遺産の屋敷と一枚の絵画に隠された謎を紐解く、家族と人生をめぐる感動作
パリで暮らす家族に遺された、ノルマンディーの草原に佇む古い一軒家。長い間閉ざされた屋敷から発見されたのは、白いドレス姿の女性が描かれた印象派の作品らしき絵画。絵に描かれた女性と、作者は、いったい誰なのか?一枚の絵画に隠された家族の秘密が解き明かされたとき、それぞれの人生が輝きはじめる―

本作の物語はパリとノルマンディーを舞台に、19世紀ベル・エポック(19世紀末から第一次世界大戦が勃発するまでの20世紀初頭にかけて、新しい文化が繫栄したパリの最も華やかな時代)と現代を行き来する。
なかでも印象派の誕生は美術史における最大のトピックの一つで、劇中でも2026年が没後100年のメモリアルイヤーとなるクロード・モネを筆頭に、ルノワール、ドガ、セザンヌ、ピサロ、ベルト・モリゾ、シスレーなど現在も人気の高い実在の画家が登場する。さらに、錚々たる著名人のポートレートを撮影した写真家フェリックス・ナダールや、ジャン・コクトーに「聖なる怪物」と讃えられた伝説の女優サラ・ベルナール、傑作「レ・ミゼラブル」の著者ヴィクトル・ユゴーらもスクリーンを彩っている。
本作で初めて<時代もの>に挑戦したクラピッシュ監督がこだわったのは、19世紀末のパリを“過去の時代”として再現するのではなく、まるで<現在>であるかのようにスクリーンに立ち上げることだった。
その背景には、当時のパリを写し取った写真家たちへの強い憧れがある。監督は「当時を写したウジェーヌ・アジェやシャルル・マルヴィル、ギュスタヴ・ル・グレイ、そしてナダールといった写真家たちの作品も、私を魅了してやみません」と語り、「彼らが残した写真は、私にとって最初の、そして永遠に色あせることのないイメージです。人生を通して何度見返しても心を動かされます」と、その特別な思いを明かし、さらに「以前から彼らの写真を集めては眺め、そのたびに想像のなかで当時へ時間旅行をしています」と語る。

写真が変えた「絵画」と「世界の見方」
そして本作の重要なテーマのひとつとなっているのが、19世紀に登場した新しいメディア<写真>と<絵画>の関係だ。監督は「以前、エドガー・ドガの展覧会を訪れたとき、写真という新しいメディアが、ごく早い段階から彼の作品に大きな影響を与えていたことを知りました。この映画の脚本も、ある意味ではそのことを描こうとしています。つまり、絵画と写真との関係です」と説明。「印象派が誕生したとき、写真はすでに20年以上の歴史を持っていました。写真という、現実を写しとることができる新しい技術の登場は、絵画を大きく変え、世界の見方そのものを変えていきました。そして、その後の絵画の進む方向までも決定づけたのです」と、写真の登場が芸術にもたらした大きな変化について語っている。

1895年を「再現」するのではなく、<いま>として描く
そんな監督が本作で目指したのは、19世紀末の写真や絵画をそのまま映像として再現することではない。「私が目指したのは、資料として参照した写真や絵画を単に再現することではありません。そこに写っている世界を、自分自身の目で見ている現在として撮りたいと思ったのです」と断言。例えば、1890年代のパリの写真には、何台もの乗合馬車が写っている。「馬が引く、いまで言えば路線バスのようなものです。それなら、映画にも当然登場させなければならない」と語るように、当時の人々にとってはごく当たり前だった風景を、スクリーンの中にも自然に息づかせていった。「私にとって重要だったのは、その時代を『説明する』ことではなく、その時代に人々がどのように生きていたのかを、観客に身体的に感じてもらうことでした」

朝の身支度、食事、牛の乳搾り―“何気ない日常”こそ時代を映す
そのこだわりは、主人公アデルの日常描写にも徹底して注ぎ込まれている。「だから、アデルの日常にも細かく目を向けました。朝起きて、どのように身支度を整えるのか。食事はどのように用意するのか。牛の乳を搾ることが、どれほど当たり前の日課だったのか」「そうした何気ない営みを丁寧に積み重ねることで、彼女が本当に1895年という時代を生きている人物なのだと感じてもらいたかったのです」
さらに監督は、「時代の違いは、大きな歴史的事件だけによって生まれるものではありません。むしろ、日々の暮らしの細部にこそ、その時代らしさは宿っています」と語る。
1895年をまるで<いま、ここにある時間>として描き出したクラピッシュ監督。その細部へのこだわりが、観客を130年以上前の世界へと、まるで時間旅行するかのように誘っていく。
9.18公開『モネと時間旅行』予告編
www.youtube.com『モネと時間旅行』
9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
出演:スザンヌ・ランドン、アブラム・ヴァプレ、ヴァンサン・マケーニュ、ジュリア・ピアトン、ジヌディーヌ・スアレム、ポール・キルシェ、ヴァシリ・シュネデール、サラ・ジロドー、セシル・ドゥ・フランス、オリヴィエ・グルメ、ヴァランタン・カンパーニュ“Coward”
原題:La Venue de l'avenir/2025年/126分/フランス/フランス語/日本語字幕:古田由紀子/1:2.39/5.1ch
配給:セテラ・インターナショナル
© STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques



