「吉田組」は、実はそんなにストイックじゃない
──磯村勇斗さんは背が高く、拓海役の末澤誠也さんは小柄、綾野剛さんはガッチリと、3人の体型が見事にバラバラです。そのアンバランスさが、彼らのいびつな三角関係とうまくリンクしていて、すごく効果的だと感じました。
よく「吉田組って役作りにものすごくストイックな現場なんですね」と勘違いされるんですよ(笑)。でも、実際の僕らの組って全然そんなことなくて、「集中してサクッと撮って、早く飲みに行こうぜ!」みたいな、かなりゆるい雰囲気なんです。それなのに、役者さんたちは自らストイックに仕込んできてくれて…。今回も「僕、何も指示してないのに、この人(綾野さん)勝手に太ってきたな」と思いながら見ていました(笑)。
世間や役者陣の間で「吉田組に行くなら、そこまで作り込んで臨まなきゃいけない」みたいなハードルが勝手に上がっちゃってるんですよね。だから皆さん、気合がすごくて。『ミッシング』の時の石原さとみさんなんかも、肩をぶんぶん回しながら「吉田組なら髪の毛くらい抜きます!」みたいな勢いで来るから、「いやいや、そこまで抜かなくていいですよ!」って止めたくらいで(笑)。
僕としてはそこまで求めていないんですけど、そうやって役者陣が自主的に持ち込んでくれた熱量が、結果的に役同士のいびつなバランスや面白さにつながっているのはありがたいですね。
──とはいえ、磯村さんは撮影の1年前からアーチェリーの土台となる体づくりに取り組み、高度なテクニックを習得したそうですね。
もともと磯村くん、筋トレにハマってたんですよね。そこにアーチェリーの役が来たから、「ちょうどいいや」と思ったみたいで、半年くらい本格的に練習してくれました。始める前から結構、筋肉がついていましたから。そこからさらに大きくなっていった感じです。
現場でも、綾野さんと磯村さんが二人で仲良く筋トレばかりしていたんですよ。撮影が始まったばかりの頃なんて、なぜか制作スタッフまで巻き込まれて、一緒にスクワットをやらされていたりして(笑)。
オフの時にはそんな感じで、綾野さん、磯村さん、末澤さんが男3人ですごく仲良くやっていましたね。傍から見ていて「うわ、あそこで3人が気持ち悪い感じで(笑)、筋トレやってるな」と思って観察していたんです。末澤くんに、磯村くんが「こうやるとめっちゃ効くでしょ? ほら、パンパンになるでしょ?」って言うと、末澤くんが「あ、本当ですね!」とか返してるんだけど、「末澤くん、絶対にやりたくないだろ(笑)」と思ってました(笑)。でも、すごく楽しそうで、現場の空気が柔らかくなるいい時間でした。

──現場の空気が柔らかくなったことが、撮影に良い影響を与えた部分はありましたか。
どうなんでしょうね。そこは3人の中だけの空気感なので分からない部分もありますが、やっぱり仲良くなればなるほど、お互いにやりやすくなる側面はあると思います。変な緊張感もなくなりますしね。
特に末澤くんは二人に比べてキャリアの経験値が違うわけじゃないですか。たとえば、相手が素晴らしいお芝居をしてくれている時に自分がNGを出してしまったりすると、あまり話したことがない相手だと「やばい、次は絶対に失敗できない……」というプレッシャーで、余計にお芝居が固くなってしまうパターンがあるんです。
でも、事前に筋トレなんかを通して関係性を築けていれば、もし失敗してしまったとしても、そこまで過度な重圧を背負わずに次のテイクに臨めると思うんですよね。
もちろん、緊迫した敵対関係を描く作品であれば「現場で仲良くならないほうが良い」というケースもあるのかもしれませんが、今回の彼らの関係性においては、オフでの距離の近さがすごく良い方向に作用していたんじゃないでしょうか。
50代になって最初の1本。実体験の先に広げる新たな表現
──本作では「償い」「赦し」「再生」といった言葉だけでは簡単に片付けられない領域へと物語が着地していきます。本作の制作を経て、監督ご自身の中で新たに見えてきたものはありましたか。
