10メートル級トロイの木馬を制作。しかも複数

10mのトロイの木馬を複数制作
監督は、兵士たちが内部に隠れる彫像「トロイの木馬」でも本物らしさを追求。叙事詩に書かれた車輪付きの像ではなく、車輪はなく、浜辺で沈みかけているところを発見される設定に変更。ただし、兵士が何人も内部に隠れるため、高さは約10メートルの巨大さで製造。撮影中に摩耗して、何体も製作された。実は監督は、一時、トロイの木馬を描く映画『トロイ』(04)を監督する予定で、その当時から本作のような木馬を考案していた。
1万200㎡の巨大セット×2000人のエキストラで撮り上げたトロイアの夜戦

規格外のスケールで撮影
トロイアでの夜の戦闘をリアルに描くため、モロッコのアトラス山脈近くの集落アイット・ベン・ハドゥに、壮大なセットを建設。すでに存在する建築物に継ぎ目なくセットを加える形で、1万200平方メートルの敷地に、新たに60戸の建物を加え、15本のオリーブの木を植樹。建設されたアテナ神殿は、幅15m、奥行き20m、高さ11mの壮大な建造物になった。この街で、約2000人のエキストラが激しい戦闘を繰り広げた。
炎と松明の時代を再現すべく新装置“パイラヘドロン”を開発
撮影のホイテ・ヴァン・ホイテマは、夜の光源が炎と松明だった時代をリアルに描くため、全編を本物の火を使って撮ることを希望。しかしそれは現実的ではなかったので、火のような色と動きの光を発するLEDセルを八角形に配置した、野外用照明装置パイラヘドロンを開発。トロイアの夜戦は、この装置数百個を設置して撮影された。
新型IMAX®カメラを開発!使用したフィルムは210万フィート
これまでノーランは特定のシーンだけをIMAX®カメラで撮影してきたが、本作では映画史上初となる「全編IMAX®カメラでの撮影」を決意。その実現のため、IMAX®社に新型カメラの開発を依頼。従来機より軽量で、取り回しも向上した新型カメラは、IMAX®の最高品質責任者キーリー氏とその妻にちなんで「ザ・キーリー」と命名された。撮影には従来のIMAX®カメラも併用され、使用されたフィルムの量は、長さにして210万フィート(約640キロメートル、東京~青森間を超える)に及んだ。なお、IMAX®カメラには約3分の撮影分のフィルムしか装填できず、そのたびに交換が必要だった。
IMAX®カメラの轟音を克服寄りの会話シーンでも音声の同録を実現
従来のIMAX®カメラは大きな駆動音が出るため、会話シーンで普通の声量のセリフをきれいに収録することが困難だった。本作ではカメラを覆って駆動音を抑える新型ブリンプ(防音ケース)を開発。これにより、IMAX®カメラ史上初めて、クローズアップでの会話シーンでも撮影とセリフの収録を同時に行えるようになった。
IMAX®に耐えるディテールこだわりの衣裳5300着

1着1着がこだわり抜かれた衣裳
映画のために作成された衣装の総数は、5300着。IMAX®カメラの映像は素材感まで映し出すため、素材は天然素材、手織りの布を選び、染料は自然の染料が使われた。デザインは、考古学や歴史的遺物に基づくだけでなく、生活感を出すための質感や破損も考慮。衣装のスタッフには、デザイナーや裁断師、裁縫師に加えて、革職人や甲冑類の職人、さらに衣装の劣化を表現する、汚し塗装アーティストも加わった。
古代の航海を海上で再現 キャスト自ら帆を張り、櫂を漕ぐ

キャストも操縦技術を獲得
オデュッセウスたちの航海シーンでは、古代と同じ材料で建造されたノルウェーの大型ヴァイキング船「ドラケン・ハーラル・ホールファグレ」を、古代の船に見えるよう改装して使用。実際に海へ出て撮影するため、乗組員は本物の船員とキャストで構成され、俳優たちも船を操縦する技術を身につけなくてはならなかった。撮影では自ら帆を張り、櫂を漕ぐことで、当時の船乗りたちの苦難を身をもって体験した。
ホイテ・ヴァン・ホイテマほか豪華スタッフ陣が参加

ホイテマ(右端)ら盤石の布陣
スタッフには、ノーラン監督作常連の名手たちが集結。撮影は『インターステラー』『ダンケルク』『TENET テネット』『オッペンハイマー』で組むホイテ・ヴァン・ホイテマ。『オッペンハイマー』組からは、音楽のルドウィグ・ゴランソン、美術のルース・デ・ヨンク、衣装のエレン・マイロニックが再結集。VFXスーパーバイザーのスコット・R・フィッシャーも『TENET テネット』『オッペンハイマー』に参加の常連だ。
神話内の“地中海”を描くため撮影は世界各地で敢行

世界各地で撮影
オデュッセウスの冒険は地中海を舞台に繰り広げられるが、ノーラン監督は現実の地中海らしい風景には拘らず、物語に登場するトロイアの街、キュクロプスの洞窟、キルケの家、カリュプソの島など、多彩な舞台を描くためのロケ地を探求。その結果、撮影は世界中に及び、モロッコ、ギリシャ、イタリア、アイルランド、スコットランド、アメリカの6カ国でロケを敢行。さらにカリフォルニアのサウンドステージでもセット撮影された。
古代×現代のミックスで紡ぐ音楽

ノーラン作品常連のゴランソン
Photo by Gareth Cattermole/Getty Images
音楽は『ブラックパンサー』『罪人たち』のルドウィグ・ゴランソン。古代の楽器、アウロス(根元で二股に分かれる笛)やライアー(小型のU字ハープ)、青銅板を使った鐘の音、オデュッセウスを象徴する弓の弦を引く時の音などを取り入れ、自らギターやハープ、ゴング、シンセサイザーなどを演奏して独自の音楽を作り上げた。
主人公の愛犬を演じたのは・・・?

