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アメリカ建国200年のタイミングで生まれた 米国の闇を映し出すような名作

大都会NYで孤独に生きるトラヴィス
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アメリカが建国200年を迎えた1976年、当時のアメリカの大都会に生きる人々の雰囲気を見事に捉えた一本の鮮烈な映画が世界的に大きな注目を集めた。それがマーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』だった。あれから50年経った今もこの名作は人々の心から離れていない。未見であれば一度は見ておくべき類の映画の一つだろう。
主人公トラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)はベトナム帰りの元兵士で、不眠症のため定職に就けず、タクシー会社に入って夜のマンハッタンをあてどなく徘徊していた。そんな彼が一目ぼれした女性に不適切な行為をしてふられ、悪い男に騙され体を売っている少女を諭そうとしたりするうちに、ふとしたことで銃を手に入れ「街の浄化作戦」を決行しようという考えに囚われていく…。
50年前のニューヨークは今より退廃的で危険な印象があったように思うが、そんな大都会の夜を一台のイエローキャブ(タクシー)が滑りぬけるように走る姿をスローで捉えたショットが、それまでのアメリカ映画にはない感覚で胸をざわつかせた。スコセッシ監督は日本で前年に公開された『アリスの恋』くらいしか馴染みのない俊英で(『ミーン・ストリート』が日本公開されたのは80年)、恐るべき才能が現れたことを本作で決定づけた。

トラヴィスはアイリスを救済する使命感にかられる
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日本で公開される前にこの新たな傑作に湧きたったのはカンヌだった。第29回カンヌ国際映画祭では、作家テネシー・ウィリアムズが審査員長を務めたコンペ部門で、アメリカから出品されたこの異色の映画にパルムドールを与えた。スコセッシ初の国際的な栄誉だった。一方本国アメリカでも翌年のアカデミー賞候補となったが、作品賞などで同時候補となった『ロッキー』が、アメリカンドリームを象徴するような内容で、建国200年祝いの風潮に相応しかったためか、作品賞など3部門受賞。退廃的なムードの『タクシードライバー』は作品、主演男優(デ・ニーロ)、助演女優(ジョディ・フォスター)、音楽(バーナード・ハーマン)の4部門にノミネートされながら無冠に終わった。日本では本誌SCREENの批評家ベストテンで1位を獲得。読者ベストテンの方も『カッコーの巣の上で』に続く2位となった。デ・ニーロが男優部門で7位、ジョディが女優部門4位と共に初のベストテン入りを果たし、批評家・観客双方に受け入れられたことを示している。
あまりに影響力が強く、現実の世界で危険な行為を真似た人物も出現
しかしこの映画の凄さは1年単位に留まるものではなかった。デ・ニーロの演技が真に迫っていたせいか、トラヴィスに成りきる輩も増え、81年にロナルド・レーガン大統領(当時)暗殺未遂事件を起こしたジョン・ヒンクリー・ジュニアという犯人は、この映画の出演者ジョディ・フォスターに心酔し事件を起こしたという、かなり重症な例もあるが、トラヴィスが鏡に向かって放つ独り言「You Talkin to Me?(俺に言っているのか?)」を真似た人も少なくないだろう。ちなみにこのセリフはAFIの米映画史上最高の名セリフ10位に選ばれている。彼が身に着けている軍用のジャケットやモヒカン刈りの頭も流行ファッションとなった。そして本作に影響された映画作家も少なくない。近年ではトッド・フィリップス監督の『ジョーカー』に見られるオマージュが良い例だろう。大都市で安アパートに住む何者でもない人物が主人公であり、彼のなかで芽ばえた何かが大きく育っていき凶行に至るシークエンスはまさにトラヴィスの狂気と重なるところがある。初公開から半世紀が経っても、いまだその影響力に衰えがないところが本作の凄さだ。

撮影合間のジョディ、デ・ニーロ、スコセッシ監督
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本作は裏話にも事欠かない。デ・ニーロは役の準備のため13キロ減量し、本物のタクシー運転手として一定期間働き、その行動を学んだり銃の扱いを習ったり、そのなりきり演技法は後に“デ・ニーロ・アプローチ”と呼ばれるようになった。また本作で初のオスカー候補になったジョディは当時13歳。ローティーンが娼婦役を演じるという設定も、当時かなりショッキングな内容だった。先述のジョン・ヒンクリーではないが、ホットパンツでマンハッタンを闊歩するアイリス(ジョディ演じる少女)の姿がこの映画の一番の記憶という人がいても不思議ではないほど。ただしジョディ本人は最初にこの衣装を着せられた時、恥ずかしくてちょっと泣いてしまったそうだ。
もう一つこの映画を脳裏に焼き付ける役割を果たしているのが、名匠バーナード・ハーマンによる気だるくジャジーなスコア。『サイコ』などヒッチコック作品の音楽で知られるハーマンは、この作品のレコーディングが終わった12時間後に死去。久々のアカデミー賞作曲賞候補(もう一つ手掛けたブライアン・デ・パルマ監督の『愛のメモリー』でも同時候補)になったが受賞は逃している。
50年が経ってアメリカが抱える社会問題も大きく変化したが、人間の心に潜む闇の深さ、正義を求める渇望、接触しながらすれ違う人間関係は、国を越えていつの時代も共通するテーマだ。『タクシードライバー』が古びない名作たる所以は、今も至る所に存在している。
