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人を嗤うようなヤツは笑い飛ばせばいいんだよ
アカデミー賞最有力候補っていうので襟を正して見に行ったら、思いっきりコメディーでびっくり。よくよく気づけば、監督は過激ギャグでおなじみのピーター・ファレリー。どうなっちゃうんだ!?と思っていたら、これが実に心温まる快作で、受賞するとかしないとか関係なしに笑顔で見られる一本。
おいおい、人種差別をテーマにした映画で笑っちゃいかんだろと。ごもっともですが、この映画で笑い飛ばすのは差別意識に凝り固まった人々、それに縛られ自分で考えようとしない人々。思えばファレリー監督は昔からそうだった。ただ少々お下品だっただけ(笑)。
正直、人種問題は今も世界中に存在して人々を分断している。だからこそ、この映画が言いたかったことはただ一つ。トニーとシャーリーの人種を越えた友情は死ぬまで続いたという輝ける“真実”。この映画、実話というのが楽しい。
レビューしたのは:近藤邦彦
編集長。ヴィゴ・モーテンセンの見事な食べっぷりに感動。さっそくその足でケンタッキーフライドチキン行っちゃいました。
壁のない世界の美しさがここにはある
この映画のことを思い出すと思わず笑顔になってしまう。まるで自分の幸福な旅の記憶を思い出すように。勇気が人の心を変える。50年前に存在したふたりの友情がそれを教えてくれる。心に大事にしまっておきたくなる、宝物のように愛おしい作品だ。
インテリな黒人ピアニストとガサツなイタリア系用心棒の旅は、最初から波乱万丈だ。差別の残る時代だし、彼ら自身にも壁がある。でも彼らの壁は次第に取り払われていく。心打つ手紙の書き方や美味しいフライドチキンを通して。人は一人ひとり違う。だから何かを分け合うことができる。
行く先々でふたりは何度も差別の壁にぶつかる。でもその先にはささやかな奇跡が待っている。壁のない世界の美しさがそこにある。この映画を思い出すとふたりの笑顔が浮かぶ。そこにある希望が胸を幸せで満たしてくれる。
レビューしたのは:疋田周平
副編集長。この二人の旅にはじつは続きがあって、その後すぐ一年近くのツアーに出たそうです。それもまた映画化してほしい…。
笑いの中にある切なさと愛に胸がしめつけられる
マフィアも集まるクラブの用心棒で荒くれ者のトニーと、教養と気品を持ち合わせたピアニストのドン・シャーリー。まるで違う二人の、互いを全く受け入れようとしないちぐはぐな会話が絶妙に面白い。
コメディ映画で有名なファレリー監督が満を持して“人間ドラマ”を撮ろうと決意した作品がこの「グリーンブック」だったそう。長年観客を笑わせてきただけあって、チキンを食べるだけで笑えてくる演出はさすが。それに応えるヴィゴ・モーテンセンのコメディ・センスも最高でした。
荒々しいけど、愛する家族がいて友達も多いトニーと照らし合わせるように、ドンの抱えた孤独が明らかになるにつれ、不条理な差別に対する怒りとともに胸を締めつけられるような切なさが押し寄せてきます。全体を笑いで包み込みながら、愛に溢れる二人の男の友情に最後は感動の涙でした。
レビューしたのは:阿部知佐子
ドン・シャーリーは、天才的な才能ながら音源が少なかったのもあり埋もれた存在だったそう。彼の人生に光が当たったことにも感動です。
デコボココンビにまた会いたい
ガサツで無教養なイタリア系用心棒と、インテリで天才的な才能をもつアフリカ系のピアニスト。性格も育ちも全く正反対なふたりの、ズレながらも絶妙に成立つ珍道中。もちろん時代は60年代、差別がより厳しいという南部を目指す道のりは簡単ではありません。
元々はトニーも差別意識を持っていた人。それが旅を通じてシャーリーの才能と人柄に触れて、自然とその垣根を越えていくのがとても清々しく感じました。特に最後の地で待ち構える“事件”の理不尽さには、見ている私も悔しくて言葉を失うほど。でも、それに対するトニーの行動と友情、シャーリーの決断は感涙ものでした。
実話だからありえませんが、トニーとシャーリーのデコボココンビの物語、続編とかでまた会いたいなあ…、そう思わせてくれるヴィゴとマハーシャラの息の合った素晴らしい演技、必見です。
レビューしたのは:中久喜涼子
この作品、空腹時鑑賞注意です。ひたすら食べるヴィゴ。昼食を抜いて鑑賞した私は、しばらくケンタッキーが頭から離れませんでした。
極端なまでに異なる境遇が生み出したハートフル
白人と黒人、既婚と未婚、饒舌と寡黙……もはや共通点は性別だけではと思えるほど真逆の運転手トニーとピアニストのシャーリー。時は1960年代、彼らは色濃く人種差別が残る米南部へツアーに出た。極端に違う人生を歩む二人の軽妙かつ微笑ましいやりとりに心地よく身を委ねていると、忘れた頃に差別の描写がやって来る。
それは宿泊先、トイレ、あるいはレストランで。波のように寄せては引いて、引いては寄せてと繰り返す。差別されるたび物分かりよく受け入れるシャーリー。トニーに出会うまではこうして静かに飲み込んできたのかと思うと胸が詰まる。だからこそ後半で彼が感情を爆発させるシーンは重い。
モーテンセンは初めてオスカー候補になった「イースタン・プロミス」を思わせる運転手兼用心棒。“腕っぷしが強く性根が優しい男”の地位を確立しつつある。
レビューしたのは:鈴木涼子
ヴィゴ様の食べっぷりが超印象的。運転中にフライドチキン、ベッドの上でピザ…お行儀悪いのに、どうしてあんなおいしそうに見えるんでしょ?
あのファレリーが監督したことに驚きと納得
人種差別の残る時代の米南部を舞台に白人と黒人の理解を描いた映画って、「野のユリ」とか「夜の大捜査線」とか「ドライビング・ミス・デイジー」とか、それこそ最近の「ヘルプ」「ドリーム」まで枚挙に暇がないほどアカデミー賞に好かれてますよね? この作品もまさにその典型。今年のオスカーは混戦だけど、従来の『保守的なんだけどリベラルな』会員に一番好まれる映画はこれだと思う。
もちろん作品自体も優れているけれど、監督があの?ピーター・ファレリーというのが驚きのような納得のような。確かに彼(と弟)のコメディーは、偏見や差別に基づいたギャグだったものね。今回は過激なことはせず柔和な感動編に持ち込んだところが勝因なのだろうが、監督賞候補になれず残念。その辺のハリウッド・ピープルの本音が測りかねるけど、それとは別にぜひ見るべき映画でしょう。
レビューしたのは:米崎明宏
弟のボビー・ファレリーにインタビューした時、ナイスな常識人で驚いたことも。本当はそういう兄弟なんでしょう。