〜今月の3人〜
稲田隆紀
映画解説者。熱さに耐えつつスクリーンをみつめる。何歳になってもこれが喜びのひとときだ。
杉谷伸子
映画ライター。友人に誘われ出かけたライブビューイングのおかげで、遂にBTSの魅力を知る。今度こそ韓国語を頑張れるか!?
米崎明宏
映画ライター、編集者。住居の大規模改修工事が始まり、部屋の周囲が鉄骨で囲まれ、暑いのに窓が開けられない!
稲田隆紀 オススメ作品
『美しく、黙りなさい』
かつて女優たちは映画撮影でどう扱われたか?
70年代に作られた注目ドキュメント

評価点:演出5/演技5/脚本4/映像3/価値(※)5
※音楽の代わり
あらすじ・概要
スクリーンで活動する女優たちに「男性であってもこの職業を選んだか」を問うとそれぞれストレートな返答がもたらされた。題名は、「女優は美しく、いればいい」という演劇界の言葉という。今や女優の地位も向上した。
『去年マリエンバートで』や『夜霧の恋人たち』が忘れ難い女優、デルフィーヌ・セリッグが1976年に発表したドキュメンタリー。公開されるのは2023年に修復された復元版で、セリッグは監督とインタビューを務めている。#Me,Too運動もなかった1975年、76年、女優たちはどのような環境に置かれ、我慢を強いられたか。23人の女優たちがカメラの前でリスクを恐れずに証言する。未だ男性中心の映画界にいながら、語られるコメントは生々しくも鋭い。
インタビューを受けるのは、ジェーン・フォンダ、シャーリー・マクレーン、ジル・クレイバーグ、ルイーズ・フレッチャーをはじめとするアメリカ女優陣に、アンヌ・ヴィアゼムスキー、マリア・シュナイダーなどのヨーロッパ勢が加わる。未だ女性の地位が確立していなかった時代に自らの立場を正直にコメントする彼女たちに素直に拍手を送りたくなる。初期のヴィデオ映像のため画面はクリアではないが、勇気ある女優たちを称えたい。フェミニストを貫いたセリッグの情熱に頭が下がる。貴重な作品。
公開中、ムヴィオラ配給
Ⓒ Archives Atalante and Roussopoulos Family Archives / Centre audiovisuel Simone de Beauvoir
杉谷伸子 オススメ作品
『白パンと独裁者』
F・アキン監督が恩師の幼い時代の
記憶を基に描く母親思いの少年の成長記

評価点:演出4.5/演技4.5/脚本4.5/映像5/音楽4
あらすじ・概要
第二次大戦末期、ドイツ北部のアムルム島。ハンブルグから疎開中のナニングは、ヒトラーの死で食事も拒むようになった母のために、バターと蜂蜜をたっぷり塗った白パンを調達しようとする。
ファティ・アキンが監督したドイツ映画界の重鎮ハーク・ボームの記憶は、ナチス政権が崩壊する時代のある少年の成長記だ。そこに溢れるのは、ヒトラーの死で生気を失った母を元気にすべく貴重な食材のかずかずを求めて奔走する12歳のナニングの一途な健気さと、母にはそんな息子の献身も目に入っていないというせつなさ。そうしたなかでも、少年は世界の現実を知り、ひとつ大人になっていく。
そのドラマを特別なものにしているのが、舞台であるアムルム島。冒頭からラストに至るまで、世界の変化とは無縁の自然豊かな美しさをとらえた映像には、ナニングが海辺や草原を歩いているだけの光景にも詩情が溢れ、この地への憧れをかきたてる。
どこか不安げなナニングを演じたジャスパー・ビラーべックと、聡明な親友ヘルマン役のキアン・ケップケも、それぞれに魅力的で、これからの活躍も楽しみになる。そのヘルマンがナニングに贈った言葉の意味を、今は亡きボーム自身の姿があるラストシーンが深くして、胸アツだ。
公開中、ビターズ・エンド配給
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米崎明宏 オススメ作品
『プライベート・ケース』
ジョディ・フォスターがお得意の
フランス語で主演する心理ミステリー

評価点:演出4/演技4/脚本3/撮影4/音楽3
あらすじ・概要
精神分析医リリアンは、患者のポーラが急死したと知らされ驚く。診療中はその兆候がなかったので誰かに殺されたのではと疑い始め、自ら調査開始。やがて彼女は自身の未知の領域にも踏み込んでいくことになる…。
ジョディ・フォスターは子供時代にリセに通っていためフランス語が堪能ということで知られている。以前も『私、青い花』(77日本未公開)や『他人の血』(84日本ビデオ公開)、『ロング・エンゲージメント』(04)といったフランス作品に何度か出演しているが、彼女が主演し全編お得意のフランス語での演技を堪能できる本作は、ヒッチコック風心理ミステリーでなかなか楽しい。
パリで精神科医をしているリリアン(ジョディ)は、長年彼女の患者だった女性が急死し、違和感を覚える。もしかして彼女は殺されたのでは? そんな疑念が頭から離れないリリアンは、遺族が怪しいと睨み、元夫ガブリエルの協力を得て独自の調査に乗り出す。素人探偵リリアンの単独行動はハラハラものだが、ダニエル・オートゥイユが軽やかに演じるガブリエルの登場でコミカルさを添えた多層的な謎解きものになっていく。リリアンとガブリエルのどことなく好もしい元夫婦の関係もあって、レベッカ・ズロトヴスキ監督の演出は大人の映画の余裕を感じさせる。
上映中、スターキャットアルバトロスフィルム配給
©LES FILMS VELVET - BUENOS HAIR - FRANCE 3 CINEMA




