古澤利夫
元20世紀フォックス映画宣伝部長。53年間にわたって817作品もの映画の宣伝・製作に携わってきた映画業界随一の大ベテラン。
「一人ひとりの感動のエネルギーが世界を変えるんです」
平成という時代は、平成元年2月に公開された「ダイ・ハード」というアクション映画の傑作と共に幕を開けました。この作品は、極限状態の中でヒーローが活躍するという、アクション映画の大きな流れを作りました。「ダイ・ハード」がなければ「クリフハンガー」も「スピード」もなかったといっても過言じゃない。さらに驚くことに、この映画には、後の9・11アメリカ同時多発テロを予見するようなテロリストが描かれていました。“映画は時代の鏡”だとか“映画は歴史を作る”とか言いますが、この映画の公開後、FBI、CIAが監督や脚本家にテロリストの行動をどうやってリサーチしたのか聞き込みに来た。そしてそれが新しい捜査方法になりました。
続いて平成6年に公開した「スピード」も、「ダイ・ハード」「ダイ・ハード2」の成功があったからこその宣伝ができました。ヒーローもブルース・ウィリスより若いキアヌ・リーブスと新鮮だったこともあり、我々はキアヌをスタアにしようとTVの担当者、新聞、映画誌、女性誌、情報誌の編集者やライターに見せ、じっくり売り込みました。史上初となる10万人もの一般試写会を行ない、第7回東京国際映画祭のオープニングも飾ることができました。キアヌはマネージャーと二人だけで来日したのですが、とても真面目な青年で、取材の合間をぬっては次回作の舞台『ハムレット』の台詞の練習をしていたのが印象に残っています。その結果「スピード」は日本で「ダイ・ハード3」に次ぐ第2位、配収45億円をあげました。
「スピード」とは逆に、第9回東京国際映画祭のオープニング以外、試写を行なわなかったのが平成8年の「インデペンデンス・デイ」。これは観客の飢餓感を煽ろうという作戦。その代わりフォックス映画史上最大のプロモーションを行ないました。運輸省、環境庁など官公庁とタイアップして全国にポスターを貼ってもらう。鉄道、飛行機、タクシー、さらに百貨店、コンビニまで、とにかく人が集まるところの企業すべてとタイアップを実現させました。今でこそよく見る宣伝広告ですが、当時は前例がなく門前払いは当たり前。それでも「スター・ウォーズ」「ホーム・アローン」「スピード」「ダイ・ハード3」「ブロークン・アロー」など、一作ずつ実績を積み重ねてきた成果もあり、「インデペンデンス・デイ」は配収66億5000万円、1位のヒットとなりました。
このプロモーションを評価し、日本は世界一のチームとだ信頼してくれたのが本社のビル・メカニック会長。彼は「タイタニック」の全責任を負った人で、日本でワールド・プレミアを開催したい!という夢のような話の実現にも一役買ってくれました。けれどもそこに至る道のりは悪夢のようでした……
「タイタニック」成功までの道のりとは?続きはスクリーン2019年5月号にて!
ヒット作の舞台裏が楽しめる一冊
『映画の力』古澤利夫著
J・キャメロン、G・ルーカスらからの信頼も厚い古澤氏が映画の世界に携わった53年間の仕事の記録。ヒット作品の舞台裏、詳細な映画史など、映画ファンからマニアまでますます映画を好きになるような面白い1冊です。