この作品が、僕にとって50代になってからの「1本目」の映画になるんです。だからこそ、今までにない新しいフィールドに足を踏み出していきたいな、という想いが強く湧いてきました。もちろん観客の皆さんから「あっちの方向に行っちゃったんだ……」とガッカリされるような作品にはしたくないですが(笑)、これまでの枠にとらわれず、もっといろいろなテーマや表現に果敢に挑戦していきたいですね。
──ちなみに、吉田監督はこれまでもご自身の体験をベースにした物語を数多く作られてきましたが、実体験のエピソードやネタはまだまだ豊富にあるのでしょうか。
そうですね。ただ、必ずしもすべてが「自分の実体験そのもの」でなくてもいいのかなと思っています。直接的な体験ではなくても、「自分の性格や考え方にも、そういう一面があるな」と思える要素って、誰にでもたくさんありますよね。これからは、純粋に「実体験ベース」という枠にとらわれるのではなく、自分がやってみたいと思った企画の中に、自分自身の内面や性格的な部分をうまく組み込んで描いていく、というアプローチが増えていくかもしれません。そういう意味でも、もっと表現の幅を広げて自由にやっていけたらなと思っています。

<PROFILE>
吉田恵輔 ※吉田恵輔監督の吉は<つちよし>が正式表記。
1975年生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作する傍ら、塚本晋也監督作品の照明を担当。2006年、自主制作映画『なま夏』(06)で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。同年、『机のなかみ』 で長編映画監督デビュー。2008年に小説「純喫茶磯辺」を発表し、自らの手で映画化。2021年公開の『BLUE/ブルー』、『空白』で、2021年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第34回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で監督賞を受賞。『空白』は、第76回毎日映画コンクール・脚本賞、第43回ヨコハマ映画祭で作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞と4冠に輝いた。『さんかく』 (10)、『ばしゃ馬さんとビッグマウス』 (13)、『麦子さんと』 (13)、『犬猿』(18)、『神は見返りを求める』(22)などオリジナル脚本の作品を数多く手がけるほか、人気漫画を原作とした、『銀の匙 Silver Spoon』 (14)、『ヒメアノ〜ル』 (16)、『愛しのアイリーン』(18)などの話題作も監督している。
『mentor』10月16日(金) 全国公開
《人生はちゃんと狂っていく》映画『mentor』本予告【10月16日(金) 全国公開】
www.youtube.com<STORY>
それは運命の再会だった。引きこもりがちな日々を過ごす拓海(末澤誠也)の前に現れたのは、15年前に拓海が起こした花火遊びによるアパートの火事で大火傷を負い、妻子を失った埜本(綾野剛)。恨んで当然の相手なのに、土下座して詫びる拓海を埜本は優しく包み込み、外の世界へ誘い出しては「俺がいるじゃない」と笑いかける。
その日から拓海の人生はキラキラと輝き始めた。眩しいまでにポジティブな助言を授けてくれる埜本を拓海は“メンター”として慕い、急速に距離を縮めていく。
一方、拓海とともに火事を起こした龍之介(磯村勇斗)は、アーチェリー競技と出会って夢を追いかけていた。オリンピックの代表選考を控えた今の龍之介にとって拓海や埜本との再会は、平穏を装ってきた年月とその先にある未来を揺るがしかねず、埜本に触発されて被害者への謝罪にのめり込む拓海にも、不気味なほどに優しすぎる埜本の態度にも違和感を拭えない。
やがて事態はまさかの方面に転がり、償いと赦しでつながった歪な三角関係はもはや行く先を見失ったかと思われたが—。
<STAFF&CAST>
脚本・監督:吉田恵輔
出演:磯村勇斗 末澤誠也 木南晴夏 / 酒井若菜 川上麻衣子 二村仁弥 黒沢あすか 田村泰二郎 / 綾野剛 ほか
配給:エイベックス・フィルムレーベルズ、スターサンズ
© ︎2026「mentor」製作委員会



