日本で連続上映される実在の殺人鬼をモデルにした必見のスリラー3作
実在の殺人鬼をモデルにした必見のスリラー3作が日本で連続上映される。いずれも衝撃的としか言いようがない内容だが、加えてそれぞれの作品にはトンがったセンスが。作り手の手法とともに、これらの作品を紹介していこう。

『ヘンリー』
先陣を切るのは、1970〜80年代に300人以上を殺したと自白するシリアルキラー、ヘンリー・リー・ルーカスを主人公にした『ヘンリー』(86)。日本では1992年に初公開され、今回は久々の正式リバイバル上映となる。本作が特異である点は、音楽を最小限に抑えた冷徹なタッチ。ヘンリーと、ムショ仲間の男、その妹との奇妙な共同生活が淡々ととらえられ、惨殺描写には、あたかも日常の一環のような寒々しい空気を漂わせる。ジョン・マクノートン監督は本作で注目され、後に『ワイルドシングス』などのメジャー作品を手がけることに。当時無名だったヘンリー役のマイケル・ルーカーは本作で知名度を上げ、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのヨンドゥ役などで個性派俳優として現在も活躍中だ。

『エヴィレンコ』
続いては、日本初公開となる2003年のイタリア映画『エヴィレンコ』。これは旧ソ連で52件の殺人を犯したアンドレイ・チカチーロをモデルにした実録ドラマで、役名はチカチーロからエヴィレンコに変更されるなど、細部で史実と異なる点はあるものの、チカチーロの異常性をあぶり出している点は興味深い。熱烈かつ厳格な共産主義者である一方で、子どもに対する性欲を抑えられず、次々と残虐な犯行を重ねるエヴィレンコ。その暗躍が、警察との攻防を交えて描かれる。名優マルコム・マクダウェルが主演を務め、殺人鬼の歪んだ内面をリアルに体現しているのも見逃せない。監督のデヴィッド・グリーコは若くして『ロミオとジュリエット』や『テオレマ』に出演した後、ピエロ・パオロ・パゾリーニやベルナルド・ベルトルッチら名匠たちの下で映画作りを学んだイタリアの映画監督で、日本公開作はこれが初となる。

『アングスト/不安』
最後に、欧米で高い評価を得てカルト化している1983年のオーストリア映画『アングスト/不安』で、こちらは4K版でリバイバル上映される。題材となったのは、1980年にオーストリアで一家3人を惨殺し、終身刑を宣告されたヴェルナー・クニーセク。その異常性を掘り下げるため、監督のジェラルド・カーグルは主人公のクローズアップを多用。さらに、ほぼ全編にわたって主人公の独白をフィーチャーし、身勝手で、ときに支離滅裂な胸の内を吐露させる。サイコパスの頭の中を覗き込んでいるような、そんなつくりに圧倒されるに違いない。主演のアーウィン・レダーは『U・ボート』などで知られる演技派俳優だ。
いずれも殺人鬼の狂気にスポットを当てた作品だが、描き方・見せ方はまったく異なる。ドキュメンタリーのように冷ややかな『ヘンリー』、ドラマ性を重視した『エヴィレンコ』、そして狂人の独白というべき『アングスト/不安』。手法は違えど、いずれも衝撃的な作品であることは間違いない。生命に対する感受性が著しく欠如した男たちの、サイコな恐怖を体感せよ!
3人の非情な男たちを徹底分析!
気まぐれに人を殺める最恐級の連続殺人鬼/ヘンリー

最初に殺した相手は実の母親──と聞くと背筋も凍るが、本人曰く、「母は男を連れ込んで、子どもに見せつける鬼畜だったから」。その言い分には一ミリ程度は同情の余地あり。しかしその後の殺人は勝手気まま。金欲しさでも性欲でもなく、ただ“出会ったから”という理由で犠牲者が決まる。撲殺・絞殺・射殺と、手口もばらつきが激しい。同居人の妹には優しいが行動パターンを踏まえると、単にその日の“気分”でそうしただけ、か!?


『ヘンリー』
1970年代後半から1980年代のアメリカで、300人以上の殺害を自供した、ヘンリー・リー・ルーカスの日常をドキュメンタリータッチで描写した犯罪スリラー。14歳の時に、虐待を繰り返す母親を殺害したヘンリー(ルーカー)。相棒とその妹と奇妙な同居生活を始めるが、次第に殺人への衝動が抑えられなくなり…。ヘンリーは『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士のモデルの1人しても知られている。
2026年8月28日(金)公開
アメリカ/1986/1時間23分/配給:アンプラグド
監督:ジョン・マクノートン
出演:マイケル・ルーカー、トム・トウルズ、トレイシー・アーノルド、キャム・ヘスキン
© 1986 MALJACK PRODUCTIONS
教育者にして殺人犯、真逆の顔を持つ鬼畜/エヴィレンコ

厳格な教師で共産主義者、家では妻と静かに暮らす──と聞くと、近所の“ちょっと堅い先生”くらいの印象だが、実際は重度の小児性愛者で、社会的肩書きと内面がまったく噛み合っていない。女生徒にとんでもない行為をさせようとしてクビになり、そこからタガが外れてしまった。催眠術めいた誘導技術で子どもを連れだしては慰み物に。人の親であれば、絶対に近所に住んで欲しくない人ナンバーワンといえるだろう。


『エヴィレンコ』
1978年から1990年にかけて50人以上の女性や子供を殺害した、ソ連時代最大の連続殺人犯アンドレイ・チカチーロを題材とした犯罪ドラマ。1980年代のソ連末期、学校で問題を起こし、教師の職を解かれたエヴィレンコ(マクダウェル)。次第に殺人衝動に支配された彼は、女性や子どもを次々と殺害。捜査当局は長年にわたり犯人を追い続け、ついに執念深い捜査官がその正体に迫る。
2026年秋 公開
イタリア/2003/1時間58分/配給:アンプラグド
監督:デヴィッド・グリーコ
出演:マルコム・マクダウェル、マートン・チョーカシュ、ロナルド・ピックアップ
行き当たりばったりの無様で滑稽な異常者/K

母親と継父から暴力を受けて育ち、少年時代から犯罪歴を積み重ねてきた。仮出所後は「被害者の恐怖に歪む顔が見たい」という、不気味すぎる動機で行動を起こす。彼いわく、「完璧な計画がある」とのことだが、本人がポンコツ過ぎて順調に事を運べず、計画の方が彼から逃げていく。それでも懲りずに次なる“完璧な計画”を企てては、また失敗。とはいえ人が次々と殺されていくのは事実で、知能犯でないゆえの怖さもそこには宿る。


『アングスト/不安』
仮釈放中に一家3人を惨殺した殺人犯、ヴェルナー・クニーセクの事件当日の異常な心理を徹底的に描いた問題作。1980年のオーストリア、仮釈放されたばかりのK(レダー)は、通りがかりのタクシー運転手を射殺。さらに民家に衝動的に押し入り、家族3人を拷問の末に殺害する。日本では2020年に劇場初公開され、異例のヒットを記録。今回は4Kレストア版として、再上陸を果たす。
2026年秋 公開
オーストリア/1983/1時間27分/配給:アンプラグド
監督:ジェラルド・カーグル
出演:アーウィン・レダー、シルヴィア・ラベンレイター、エディット・ロゼット、ルドルフ・ゲッツ
