「君の名前で僕を呼んで」の耽美な世界観で映画ファンをうっとりさせたルカ・グァダニーノ監督。ついに公開が始まった待望の新作「サスペリア」では同名の名作ホラーを大胆にリメークしつつ、独特の美意識を随所にちりばめた新しい作品に昇華させた。監督の細部にわたるこだわりを知れば、より陶酔できること間違いなしだ。(文/清藤秀人・デジタル編集/スクリーン編集部)

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ルカ・グァダニーノ的な“アートホラー”

冷たい雨がしとしとと降りしきる1977年の西ベルリン。街の一角にそびえ立つ古ぼけたダンス・カンパニーに入団した若く美しいダンサーの周辺で、同僚たちが次々と謎の失踪を遂げていく。果たして、事件の背後には舞踏団の血塗られた真実が隠されていた!?

そんなストーリーからまず思い浮かべるのは、奇怪な出来事の数々と、やがて始まる血みどろの殺人シーン、かも知れない。でも、「サスペリア」はいわゆるスプラッタムービーとは違う。冷戦時代のベルリンの頽廃的なムードをそのまま取り込んだような女性だけのバレエ団が共有する、誰にも知られたくない秘密のベールが、1枚また1枚と剥ぎ取られていくスリルとサスペンス。やがて訪れる衝撃的で深い着地点。斬新でエロチックなコンテンポラリー・ダンス。

映画と同じ時代にドイツで流行したジャーマン・ロックにインスパイアされたくぐもったサウンド。質素な素材で仕立てられた女性たちのリアルクローズと、それとは真逆のボンデージな舞台衣装、等々。どれもが斬新でおしゃれ。監督のルカ・グァダニーノが同じイタリアの名匠、ダリオ・アルジェントの代表作にオマージュを捧げた同名のリメイクは、演出、テーマ、色彩、音楽、衣装とすべてが独創的で、“アートホラー”と呼べる仕上がりだ。

ディテール01:ナチスの面影が残る時代背景

画像: ディテール01:ナチスの面影が残る時代背景

まずは、物語の鍵となる時代背景について考えてみよう。1977年の西ドイツでは、極左組織、ドイツ赤軍によるテロ事件が相次いだ。後に“ドイツの秋”と呼ばれる一連の出来事は、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーやフォルカー・シュレンドルフ等、ドイツを代表する名匠を含めた計10人の監督によるドキュメンタリー「ドイツの秋」(1978)に映像として残されている。

そんな激動の時代は、同時に、いまだにナチスドイスの残像を引き摺ってもいた。ナチスは映画の重要な要素に使われているし、一方で、大胆なダンスの振付や衣装には、過激な時代でこそ生まれた前衛的なセンスが反映されている。時代と物語はしっかりとリンクしているのだ。

ディテール02:観客を戦慄させるトム・ヨークの音楽

次に、音楽だ。アルジェント作品では原色を使った色彩や照明と共に、イタリアのプログレッシブ・ロックバンド、ゴブリンのメタリックなサウンドが、何度も繰り返し流れていた。観客の脳裏に映像より音が擦り込まれるくらいに。

それに対し、本作では、グァダニーノはイギリスのロックバンド、レディオヘッドのヴォーカル、トム・ヨークに音作りを依頼。前作とは異なるオリジナルの音楽を必要としていた監督の願いに応え、ヨークは1960年代後半からドイツで流行した“クラウトロック”を映画のために再現。ロック、ファンク、ジャズを合体させた不気味で、聴く者を不安がらせるサウンドもまた、時代の雰囲気を正しく音に置き換えたものだ。

ディテール03:見る者に解釈を委ねるダンス

映画の目玉になるのが、ダンスだ。これがとにかく凄い。感情や空想を一瞬にして動きに替え、動物のように這ったり、腕や脚を突き出したり、横たわったりするダンサーの踊りとも、祈祷とも、呪いともとれるアクションが何かを引き起こす場面が、劇中で最大の見せ場でもあるのだから。ダンスと美術、またはファッションとを融合させた画期的なアートワークで知られるフランス系ベルギー人のダンサー兼振付師、ダミアン・ジャレが、やはりグァダニーノの依頼ですべてのダンスシークエンスを演出している。ジャレは日本人彫刻家、名和晃平とコラボレートした舞台で日本公演も行っている、この分野では知る人ぞ知る存在だ。

それを見ると、裸のダンサーたちが体を捻り、肉体そのものを彫刻の如く見せかけている。それは、映画で女性ダンサーたちが挑戦する肉体表現に通じるもの。もしかしてこれを機に、解釈を観客に委ねるコンテンポラリー・ダンスの魅力にどっぷりハマる人が増えるかも知れない。

ディテール04:時代感覚に優れた衣装

画像1: ディテール04:時代感覚に優れた衣装

衣装はどうだろう。担当しているのは過去に「胸騒ぎのシチリア」(2015) 「君の名前で僕を呼んで」(2017)と2度グァダニーノ作品に参加しているイタリア人コスチュームデザイナー、ジュリア・ピエルサンティだ。女性たちが羽織る分厚いコート類やヒールが高いブーツは、時代の流行を敏感に吸収した物。「君の名前で僕を呼んで」では映画と同じ時代を背景にしたエリック・ロメールの「海辺のポーリーヌ」(1983)を創作のヒントにして、ラコステのポロシャツやフィラのショートパンツ等を着崩した状態で俳優たちに提供したように、本作でも彼女の時代感覚は鋭い。

また、舞踏団を率いる振付師、マダム・ブランに扮するティルダ・スウィントンが着る布をたっぷり使ったカーテンのようなガウンや前記のステージ衣装も、これまたピエルサンティならでは。それらは、バレンシアガ、ランバン、ディオール・オム、ミッソーニ、フェンディと、ヨーロッパを代表する伝統的ブランドを次々と渡り歩いてきた、彼女の知識とキャリアが存分に生かされた逸品の数々だ。

画像2: ディテール04:時代感覚に優れた衣装

「君の名前で僕を呼んで」で北イタリア、ロンバルディアの太陽と緑を画面に取り込み、グァダニーノの信頼を得たタイ人の撮影監督、サヨムプー・ムックディプロームが意識したという“冬色”にも着目したい。氷のように冷たい雨が降る屋外だけではない。舞踏団内部にも原色は控えめにして、背景も衣装も意図的に中間色で統一されている。それは、色彩が氾濫していたオリジナルに逆行することでリスペクトを現した、監督やスタッフのこだわりの証。このように、ディテールをチェックすると余計に興味をそそる。それが、ルカ・グァダニーノによる「サスペリア」なのだ。

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