ポデンゴ・ポルトゥゲスの子犬(映画に出演した犬とは別)
Photo by Scott Barbour/Getty Images
オデュッセウスの愛犬アルゴスは、目の不自由な忠臣エウマイオスと共に、主人の帰りを待ち続ける。この犬を演じた犬種は、古代イタリアに起源を持つ、ポデンゴ・ポルトゥゲス。グレーハウンドに似た体型の中型犬で、昔から、ウサギなどの小動物を狩る猟犬として飼われてきた。レグイザモいわく、現在は世界で75匹くらいしかいないそう。
5つの質問で辿るホメロス「オデュッセイア」
原作「オデュッセイア」の凄さとは何なのか。邦訳版を出版する岩波書店の方に聞きました。
1.ホメロスとはどんな人なのでしょうか。
諸説あり、よく分かっていません。一般に「イリアス」「オデュッセイア」の作者とされますが、この2作の作者は別人とも言われますし、そもそもホメロスという1人の人物は実在せず、複数の詩人たちの集合名詞だという説もあるそうです。文学研究の世界では「ホメロス問題」と呼ばれ、今も未解決の謎とされています。
2.「オデュッセイア」は西洋文学の“原点”と言われていますが、それはなぜなのでしょうか。
「イリアス」とともに西洋文学の最古にして最大の叙事詩であり、「原点」と呼ばれるにふさわしいことは疑いなく、現代に至るまでさまざまな文学的想像力の源となってきました。文学作品の外でも、作中に登場する「トロイの木馬」や美しい歌声で人を惑わせる「セイレン」などをご存じの方も多いことでしょう。
3. なぜ、約2,800年もの間読み継がれてきたのでしょうか。
ひとつ目の人喰い巨人や魔女キルケなどが次々登場するファンタジックな冒険譚としての面白さに加え、故郷をめざす主人公の苦難、息子テレマコスの父親探しの旅、横暴な求婚者たちへの復讐劇など、いくつもの物語を組み合わせてみごとに構成され、時代を超えて、何度読んでも飽きない魅力を持つからでしょうか。
4. 現代の文学、そして映画や物語には、どのような影響を与えたのでしょうか。
『2001年宇宙の旅』の原題が2001:A Space Odysseyであるように、探求や漂泊の旅路を描く物語の背景に「オデュッセイア」はすでに織り込まれているとも言えます。それを逆手にとったのが小説「ユリシーズ」で、英雄オデュッセウスの長きにわたる放浪を、しがない中年男がダブリンの街をうろつく、たった一日の物語に反転してみせました。
5. 今だからこそ、「オデュッセイア」を読む面白さはどんなところにあるのでしょうか。
「オデュッセイア」は、「大きな戦争の、その後」を描いた物語です。10年におよぶトロイア戦争がようやく終わったあと、傷ついた人々は何を求めたのか。あらゆる困難を超えて、どうにかして故郷の家族の元に帰ろうとするオデュッセウスの姿には、現代の読者も感じるところがあるのでは。
これから読んでみたい人に向けて、おすすめの書籍があれば教えてください。
子ども向けに物語仕立てで書かれた「ホメーロスのオデュッセイア物語」でまずは登場人物とストーリーになじんだ上で、松平千秋訳「オデュッセイア」を読むのがおすすめです。

ホメロス オデュッセイア(上・下)
岩波文庫
1,155円(上)/1,150円(下)
松平 千秋 訳
岩波書店

ホメーロスのオデュッセイア物語(上・下)
岩波少年文庫
891円(上)/847円(下)
バーバラ・レオニ・ピカード 作/高杉 一郎 訳
岩波書店

ホメロス物語 イリアス・オデュッセイア
岩波ジュニア新書
1,144円
森 進一 著
岩波書店
CEHCK:実はすでに「オデュッセイア」に触れているかも?
映画会社TSGエンターテイメントの、戦士が斧の間を矢で射るムービングロゴは「オデュッセイア」の有名なシーンが元ネタ。
スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』(原題:2001: A Space Odyssey)は「オデュッセイア」を意識した作品と言われている。
「オデュッセイア」を1930年代のアメリカ南部を舞台に翻案したコーエン兄弟の『オー!ブラザー』には、原典のモチーフが随所に。
『アフター・アワーズ』『ボーはおそれている』など、「帰りたいのに帰れない」主人公の苦難の旅はいまや物語の王道。その源流が「オデュッセイア」。
『オデュッセイア』
2026年9月11日(金)公開
アメリカ/2026/2時間52分/配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
監督:クリストファー・ノーラン
出演:マット・デイモン、トム・ホランド、アン・ハサウェイ、ロバート・パティンソン、ルピタ・ニョンゴ、サマンサ・モートン、ゼンデイヤ、シャーリーズ・セロン
photo by Melinda Sue Gordon © Universal Studios. All Rights Reserved.
