マーベル・グッズ・ショップでいまいちばん人気といえばグリヒルのキャラクター・グッズ。可愛らしくて楽しくて、私も大好き!というファンも多いはず。そのイラストを描いているグリヒルは、ササキさんとカワノさんの女性二人によるアーティスト・ユニット。実はお二人は、マーベルをはじめ
とするアメコミのアーティストとして本国でも活躍中。
グリヒル Gurihiru
ササキさんとカワノさん、日本人女性二人のアーティスト・ユニット。学生時代からの友人同士で、札幌で会社勤めをしていた頃、マーベルが日本人アーティストを募集していると聞いて応募。『パワーパック』『グウェンプール』などを手掛ける。ちなみにアメコミでは脚本を書くライターと作画担当が分かれていて、グリヒルは作画担当。ササキさんが絵を描いてペン入れまでし、カワノさんが彩色するカラリストを務めている。
それでは、グリヒルさんのイラストを見ながらインタビューの内容を見て行きましょう
顔出しのキャラクターは難しい。だから一番大変だったのはドクター・ストレンジですね
ーーグリヒルさんが手がけたグッズはすごくキュートで大人気です。やはり可愛らしい絵柄を描いてほしいと言われたのですか?
ササキ「可愛らしくして、とは特に言われませんでした。二人のテイストでと言われただけで、細かいリクエストはなかったですね」
カワノ「実は最初は、赤ちゃんのイメージでデザインしたんです。そもそもコミックで『A-BABIES VS. X-BABIES』という、アベンジャーズ対X-MENを赤ちゃんバージョンにして戦うコミックを描いたことがあって、そのイメージでイラストにしようと」
ササキ「例えばキャプテン・アメリカなら、頭の“A”の文字が小文字の“a”になっていたり、アイアンマンがオムツ姿とか(笑)」
カワノ「おしゃぶりをくわえていたりね」
ササキ「ターゲットが子供だと思っていたから。ところがそうしたらグッズとしては子供向けすぎるから、頭身をあげてほしいと」
ーーそれで2頭身から3頭身になった。
ササキ「はい。そこで大幅にデザインが変わり、全体的に四角い感じでガッチリしたものになりました。あと、主線つまりキャラクターをかたどる黒い線があると、見た目が強くなってしまうから、主線をなくして柔らかい感じにしました」
ーーキャラクターは自分で選ぶのではなく、誰々を描いて下さいと頼まれるんですか?
カワノ「最初はアベンジャーズのメンバーとロキとスパイダーマンとヴェノムでしたね」
ーーロキはとっても人気がありますが、あのデザインに至るまではやはり大変でしたか?
ササキ「映画の俳優には似せずに、コミックコスチュームが主体でと言われているんです。だからロキもコミック版をベースにデフォルメを。これはあっさりとできあがりました。自分もロキ好きなので、もうこれしかないと」
ーー私個人としてはサノスの絵が大好きです。
ササキ「2回目のオファーで来たのが、サノスとドクター・ストレンジとブラックパンサーとウィンター・ソルジャーでした。サノスは最初、怖いイメージで描いていたんです」
カワノ「眼の白目部分が黒で赤い瞳という感じ。もともとのコミックの絵に寄せてね」
ササキ「そうしたら、サノスにも人間的な優しさがあるだろうからそれがほしい、と」
カワノ「映画版でいうところのガモーラとのやりとりとか。親心とか」
ササキ「だから眼が黒だと悪役すぎる、と。私たちとしては黒で行きたかったのですが」
カワノ「もっと怖くしたかったんです。でも結局は白になって、今のデザインになりました。デザイン的に一番苦労したといえば、ドクター・ストレンジになるでしょうね」
ササキ「他のキャラクターはマスクとかしていますが、ストレンジは顔出し。しかもぶっちゃけて言ってしまえばオジサンの顔(笑)。そんなオジサンのキャラをどう可愛くするか」
ーーそこは難しそうですね(笑)。
ササキ「最初はハルクのように点目にしていたんです。これなら可愛いしイケると思ったんですが、やっぱり白目部分が欲しいと言われて。結局、何回も書き直しましたね」
ーー顔出しという意味ではブラック・ウィドウは?
ササキ「女性は描きやすいんですよ。あと、ホークアイはコミック寄りだからサングラスをかけているし。ストレンジ以外はそんなに苦労はしていないですね」
カワノ「もともとササキはデフォルメが得意なんです。昔、趣味で描いている時から、よくデフォルメ・デザインはやっていたので」
ササキ「『スポーン』なんかをデフォルメ・デザイン化して雑誌とかに投稿していたんです」
カワノ「だから、たとえばヴェノムにしても、特徴があるからそんなに苦労しないんです。ブラック・ウィドウもわりと今まで描いていたタイプだったし」
グッズのことは知らないので東京コミコンの時、その多さにひっくりしました
ーーグリヒルさんがイラストを描く時に気をつけていることは?
ササキ「もともとディズニー・アニメーションの影響が大きくて。ディズニー作品はとにかくいっぱい見たし、アニメーターが書いた書籍もたくさん読みました。そうやって自分なりに研究して学んだのが、全部を曲線では描かないこと。例えば腕なら(実際に描きながら)、こちら側の筋肉を曲線でイメージしつつ描いたら、もう片側の線は直線で表す、といった風に。だから描く時は常に曲線と直線を混ぜるように意識しています」
ーーディズニーも含め海外の影響が大きいと。
カワノ「私はカラーリングが担当なので作画には絡んでいませんが、やはり色合い的には昔のカートゥーンの背景とか好きですね。もちろん日本のアニメもたくさん見ていますが、影響という点ではフランスのバンド・デシネの柔らかな色合いの雰囲気とか大きいかも。でもカラーのことで苦労したことはないです。そもそも塗る際に、これがどんなグッズになるかとか知らされてないですし」
ーーえ、知らないんですか!?
ササキ「私たちは一体一体の画を描くだけで、グッズになる場合、デザイナーの方がデザインして下さっているんです。例えば『アイアンマン』では2ポーズ描いていますが、それがどんなグッズになるのかはまったく知らないんです。だから東京コミコンの時に見てビックリしました。たくさんの商品が発売されていたので(笑)」