ロマン・デュリスが語る「パパは奮闘中!」
舞台挨拶に胸元に自らデザインしたというバッジを付けて現われたデュリスは、真摯に本作について語ってくれました。
「何かが欠けていた主人公がいろんなことを吸収して変わっていく成長物語が好きです」
日本でもヒットしたロマンティック・コメディ「タイピスト!」の恋に臆病な上司役などで知られるフランスの人気男優、ロマン・デュリスが最新作「パパは奮闘中!」のため、14年ぶりに来日を果たした。演じているのはオンライン販売の倉庫に務め、家事は妻に任せきりの父親の役。ある日、突然、妻が家を出てしまい、残された彼はふたりの子育てに奮闘する。そんな“がんばる”パパ役を好演して4度目のセザール賞主演男優賞の候補となっている。

舞台挨拶には一緒に来日したセネズ監督と登壇
物語がアメリカ映画の名作「クレイマー、クレイマー」を思わせる設定なので、まずこの映画のことを尋ねると――
「『クレイマー、クレイマー』は大好きです。あの映画では妻が突然、家を出て行きますが、この映画も主人公が家に戻ると妻がいない。妻に捨てられた男の物語と考えることもできますが、前向きに考えると別の人生に向き合う男の話ともいえます」
結局、主人公は妹や知人たちの力も借りながら子育てに励み、新しい自分を発見していく。
「この映画の主人公は妻が家を出ることで、より成熟した人間になっていきます。それまで他人に気づかいのできなかった人物ができる人間に変わっていくのです。僕としては人間の成長物語にひかれているかもしれません。何か欠けていた人物がいろいろなものを吸収して変わる。そんな設定が好きです」
今回の映画では即興演技に挑戦することで、男の内面の変化をリアルに表現していく。
「こういう演技スタイルは経験がなかったので新しい挑戦だと思いました。ベルギー出身のギョーム・セネズは別の映画を見て才能ある監督だと思っていました。即興演出は彼のように実力のある監督にしかできないと思います」
期待の新鋭監督との新作に満足しているデュリスだが、過去にも「スパニッシュ・アパートメント」のセドリック・クラピッシュや「真夜中のピアニスト」のジャック・オーディアール、「彼は秘密の女ともだち」のフランソワ・オゾンなど、フランス映画界を背負う実力派監督たちとコンビを組んで多彩な演技を見せてきた。
「演出のスタイルがみんな違うので、それに合わせて演技を変えます。俳優と監督は信頼に基づいて契約を結んでいるような関係なので、どんな役でも受け入れます。まわりでは順応性が高い男優と考えられているようです」
ハリウッド映画に出演したこともあり、「ゲティ家の身代金」では誘拐犯役を演じていた。「監督はリドリー・スコットで、大掛かりの映画作りに圧倒されましたが、監督はすばらしく、俳優のことも大事にしてくれました」
俳優という仕事については「俳優の仕事は楽しいし、心地いいです。容易な仕事ではありませんが、この仕事のおかげでこうして日本にも来ることができるんです」と語っていた。
取材中は終始穏やかで笑顔を見せ、シャイな青年の雰囲気も隠し持っていたデュリス。自身もアーティストとして活動していて個展も開催。そんなセンスの持ち主だから、実力派監督との挑戦にも前向きに取り組めるのだろう。
「パパは奮闘中!」
2019年4月27日公開*
原題:私たちの奮闘/ベルギー=仏/2018年/1時間39分/セテラ・インターナショナル配給
監督:ギヨーム・セネズ/出演:ロマン・デュリス、ロール・カラミー、レティシア・ドッシュ、ルーシー・ドゥベイ、バジル・グルンベルガー
©2018 Iota Production / LFP – Les Film Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma