アメコミライターとして活躍する杉山すぴ豊さんの連載コラムです。アメコミ関連の映画について、縦横無尽に楽しい知識、お得な情報などをみなさんにお届け。今月は蜘蛛(スパイダー)さんのお話から、蟻と蜂(アントマン&ワスプ)のお話へと流れます。

杉山すぴ豊
アメコミ系映画ライター。雑誌や劇場パンフレットなどにコラムを執筆。アメコミ映画のイベントなどではトークショーも。大手広告会社のシニア・エグゼクティブ・ディレクターとしてアメコミ映画のキャンペーンも手がける。

2019年6月1日追記:最新情報を最下部に追加!/文中一部修正しました

「ヴェノム」はかなりの自信作?

ヴェノム」の日本公開予定が当初の12月から11月2日(金)に早まりました。全米公開の10月に近づけたのです。このニュースを聞いて、僕は本国のソニー・ピクチャーズは相当「ヴェノム」の出来に自信を持っているのでは?と思いました。つまり全米での大ヒットは間違いないから、その熱気が冷めないうちに日本でも公開しようと。

画像: 日本公開予定が早まった「ヴェノム」

日本公開予定が早まった「ヴェノム」

ソニーは「ヴェノム」の後にアニメ映画「スパイダーマン:スパイダーバース」を公開。パラレル・ワールドにいるハードボイルド・タッチのスパイダーマン・ノワールの声をニコラス・ケージが演じることも発表され話題に。

さらに2019年夏は「アベンジャーズ/エンドゲーム」と「スパイダーマン:ホームカミング」の続編「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」が公開。本作はNYを離れヨーロッパが舞台になるらしくホームタウンであるNYを離れる、という意味のようですが、せっかくマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)というマーベル世界に帰郷=ホームカミングしたのに、今度はそのホームから遠ざかる=ファー・フロム?一方でこの新しいスパイダーマン映画にも他のMCUヒーロー(ニック・フューリーかシュリちゃん)が出るとの噂もあり、“ファー・フロム・ホーム”の意味するところはまだ謎です。ジェーク・ギレンホールがミステリオという、スパイダーマンのコミックの中でも人気のある古参のヴィランを演じます。

後味の良さ(笑)が嬉しい「アントマン&ワスプ」

さてスパイダー=蜘蛛の次は蟻と蜂のお話し。MCUの10年目にして、20作目にあたる「アントマン&ワスプ」がいよいよ公開。社会現象化した「ブラックパンサー」、一大イベント映画となった「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」の次という大プレッシャーの中での公開ですが、嬉しくなるような快作! 楽しさ、後味の良さ(笑)という点では前2作を超えます。

感心するのは縮小・巨大化という設定だけで、よくこれだけの見せ場を考えつくなあ、というアイデアの豊かさ。「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」はたくさんのヒーローが出てくるから、各ヒーローの特性=能力に合わせたヤマ場のオンパレード。ヒーロー・アクションのフルコースなわけですが、「アントマン&ワスプ」は“身体のサイズが変わる”という一品料理で満足させてくれるのです。

画像: ワスプが大活躍する「アントマン&ワスプ」

ワスプが大活躍する「アントマン&ワスプ」

考えてみれば1作目の「アントマン」も「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」の後に公開されました。「ウルトロン」のクライマックスはヒーロー軍団と敵の兵団が入り乱れ、街全体が宙に浮かび崩壊する壮大なバトルだったのに、「アントマン」では子ども部屋でミニ・ヒーローとミニ・ヴィランが1対1で戦っているというスケール。でも「ウルトロン」のスペクタクルに負けていない面白さでした。

“アベンジャーズ映画でぐわっと広げて、次のアントマン映画でギュっと締める”、こういうメリハリをつけることで、観客やファンを飽きさせず、いろいろなヒーロー映画の可能性を提示していく、それがMCUのすごいところ。そして、この「アントマン&ワスプ」は、そのタイトルに偽りなくワスプがスマートかつクールに大活躍。今回のアントマンはどちらかというとこの映画のユーモア部分を担当するトラブル・メーカーで、ヒーロー映画としての面目はワスプががんばっている。この先MCUをひっぱっていくのは女性ヒーローということも感じさせます。

そう考えると10周年というメモリアル・イヤーにMCUが「ブラックパンサー」「インフィニティ・ウォー」「アントマン&ワスプ」という3作を公開することには大きな意味がある。「ブラックパンサー」では黒人ヒーローが世界を変え、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」はサノスという悪のヒーローが宇宙に影響を与え、この「アントマン&ワスプ」では女性ヒーローが現状を打破していく、という構成。この3作を連続して公開することによって、MCUに新たな視点をいっきに持ち込んだのです。

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