編集部追記:2019年1月22日に公開した記事を2019年5月10日に一部更新しました。
「女王陛下のお気に入り」
2019年2月15日公開
監督/ヨルゴス・ランティモス
出演/オリビア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ
18世紀初頭の英国王室を舞台に、17人の子に先立たれた孤独なアン女王と、その寵愛を取り合う二人の女の権力争いを描く宮廷ドラマ。女王役のオリビア・コールマンをはじめ、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズの三大実力派女優が共演。監督はギリシアの奇才ヨルゴス・ランティモス。本年度ゴールデングローブ賞でオリビアが主演女優賞(ミュージカル・コメディー部門)を受賞し、アカデミー賞でも本命の一本に。
作品あらすじはコチラから!
編集部レビュー
盛り過ぎの強烈な美意識にトキメキが止まらない
もう圧倒的に好きな映画です。いきなりガッツリ着飾ったおばちゃん二人(オリビア・コールマンとレイチェル・ワイズ)が、きゃっきゃっはしゃぎながら目隠しごっこ始めたり、エマ・ストーンが馬糞を顔にくっつけたまま(ご丁寧にハエまで飛んでる)登場したり、初っ端からやられました。
その後も、美しい物を盛り過ぎて逆に醜くなっちゃった部屋とか、駅のホームほどある長い廊下とか、それらをとんでもないアングルで撮影するとか、耳に残る低重音とか、とにかくすべてが「!」。飛び込んでくるものが強烈すぎてクラクラするけど、物語がわかりやすいから「ロブスター」なんかに比べるととっつきやすい感じです。
このもの凄い世界観に負けない存在感を見せるレイチェル・ワイズとオリビア・コールマンの貫禄というか鬼演技にも感心。さすがのエマ・ストーンも押され気味。
レビュワー:近藤邦彦
編集長。アン王女はもちろん他の二人も実在だそう。かような三角関係もほぼ実話らしく。どーゆう人たちだよ。
監督の作品には常に“毒”がある
思えばランティモス監督の「ロブスター」も風変わりで、けれど深く印象に残る作品だった。彼にかかれば時代劇も“普通”ではいられない。監督の作品で確かなのは、期待や想像の斜め上の世界を見せられるということだけだ。
本作が描くのは、英国女王の寵愛を取り合う二人の側近の女の戦い。エマ・ストーン演じる召使は、貴族から没落した苦い経験を胸に、次第に上昇志向をむき出しにし、権力者の女官長を追い落としにかかる。人間の野心や欲望があらわになるその争いは、悲劇にも見えるし、喜劇的でもある。寓話でも時代劇でも、監督の作品には今の世を映す“毒”がある。
この監督ならではの毒やブラックな笑いをどう受け取るかで作品の評価は変わってくると思う。好き嫌いがはっきりする作品だろう。でもこの独特の味わいがどこかクセになるのもまた事実だ。
レビュワー:疋田周平
副編集長。エマ・ストーンの衣装の色が後半では白が多くなるのは出世の象徴。白をキレイに保つのは裕福な人間の特権だからだそうです。
ランティモス監督流昼ドラということでしょうか
女同士の独占欲って時に男女関係より複雑だったりして、映画でもよく描かれるテーマですよね。今回は18世紀のイギリス王室、国家レベルで繰り広げられる女の野心と嫉妬渦巻く戦いが見ものです。
だけどこの映画で描かれるのはあくまでも日常のあれこれ。豪華な宮廷の中で華麗な衣装を身に纏い展開される女同士のドロドロした日常は、現代にも通じる面白さがあり、まるで少女漫画か昼ドラを見ている感覚。実話なのが驚き。
そうは言っても、一癖あるランティモス監督。それぞれが腹の中に何か秘めているような不穏なキャラで、大人のエンタメに仕上げています。特にオリビア・コールマン演じるアン女王の、愚鈍なのか狡猾なのかわからないような異様な存在感が不気味!反対に男たちが滑稽に描かれていて、中でもニコラス・ホールトのバカっぽさ(褒め言葉です)がツボでした。
レビュワー:阿部知佐子
オスカーノミネートも確実視ということで、身構えてしまったのですが、もっと気楽に見てもよかったのかも… ぜひ楽しんでください。
至る所に光るランティモス感
ざっくり言うと王室のドロドロ劇。このありきたりともいえるテーマを、無機質な質感とシュールとも言える笑いを交えて見せているのがとても斬新で、さすがランティモス監督、と感じました。
絵画のように歪んだ廊下や、窓からの自然光と闇のコントラストなど、ランティモス監督ならではの洗練された美的感覚がそこかしこに感じられ、人間臭いドロドロ劇もどこか浮き世離れしているようにも。そして、それが却って見ている私たちを客観的にさせ、女王とそれを取り巻く人々の滑稽さを浮き彫りにしているようでした。
女王って立派な人に描かれることが多いけど、実際はフツーのおばちゃんってケースもあったんだろうな、と思わせてくれる名演。そしてそれをクスッとした笑いに変えてどこがシニカルに見つめる目線。これぞ、ランティモス・ワールド、という作品でした。
レビュワー:中久喜涼子
ロブスターに鹿、本作にもウサギ他たくさんの動物が。そこに投影される人間との関係性もランティモス・ワールドの楽しみですよね。
悪趣味の向こう側にあるおかしみ
“女王の寵愛を取り合う二人の女性”というランティモス史上最もキャッチーな設定。虚弱でワガママな女王っぷりが激ハマりのオリビア、その美貌が冷酷な参謀感を際立たせているレイチェル、むき出しの野心が意外と似合うエマ。みな嬉々として演じているように見え、3人をキャスティングした時点で本作の成功は約束されていたのではないか。
女王の気を引くためのレイチェルとエマの足の引っ張り合いが滑稽かつ痛快。当の女王も鈍そうに見えてなかなか食えないし。誰にも肩入れできないけれど、誰も不幸にはなってほしくない。なんならずっとこの複雑な関係性を保ってほしいとすら思う始末……。女性陣に比べると影は薄くなるが、アルパカみたいなモコモコウィッグをかぶった男性陣の活躍も忘れてはならない。彼らが作品におかしみを添えてくれているのだから。
レビュワー:鈴木涼子
密かに期待しているランティモスの悪趣味描写は本作でも健在(大スキ)。本来の役割をちっとも果たしていないエンドロールにもご注目を。
アカデミー賞が放っておかない力作に
またわかりにくいヨルゴス・ランティモスかと思ったら、今回はドロドロ宮廷ものだけど、痛快なほどわかりやすくて、アカデミー賞が放っておかない力作に仕上がっていて嬉しい驚き。特に絵作りが上手く、ランティモスの才能を改めて認識。撮影も18世紀英国ということか、キューブリックの「バリー・リンドン」風を意識した?
英国王室のアンというとまずアン・ブーリン(「1000日のアン」「ブーリン家の姉妹」)を思い起こしてしまうが、こんなアンもいたんですね。「思秋期」のオリビア・コールマンがことごとく子供を失ったこの精神不安定の女王を完璧な役作りで熱演。助演と言われるレイチェル・ワイズもエマ・ストーンも、そのパワーバランスの競い合い具合によって時に主役以上に目立つのが、監督の意図なのか女優たちの思惑なのか、不明瞭なところもスリリング!
レビュワー:米崎明宏
名匠アンゲロプロス亡き後、ギリシア映画界の担い手となったランティモス。でも今後の活動拠点は英国におくの?