで夢中になるのでしょうか。作品の魅力をひもときながら、その背景を考察します。(文・SYO/デジタル編集・スクリーン編集部)

好きすぎる“クソデカ感情”に恐怖 ──『オブセッション 災愛』

画像: “好き”が暴走していく恐怖(『オブセッション 災愛』)

“好き”が暴走していく恐怖(『オブセッション 災愛』)

画像: 『オブセッション』のカリー・バーカー監督 Photo by Frazer Harrison/Getty Images

『オブセッション』のカリー・バーカー監督
Photo by Frazer Harrison/Getty Images

『オブセッション』は地域を問わず、よく話題に上るであろう「好きすぎる“クソデカ感情”が暴走したメンヘラ彼女/彼氏の怖さ」を寓話ホラー的に描いた作品であり、当事者にとっては狂気/恐怖でしかないのだが傍から観ているぶんにはなんとも笑えるという絶妙なバランスで設計されている。関係を壊したくなくていつまで経っても告白できず、まさに神頼みしてしまうオクテな草食男子の性格付け然り、友人同士のパーティでの王様ゲームや“彼シャツ(恋人から借りた大き目なサイズのシャツ)”といったシチュエーションにアイテム然り、「あるある」「わかるわかる」のオンパレード。そこにニューウェーブな殺人鬼映画『Pearl/パール』にインスパイアされたというナヴァレッテの思い切りよい怪演が加わり、ある種マンガ的ともいえる濃いキャラクターが爆誕。程よいブラックさや生々しさもありながら、一人でも友人・恋人とも(あくまで当社比だが……)気軽に観られるエンタメ性が全編で効きまくっている。

注目の題材×考察の魅力 ──『バックルームズ』

画像: “リミナルスペース”が題材(『バックルームズ』)

“リミナルスペース”が題材(『バックルームズ』)

画像: 『バックルームズ』のケイン・パーソンズ監督 Photo by Amanda Edwards/Getty Images

『バックルームズ』のケイン・パーソンズ監督
Photo by Amanda Edwards/Getty Images

対する『バックルームズ』は、昨今注目度が増している「リミナルスペース」を効果的に使った話題性が最大の武器。リミナルスペースとはインターネットを中心に広がった概念であり、人気(ひとけ)のない異質な空間を指す。いかにも何かが出そうなおどろおどろしい場所というよりも、そこはかとない不気味さ──誰もいないショッピングモールや異様に広い廊下、無機質だがよくよく見ると歪な階段やエントランス等が代表例だ。日本でも大盛況を収めた企画展「恐怖心展」やゲーム&映画『8番出口』、アニメ化もされた人気漫画「ダーウィン事変」などでリミナルスペースに触れた人は多いのではないか。『バックルームズ』はそんなリミナルスペースに迷い込んだ少年をファウンドフッテージ風に描き、YouTubeで爆発的な再生数を記録した人気動画の映画化であり、製作発表時から心待ちにしていたファンも多い。『オブセッション』が設定のわかりやすさでシェアを広げたのに対し、『バックルームズ』は若者世代に浸透したネタを使いつつも、「この空間は何なのか?」「あのシーンの意味は?」等々、様々な考察を誘発するような余白の効いたストーリー展開で支持を獲得しているのも興味深いポイントだ。つまり、前者には「これ見た?」と推したくなる親密さ、後者には「これわかる?」と言い/聞きたくなる難解さがそれぞれ備わっている。ブレイク前の若手注目株を起用した『オブセッション』とは対照的に、『バックルームズ』は『それでも夜は明ける』のイジョフォー&『センチメンタル・バリュー』のレインスヴェという国際的な演技派で固めるなど、様々な面においてアプローチこそ異なるが、どちらもSNSに投稿したくなるフックは共通している。『オブセッション』のニッキーを「マネしてみた」投稿や『バックルームズ』に触発されて「リミナルスペース探してみた」投稿の盛り上がりもあり(一般ユーザーだけでなく、マクドナルド等の大企業まで参加)、ネット世代との相性が抜群に良いのだ。

“わかってる感”だけではない映画としての高いクオリティ

さらに、どちらも「体験型」の映画であることも付け加えておきたい。『オブセッション』においては「もし恋の願いが最悪な形で叶ってしまったら?」という恋愛シミュレーションであり、『バックルームズ』はPOV(主観映像)手法を的確に採り入れながら、脱出ゲーム的なハラハラドキドキ感を静謐なトーンで創出している。2作ともに、映画館で観る旨味を存分に感じられる仕様や心配りが行き届いている。『オブセッション』のカリー・バーカー監督は1999年生まれ(26歳)、『バックルームズ』のケイン・パーソンズ監督は2005年生まれ(21歳)と非常に若く(公開当時20歳だったパーソンズは、デビュー作が国内&世界ランキング双方で第1位を獲得した史上最年少の監督に)、共にSNSと共に育ち、YouTubeで経験を積んできた新世代のクリエイター。U35の観客層にとっては、「完全に自分たちの方を向いてくれている作品」として映ったのではないか。こうした同世代感=“わかってる”感も、若者たちが応援したくなる要素の一つと言える。ただ、これが極めて重要なポイントだが──『オブセッション』も『バックルームズ』も内輪だけが盛り上がる「オレたち映画」のレベルではない。題材のキャッチーさはあくまで“入口”であり、映像の強度、確信的な演出、劇伴/音響の活用、編集のセンスに独自の世界観/カラー/質感の創出、後世に確実に影響を与えるであろう革新性──純然たるクオリティの高さで勝負している。共に醒めない悪夢を描いた2作品は、日本の若者たちとも感応するに違いない。

CHECK 動画投稿が映画監督への新たな登竜門に

画像: ダニー&マイケルのフィリッポウ兄弟 Photo by Paul Archuleta/Getty Images

ダニー&マイケルのフィリッポウ兄弟
Photo by Paul Archuleta/Getty Images

『バックルームズ』で大成功を収めたA24は、若手クリエイターの発掘に定評のある企業の一つ。YouTube出身の監督も多く、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』のボー・バーナムはユーチューバー第一世代。他にも『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』『ブリング・ハー・バック』のフィリッポウ兄弟らがおり、本年度のカンヌ国際映画祭の話題作『Club Kid(原題)』のジョーダン・ファーストマンはInstagramでブレイク。ビデオエッセイで注目された『アフター・ヤン』のコゴナダはその始祖といえ、今後この傾向は加速していくはず。

『オブセッション 災愛』
公開中
アメリカ/2025/1時間49分/配給: パルコ ユニバーサル映画
監督:カリー・バーカー
出演:マイケル・ジョンストン、インディ・ナヴァレッテ、クーパー・トムリンソン、メーガン・ローレス
© 2026 Focus Features LLC.

『バックルームズ』
2026年9月4日(金)公開
アメリカ/2026/2時間6分/配給: ハピネットファントム・スタジオ
監督: ケイン・パーソンズ
出演:キウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェ、マーク・デュプラス、フィン・ベネット
© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

This article is a sponsored article by
''.